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宿場町でのひととき

 宿場町で一泊。昨夜のようにキャンプではなく、宿屋という場所に。

 宿屋というのは旅人を泊めてくれる施設らしい。


 湯浴みや食事を提供し、綺麗なシーツを敷いたベッドも貸してくれる。至れり尽くせりであるが、ここでもお金がいるらしい。


 セリカは王国金貨を支払っていた。

 不思議なので尋ねる。


「下界ではみんなこんな感じなの?」


「こんな感じとは?」


「お金を払えばなんでも交換できるの? なんでもできるの?」


「そういうわけではありませんが、大抵のことはできます。不思議ですか?」


「不思議。山では物々交換が主流。熊のハチとはよくハチミツと鮭を交換していた。ゴブリンとはお酒とイノシシとか」


「なるほど、たしかに山には貨幣経済はなさそうです」


「でも、そんなに小さいコインと交換できるほうが便利かも。そのコインはどこで採取するの?」


「王国金貨ですか? これは働いてもらうのが基本ですね」


「働く?」


「労働です。例えばですが、羊飼いは大量の羊を飼い、羊毛を刈って、それを売ることでお金を得ます。牛飼いは牛のミルクや肉を市場に卸すとお金が。農家は農作物ですね。先ほどの屋台の店主は市場から羊肉を買い付け、それを加工し、屋台で売ることでお金を得ています」


「なるほど!」


 分かりやすい説明である。


「この世界ではそうやってお金が流通しています。これを貨幣経済といいます」


「貨幣経済便利。山に帰ったら採用する」


 なにがいいだろう。熊や妖精は金属が嫌いだから、葉っぱをお金代わりにすればいいかな?


 葉っぱは無限に手に入るし、誰も働かなくていい楽園が生まれるかも。

 そんな想像をしていると、セリカは言った。


「取りあえずこの宿屋で一泊しますが、部屋は同室で構いませんか?」


「セリカと同じベッドで寝るってこと?」


「ベッドはツインです。ですが同じ部屋ですね」


「同じベッドでいいよ。セリカは良い匂いがする」


「そうですか?」


 少し恥ずかしげに顔を赤らめるセリカ。ただ、それでもツインというやつにしたようだ。


「さて、今夜はもう寝ますが、今、ローエンが馬車の手配をしてくれています。明日、朝一番で出立しますが、数日後には王都に到着です。そこでフィル様には王立学院に入学してもらいます」


「おお、噂の王立学院。ボクはそこで勉強するんだよね」


「そうですね。たぶんですが、礼節学科に入学してもらうことになります」


「ふーん、よく分からないけど分かった。勉強をすればいいんだよね?」


「そうですね。そこで多くのことを学んで頂きたいです」


「分かった! でも、それよりも王都の食べ物が楽しみなの。とても旨いんでしょう」


「それは保証いたしますわ」


 にこりと微笑むセリカ。彼女は嘘はつかない。その彼女が旨いと断言するのだから、とんでもない旨いものがあるに違いない。


 フィルは嬉しそうにそれらを想像した。



 

 コケコッコー!



 朝、ニワトリの鳴き声とともに目を覚ますフィル。

 日差しが眩しい。


 こんなにも遅くまで目覚めないのは珍しい。山にいたときはニワトリが鳴く前、朝日が昇る前に起きていた。


 初めての旅で疲れているのかもしれない。そう思った。

 一方、セリカはいまだに寝ている。そういえば昨日、こんなことを言っていた。


「わたくしは朝が苦手で。普段はメイドに起こしてもらっているのでいつも寝坊してしまうのです」


 と。


 メイドとはどんな存在か分からないが、他人に起こしてもらわなければいけないほど、朝が弱いのだろう。


 いつも頼りになるセリカの思わぬ一面を知り、微笑ましくなってしまう。

 ここはフィルが優しく起こしてあげるべきだろう。


 そう思って彼女の肩を揺らそうと思ったが、その前に目に入ったのが彼女の乳房だった。


 胸当てとかいうものを着けているおっぱいが目に入った。

 なんでも女には乳というものがあって皆、胸当てをしているそうな。

 フィルは乳も小さく、胸当ても不要だが、いつかしなければいけないらしい。


 この乳を押さえつける下着は可愛らしくはあるが、窮屈そうだった。いつか自分もしなければと思うと億劫である。


 しかし、興味がないかといえば嘘になる。

 今からちょっと試そうかな、とセリカから拝借する。


(……昨日、着替えを見たとき、背中をこうやって外していたな)


 うろ覚えでホックを外すと、彼女の胸から胸当てを回収、それを着けてみる。

 ぶかぶかであった。

 ただ、胸が苦しいだけである。


「……うーん、ボクにはまだ早いか」


 と、そこらに放り投げると、フィルは宿屋の一階に向かった。そこで朝食が出されるらしい。


 

 フィルが朝食に舌鼓を打っていると、セリカが真っ赤な顔をしてこちらに向かってくる。胸を両手で押さえている。


「フィル様! 寝ている間にわたくしの下着を取りましたね」


 すっかり忘れていたが、「うん」と、うなずくとセリカは涙目で言った。


「気がつかなくてそのまま部屋を出たら、宿屋の女将さんに注意されました。ああ、恥ずかしい」


 なにが恥ずかしいのだろう? きょとん、としてしまうが、きっとご飯を食べれば機嫌が良くなるだろう。なのでパンに苺ジャムとバターをたっぷり塗ると、それを渡す。


 邪気のないフィルの笑顔にこれ以上怒っても無駄だと悟ったのだろうか。

 セリカは軽く溜息を漏らすと、そのパンを受け取った。

 フィルの隣に座るとそのままパンを食べる。


 フィルは黙々とパンをかじる。はむはむとパンをかじる姿は森のリスに似ていた。可愛らしかった。

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