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フィルのスピーチ

 ミス王立学院当日。

 実行委員会は、学院にあるコロシアムを借り受けたようだ。


 男女同権を叫ぶ一部教師には煙たがれたものの、一応、伝統ある行事として中止を要請するまではないと反対まではされずに済んだ。


 フィルとしてはこの日のために原稿を書き、スクール水着を新調したのだから、そのようなつまらぬことで中止されたら堪ったものではなかった。フィルとしてはすでに賞金の使い道を1シル単位で考えているのである。


 さて、そのような大会であるが、観客はたくさん訪れた。冒険者系の学科、学術系の学科問わず、たくさんの生徒が訪れる。意外と男女比も半々くらいだった。


「これは有利ね」


 とシエラは言う。


「どいうこと?」


 フィルは首をかしげる。


「フィルさんの魅力はフェミニンなところと、中性的なところにあるの。つまり、女性の受けもいいということ」


「なるほど」うんうん、とうなずくが、多分意味は分かっていない。セリカはそう思った。


「さて、フィル様、そろそろ行きましょうか。第一審査が始まります」


「そだね。せっかく、昨日、夜遅くまで弁論の練習をしたし」


「すばらしい弁論でした。ささ、原稿を持って会場に」


「うん、分かった」


 フィルは鞄から原稿を取り出そうとするが、取り出さない。正確に言うと取り出せない。


「あれ……あれ……? たしかに入れたのに……」


「どうしたのですか、フィル様、まさか原稿を忘れたとか」


「ううん、それはないはず。今朝、シャロンが気を利かせてちゃんとチェックしてくれたもん」


「なんとそれは無くすはずもありませんね」


 セリカも一緒になって探すが、鞄には原稿の陰もなかった。


「やや、これは奇っ怪です。まさか、原稿の質量がゼロに……」


「まじで! そんなことが……」


 ふたりで真剣に悩んでいるとシエラが吐息をする。


「はあ、ふたりとも脳みそ、お花畑だね。こんなの策略に決まっているでしょ」


「さくりゃく?」


 ほえ? という顔をするフィル。


「フィルさんは相変わらず人を疑わないね。たぶんだけど、会場の誰かが盗み出したんだよ」


「そんな、どうして?」


「そりゃ、フィルさんの足を引っ張るためでしょ。優勝候補だもの」


「まじで!」


「世の中そんなもの。実力が及ばないなら、相手を貶めて勝つ。まあ、東方にソンシって兵法家がいるんだけど、彼いわく、敵を知り、己を知れば百戦危うからず。つまり、あらゆる手段を尽くして敵を弱め、自分を高めよってこと。相対的に」


「よく分からないけど、やばいの! ソンコに負けるの!」


「ソンシね。ま、策略を見抜けなかったあたしたちが間抜け。ここはもう腹をくくるしかない」


「おなかをくくる? ハラキリ・サムライ?」


「違う。正攻法でいく。昨日、散々練習したから、ある程度、中身は覚えているでしょ」


「うん、多少は」


「ならばそれを壇上で言って」


 とシエラはフィルの背中を押す。フィルはそのまま壇上に登る。

 心配げに見つめるセリカ。


「大丈夫でしょうか」


「フィルさんならばやるはず。土壇場◎のスキルを持ってるからね」


「寸前×も同時に持っているような……」


「相反するスキルだね。でも、今回は大丈夫なはず」


 シエラはそう確信すると、フィルの言葉を待った。

 会場の生徒たちの視線がフィルに集まる。フィルは珍しく緊張する。

 国語の授業などで教科書を読むのは得意だ。フィルは花嫁科で一番の声量で読む。

 体育の授業で活躍して視線を集めるのも大丈夫だった。


 しかし、この会場には数百人の人がいる。千近い瞳があった。さすがにフィルも緊張し、声がうわずっていたが、最初の言葉は発することができた。


 フィルは大声で言う。


「ボ、ボクと世界平和について。原案フィル、シエラ作、演出セリカ」


 その言葉を聞いてシエラとセリカはあちゃあとなる。原稿の最初の部分、言わなくて言い部分を言ってしまったのだ。


 これは大幅な減点だな……シエラは覚悟しながら、フィルの弁論の続きを聞いた。

 最初こそやらかしたが、その後はフィル独特の論法で世界平和について語る。

 要約すると、



「喧嘩になったら相撲で勝負を決めれば戦争は起こらない」

「お腹が空くと怒りっぽくなるから、みんながご飯をいっぱい食べれば平和になる」

「故郷の山に貨幣経済を導入する。どんぐり本位制を導入し、葉っぱと自由に交換できるようにする」


 

 などという主張であったが、フィルの主張は微笑ましく、会場の生徒たちの笑顔を得ることができた。


 フィルは最後にVサインをすると、壇上を降りる。満場の拍手がフィルを包み込む。


 壇上から帰ってきたフィルは甘えるようにセリカに抱きつく。


「ボク、がんばったよ!」


 セリカはフィルがいい子いい子を欲していると分かったので、望むものを与える。

 フィルの銀色の髪はさらさらで、まるで銀の糸のようになめらかだった。

コミカライズ、しばらくは無料で読めます。

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