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絆の力

 憤怒の悪魔が人間の姿をしていた頃は、「ずっとセリカたちのターン!」であったが、悪魔が本来の姿を取り戻してからは、「ずっと悪魔のターン」であった。


 悪魔は火球に雷撃、氷槍などの魔法を使いこなし、セリカたちを追い込む。

 それだけでなく、化け物じみた身体能力も見せる。


 残像を残しながらフィルの懐に入り込むと、たったの一撃で防御魔法ごと何メートルも吹き飛ばすのだ。


 吹っ飛ばされたフィルは壁にめり込む。


 フィルだけでなく、ダークは《重力》の魔法で押しつぶされ、クレーターの中でうめいていた。


 ホワイトは右肩から大量出血するほどの斬撃を喰らっていた。

 この場にいるもので傷付いていないのはセリカだけだ。


 それもフィルが守っていてくれているからだが、いつまでも彼女たちに甘えているわけにもいかない。


 セリカは彼女たちの保護者にして、元魔法科のエリートなのだ。

 なので持ってきたトネリコの枝に魔法を付与すると、黄金色に輝かせる。



「黄金の小枝よ。

 悪しきものの心を切り裂け。

 聖なる力で敵を屈服させよ」



 セリカはそう言うと、自身の魔力をすべてトネリコの枝に注ぎ、悪魔を切り裂く。

 セリカの剣は悪魔に到達し、悪魔を切り裂く。

 意外にもセリカの剣戟は相手に通用した。


 幼き頃から剣術も習っているセリカ。叡智の騎士ローエン仕込みの剣術は剣士科の生徒にも負けない。


 それにセリカの魔力の才は、神聖属性に傾いていた。聖なる属性は悪魔に対して特効があるのだ。通常の二倍のダメージを与えることができる。


 ――できるが、元々の力量が離れすぎていた。損傷した肉体を即座に回復できる憤怒の悪魔に取ってセリカの攻撃など児戯にも等しかった。


 小蠅でも払うかのように右手を震う悪魔。吹き飛ぶセリカ。それだけで戦闘不能となる。


 口から吐血すると、その場につき伏せるが、悪魔は容赦なく追撃を加えてきた。



「侯爵、令嬢セリカ。お前はここで死ね! 今までフィルローゼの後見人、ご苦労だったな」



 地獄の氷壁よりも冷たい言葉とともに振り下ろされる台詞、悪魔は容赦なく拳を振り下ろし、セリカを粉砕する。


 ――ことはなく、それを受け止める存在がいた。

 銀髪の少女、王立学院の制服をまとった少女だった。

 彼女は全身に魔力と殺意をまとわせていた。


「……セリカを傷つけるものは許さない」


 渾身の一撃を易々とガードするフィルに悪魔は驚嘆する。


「馬鹿な。分身し、力が衰えているお前のどこにその力が」


「ボクはセリカを守るためならばどこまでも強くなれる!」


 フィルはそう言うと、

「ぬおおおおー!」

 と憤怒の悪魔を弾き飛ばす。


「……小娘の力じゃない」


 憤怒の悪魔はフィルを美しい少女の姿をした『なにか』と解釈すると、すべての力を振り絞り、殺すことにする。


「その肉体と血を奪い去って完全復活を遂げてくれるわ」


「それは無理よ!」


 と横から現れたのは、黒いドレスをまとったフィルだった。

 ダーク・フィルは、渾身の力を込めながら、憤怒の悪魔の鼻っ柱を殴る。


「本家フィルはどこまでも強くなる!!」


 と横に吹き飛ばすと、今度は白いドレスを着た少女が悪魔を蹴り上げる。


「誰かのために何倍もの力を出せるのが本家フィル! だから三分の一に分裂しようが、関係ない」


 空中に飛ばされた憤怒の悪魔、ダークとフィルは《転移》の魔法でそれを追撃する。


「「憤怒の悪魔! エスモアを呪い、セリカを傷つけたお前に生きる価値はない! このまま消えちゃえー!!」」



 ダークとフィルはそのままふたりで悪魔を空中から叩き下ろす。メテオスマッシュというやつだが、なすすべなく地面に叩き付けられた瞬間、ぞわり、と悪寒を感じた。


 人智を超えた力の存在を感じたのだ。悪魔でさえ凍り付くような魔力の波動を。

 それは銀髪の少女フィルの体内から感じた。

 彼女はその魔力を両腕に込めると体外に輩出しようとする。


「く、くそ、やられて堪るか」


 と防御壁を作り出す。

 分厚い氷のような防御壁。

 フィルはそれに向かって全魔力を解き放つ。


「この世界にあるすべての優しさを包み込む魔力の波動! 悪しき悪魔を滅ぼす力を貸して!」


 そんな枕詞のあとにもたらされたのは、フィルの超弩級の禁呪魔法だった。


「喰らえ! 必殺の世界終焉(ジ・エンド) !!」


 フィルから放たれた禁呪魔法は分厚い氷のような憤怒の悪魔の防御壁を三分の一ほど溶かす。


 悪魔が本気になって作った防御壁を瞬時にそれだけでも溶かすのはすごいことなのだが、今、フィルはさらなる力が欲しかった。


 悪と邪悪を討ち滅ぼせる正義の力が。

 フィルの分身はその力を与えてくれる。

 魔力を解き放っているフィルの後ろに立つダークとホワイト。

 彼女たちは決心するかのように振り向く。

 ぽん、とフィルの肩に手を置く。

 それですべてを悟ったフィルは言う。


「君たち、ボクの身体に戻る気だね」



「……ああ」

「……はい」



 ふたりは同時にうなずく。


「あたしたちが戻ればお前はいつもの力を取り戻す。いや、いつもより強くなれる」


「でも、君たちが消えちゃう。せっかく、お友達になれたのに」


「なにを言っているのですか、私たちは消えるわけではありません。ひとつになるのです」


「ひとつになる?」


「そうだぜ。あたしたちはいつまでもお前の側にいる」


「私たちはいつもあなたの中にいる」


 ふたりはそう言い切ると、光となってフィルの中に戻る。

 するとフィルの身体に力があふれ出す。


「……こ、これは!?」


 今までにない力、かつてない力を取り戻したフィル。

 悲しくはない。ふたりはフィルの心の中にいるのだから。

 悪いフィルも善いフィルも自分の中にいるのだ。

 いつでも再会することができるのだ。

 だからフィルは笑顔で泣きながら、すべての魔力を魔法として放出した。


 するとフィルから解き放たれたエネルギーの波動、禁呪魔法、世界終焉(ジ・エンド)が、憤怒の悪魔の最後の防壁を溶かしていく。


 あれほどの防御力を誇った防壁が、熱したバターのように溶けていく。

 その光景をまざまざと見せつけられた悪魔は唸る。――いや、叫ぶ。



「ば、馬鹿な! 有り得ない! この娘の力はなんなのだ!?」



 それが憤怒の悪魔の最後の言葉となった。

 防壁を破壊された悪魔はそのまま世界終焉(ジ・エンド) に呑まれる。

 光の中に消え去る。

 フィルはこのようにして古代の悪魔を打ち払った。

 またしても悪魔を駆逐したのだ。

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