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新聞部のシエラ

「へー、ボクは綺麗なのか」


「はい、もちろんです、フィル様は世界で一番ぷりちーですよ」


「おお、すごいの、世界一なのか」


「はい、ですが、それは素材だけ、ミスコンテストでは素材だけでなく、その人の生き様、それに着ている衣服などで評価される面もあります」


「ふーん」


「ですので、ミスコンで優勝を目指すならば、ブレーンとなるような参謀を付けるのが勝利への道かもしれません」


 フィルはセリカの袖を掴んでじーっと見つめる。


「わたくしですか? わたくしは無理です。この手のことに疎くて」


「でも、舞踏会では可愛い服を選んでくれたの」


「舞踏会とミスコンはかってが違うのです。わたくしのお洒落技術が通用するか……」


 セリカが嘆いていると、そこに陰がにょいっと現れる。


「話はすべて聞かせてもらったわ!」


 なにやつ!? とフィルが振り返ると、そこには眼鏡っこの同級生がいた。

 クラスメイトのシエラ、新聞部の自称エースである。


「まあ、シエラさん、どうしてここに」


「フィルさんがミスコンに出るって噂を聞きつけて、いてもたってもいられなくなってね」


「もう噂が駆け巡っているのですか」


「うん、あっという間」


「情報化社会おそるべしなの」


 フィルは先日覚えた言葉を無理矢理使う。


「さて、セリカ様とフィルさんが困っているようだから、あたしが知恵を貸しにきた」


「おお、それは助かるの。シエラがブレーンになってくれるの」


「ブレーンって呼び方は気にくわない。軍師のほうが好きかな」


「じゃあ、それで」


「分かった。引き受ける」


「待って下さい、フィル様。ここは慎重に」


 セリカは慌てて止める。


「どうして?」


「シエラさんは海千山千の達人です。ただで引き受けてくれるとは思えません」


「ああ、よく分かっているじゃん、セリカ様は」


 にやりとするシエラ。


「そういえばこの前もスクール水着でグラビアを取られたの」


 ビアンカの一件で知恵を貸してもらうため、フィルとセリカはスクール水着を着て、魔導写真機の前に立った。スクール水着姿で。


 それを王立新聞の一面に飾られたのだが、その新聞は一瞬で完売し、掲示板に貼ってあった分もすべて盗難されたという伝説がある。


「あれはすごかった。王立新聞始まって以来の部数を誇った。教員まで買っていったからね」


 夢よもう一度、捲土重来! という訳であるが、セリカとしてはまた恥ずかしい格好をさせられると思うと、シエラの手を借りるのに躊躇してしまう。


 一方、フィルは乗り気である。「次は着ぐるみを着るの!」とシエラに交渉を持ちかけている。


 シエラは「ノンノン!」と首を横に振ると、こう言う。


「今回は水着だなんて露出の多い写真は撮りません。もちろん、着ぐるみも却下」

「じゃあ、なにをさせられるんですか」


「なにかをさせるって、あたしってそんな信用ないかな」


「でも、ただでは引き受けてくれないんですよね」


「まあ、それはそうだけどね」


「では、はっきりと目的をおっしゃってください」


「だね、この際、時間は貴重。実はね、文芸部の知り合いがいるんだけど、彼女がとても面白い小説をもってきたのよ」


「小説ですか」


「うん、そう。架空の女子校を舞台にした百合小説なんだけど、ちょっとリアリティが足りないのよね」


 シエラはそう言うと原稿を取り出し、セリカに渡す。

 セリカはしばらく読むと、顔を真っ赤にする。


 フィルはなになに、と覗き込むとするが、セリカは見せない。教育上善くないのだ。


 セリカはシエラに抗議する。


「シエラさん、これは百合小説どころか、官能小説ではありませんか。しかも、主人公がフェルとリリカって、まるでわたくしたちのよう」


「そう、そこなのよ。フェルとリリカでも面白いのだけど、やっぱり、実名にしないと萌えないのよね。だから、フィルとセリカに直させてくれるのならば、どんなことをがあってもフィルさんを優勝させてみせる!」


 シエラは力こぶを作って宣言するが、そんなしょうもないことにやる気を出さないでほしかった。


 しかし、結局セリカは同意する。フィルが乗り気だったからである。それにシエラに「言論の自由はあらゆる自由の中でもっとも尊重されるべき」という熱弁を聞かされたからだ。セリカは政治に関わるものとして、言論の自由、表現の自由に重きを置いていた。自分を不当に辱める文章ならばともかく、(同性)愛を謳った作品だからといって切り捨てれば、それは政敵であるロッテンマイヤーとやっていることが変わらない。


 セリカはそう思うようにしようと思った。というか、そう思い込ませて自分を納得させる。


「……分かりました。いいでしょう。その小説にわたくしたちの名前を使うことを許可します。ただし、卑猥な部分は修正してもらいます」


「わかってるわよん。あまりに過激だと新聞ごと発禁になるからね」


「ひわい、ひわい、はっきん、はっきん!」


 フィルは意味も分からず覚えた言葉を連呼する。まるで子供のようであったが、さて、シエラはこのような女の子であるフィルをどうやって優勝させるのだろうか。ミスコンは容姿だけでなく、内面の美しさも問われるのである。セリカはお手並み拝見、とシエラの作戦を拝聴することにした。

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