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裏切り者の正体


 南門に着いた時には何故か一人の少女がポツリと笑みを浮かべていた。

しかし彼女の目前には悪魔が今にも襲いかかってこないかという距離で宙に浮かんでいるのだった。

そして辺り一面には地獄絵図のような光景が並んでいる。

散らばっていた天使達の死体の中には一匹として悪魔の姿はいなかった。

目に見えるのは宙に浮かぶ悪魔のみ、つまり悪魔一匹の実力は天使何匹分をも圧倒するんだという現実を目の当たりにしてしまったという訳だ。


「時和君、僕達は今すぐにでもここから離れた方がいい」

「え? 離れた方がいいってお前も戦うんじゃ...」


 殺伐とした背景の中に混じる溢れんばかりの殺気はたった今出現した遥かに大きいものだった。

一人頭に血管を登らせながら隙だらけの構えで、戦闘準備に入っているものが悪魔の元へ一歩ずつ近づいていく。


「どうなってやがる、これはお前一人でやったのか? ひょっとしてお前は幹部クラスの実力を持つ悪魔なのか?」

「お前に教えてどうする? 今から殺されるって分からねえかなこの馬鹿は、ねぇ?ククククク...」

「っち、一人で馬鹿笑いしやがって、この南門はテメエ一匹でどうにかできる相手じゃねえ筈だ、あまり天使を舐めるんじゃねえぞ...」

「それはお前さんの仲間に言えよ? 戦う前は舐めなかったさ、雑魚だから舐めてるんだろうよ」

「ぶっ殺す...!」


 ジリジリと殺気が高まるのが遠く離れていても伝わってくる中一人プルプルと震える少女がいた。

悪魔の隣にいた人間のような少女、恐らく彼女が俺と同じ選ばれた存在ということなのだろう。

だとすれば戦闘に巻き込まれないよう今すぐ連れ戻さなければ。


「マスティマ...」

「時和君...何してるの...今すぐここから離れようよ」

「何をいってるんだ!? 人間があそこで化け物に対して震えてるんだぞ? 俺達が仲間に対してびびってどうすんだ」

「そ、そうなんだけど、今回のは何かがおかしいんだ...」

「何かって、あの悪魔は誠でも勝てない相手なのか...」


 震えているのは一人ではない、まさか最も頼りにしないといけない仲間であるマスティマが誠に対してか、悪魔に対してか、体を震わせながら立ち尽くしていた。


「仕方がない...俺がいくか...」


 走って彼女の元に向かい、悪魔に攻撃されないか不安を募らせるも悪魔は俺に向けて目を向けようとすらしなかった。

誠という人間と悪魔の目線の先は互いの目それのみである。

ビリビリと緊張感が高まる中お互いに瞬き一つせず睨み合ったままだ。


「悪いけどこっちに来てもらうぞ」

「え? うん、ありがと...バエル...」


 彼女の手を握ると同時に一瞬涙が止まったかのように微笑みかけ、時が進むと共に彼女の涙は再び目から涙が溢れ出す。

立ち止まってる暇はないとそんな事は気にせずに走っていたが、俺達がある程度離れた瞬間に戦闘の音が辺り一帯に響き渡る。

一回、二回、三回、轟音が鳴り響いた後には戦闘は終了していた。

立っていたのは誠、地面で血を吐きながら倒れているのは悪魔の方だった。


「さて...帰るか...」

「もう終わったのか」


 俺達は帰還した。

事の顛末を語ったのは震えが止まらないでいたマスティマだ。

そして涙を必死に抑えながらも、天使が残虐される様を見ていた俺と同じ時期に来た女の子もあれこれと語っているのが見える。

彼女の名前はアーモンドという、何故か不思議だ。

初めてみる顔なのに彼女はどこか初めてあった気がしなかった。

俺が生きている頃に一回でも話した女の子なのだろうか。

彼女の正体が分かったのはその後だった。




「一体なんだよ、俺を呼び出したりなんかして、そりゃあ急にこんなとこに連れられて不安なのは分かるけどそれは俺も同じ気持ちで」

「あのー...お礼が言いたくてですねバエルに...なーんちゃって! フフフッ、バエルはこんな感じの女の子がひょっとして好きなのかしら」

「は?」


 何かと思えばメンヘラなのかこいつは、しかも全く初対面の筈の俺を意味不明な名前で呼んだのだ。

今のではっきりした、俺は彼女と出会った事はない。

彼女が一方的に俺を知ってると思ってるからこそそういう認識が移ったのかもしれない。


「悪いが俺はそんな名前じゃなくてだな、お前が俺を誰かと間違えてるかは分からんが...」

「もう〜バエルったら〜お前なんて今まで言った事がなかったでしょー? いつもみたいに言ってよ、アモンって」

「アモンじゃなくてアーモンドだろお前の名は、くっつくなって」

「え...?もしかしてあなた...本当に忘れちゃったの...?」

「忘れたって何が?」

「私達が人間の振りをして内部からジワジワと天使共を殲滅する事よ、それが私達が天界(ここ)に来た本当の目的だろ...?」


 溢れんばかりの殺気が伝わり体全体に震えなんてする暇はもはや無かった。

この殺気はあの時の殺気だ、これはあの時いた悪魔でも誠のものでも無かったのだ。

彼女自身が俺とマスティマに向けた殺気だったのだと今気付かされた。

ただ俺の予想が当たってるなら、彼女は人間の皮を被った化け物なのではないだろうか。


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