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王立学院に到着したよ

 馬車によって街道をひたすら走る。

 ガタゴトと揺られながらそれに身を任せる。

 不思議な気分だ。自分の足以外で大地を進む感触というものは。

 山では熊の背に乗っていたが、あれとも感覚が違う。

 熊はのっそのっそ、馬車はすいすい、という感覚だ。


 そもそも熊とはスピードが違う。馬車は人間が小走りするくらいのスピードであった。


 まさに文明の利器であるが、速度よりも楽しいのは窓から見える景色だろうか。

 街道沿いを走る馬車。外には平原が広がっている。


 山育ちのフィルにはただただ珍しかったし、地平線というやつはいつまで見ていても飽きなかった。


 ただ、窓の外から見える山。爺ちゃんの工房がある山が小さくなっていくと、いよいよ自分は旅立つのだな、という感慨に包まれる。


 フィルは生まれてからずっとあの山で暮らしてきたのだ。


 山の仲間たち、大熊、猿、リス、カーバンクルなどは今もあの山にいる。そしてこれから行く王都にはいないと思うと切なさに包まれた。


 ただし、心にあるのは感傷だけではない。初めて訪れる王都という場所に今からわくわくしていた。


「セリカ、王都はさっきまでいた宿場町よりも大きいってほんとう?」


「本当ですわ。比べものにならない大きさです」


「すごい」


「すごいのです。見ればすぐに気に入りますよ」


 とセリカは予言するが、その予言は当たった。


 馬車に揺られこと数日、その間、休息や宿泊などもしたが、旅は快適安全であった。ドラゴンや怪鳥の襲撃もない。


 徒歩による疲れもないので、いささかの疲労もなく王都に到着する。

 窓の外から見える壮大な景色。

 王都に近づくに連れ、街道は整備され、建物が増える。


 法律によって王都と規定されているマイルストーンを超えると、遠くには見たこともないような大きな建物があった。


 この距離からでもあんなにも大きいのだから、近寄ったらどんなに大きいことか。想像に難くない。


 フィルは素直に感激する。


「す、すごい。あんなに大きな建物がいっぱい」


「あれは時計台ですね。街のシンボルです。それにその横にあるのは聖教会です。皆、あそこで祈りを捧げます」


 そして、と彼女は続ける。


「街の中心にある丘。あの一際立派なお城が、この国の国王、アレクサンデル三世がお住まいになっている宮殿です」


「あれがとーちゃんが住んでいる家なのか。でかい」


「ですわね。いつか、あれはフィル様のものになります」


「す、すごい。あんなに大きければ山の仲間、全匹呼べる」


「そうですわね。ですが、それはもう少し先の話。取りあえず我々が向かうのは王都の湖畔にある王立学院です」


 とセリカは東を指さす。

 そこには湖が広がっていた。


「すごい! あれは海?」


「海ではありません。あれは湖です。海はもっと広いですよ」


「へえ、海はもっと広いのか……」


 いつか行ってみたいところであるが、それよりもまず王立学院という場所が気になる。


 フィルがこれから先、何か月か通う場所。常識というやつを勉強する場所。


 フィルは何か月か勉強し、山に帰る。爺ちゃんが「あの世」という場所から帰ってくるまで、そこにいなければならない。


 住みよい場所だといいけど。

 食べ物が旨い場所だといいけど。

 そんなことを考えながらフィルは馬車に揺られた。

  


 それから十数分後、馬車は王立学院に到着する。

 王立学院は広大な敷地を持っていた。

 門に入ってから建物に到着するまで馬車で数分かかる。

 なんでもこの学院には魔法研究所もあり、広大な敷地がなければならないそうだ。

 魔法の実験は危険で爆発の恐れもあり、街中では不向きなのである。

 それに貴族向けの学校なので馬場もある。それに馬を飼う厩舎もある。

 決闘を行う闘技場もあり、その施設の規模はちょっとした町と同じとのこと。


 たしかに敷地は広大で立派だった。フィルが先日泊まった宿場町など比べ物にならないかもしれない。


 お上りさんのように周囲を見渡していると、馬車は止まる。

 降りてくださいまし、とセリカに言われたのでそれに従う。

 そこで説明を受ける。


「ここが、我が国が誇る王立学院です。王立学院とは初代国王陛下であらせられるアルフォンス陛下がお作りなった学び舎です。王家の資金援助によって運営されている我が国一の学校で、貴族の子弟から商人の子供まで優秀な人物ならば誰でもはいれるのが特徴です」


 ただし、優秀でなければ相当な学費が掛かるとのこと。また、寄付金もせねばならず、平民の子は神童と呼ばれるクラスでなければ入れないと説明を受ける。


「それってボクが入学してもいいの?」


 と素朴な疑問が湧くが、それについてはこう答えてくれる。


「大丈夫です。わたくしの家は侯爵家。それも王位継承権のある王家の分家。それなりに裕福なのです。よほど、成績が悪くなければ入れてもらえます。……読み書きはできますよね?」「それは爺ちゃんに習った」


「ならば大丈夫です。テストの欄に名前さえ書ければどうにかなります」


 それはそれでいいのだろうか、と思うが、フィルが通う予定の王立学院の礼節科の別名は花嫁科。


 なんでも大貴族や大商人の娘たちが将来の輿入れのために通う花嫁学校みたいなもので、ぱーぷりんでも入れるらしい。


「よく分からないけど、入れるならそれでいいか」


 納得すると、学院に入る。


 教員たちが集まっている建物に入る。そこで入学試験を受け、無事、合格すれば今日から晴れて王立学院生徒らしい。


 正直、いまだにこの学院の制度がよく分からないが、セリカが期待してくれているようなので頑張ることにした。

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