落下
下へ 下へ 私は落ちる
柔い何かに包まれ落ちる
下へ 下へ 下へと落ちる
温い何かに包まれ落ちる
下へ 下へ 下へと落ちる
下へ 下へ 私は落ちる
上を見上げて私は落ちる
下で待つのは何なのか
落ちる私に関係は無い
下へ 下へ 下へと落ちる
上を見上げて私は落ちる
白く輝くあの上は 何で 出来ているのだろう
落ちる私は行くことも無い
下へ下へ下へと落ちる
上を見上げて私は落ちる
私が犯した罪は何
彼奴が決めた罪は何
自分の罪すら知ることも無い
下へ下へ下へと落ちる
優しい何かに包まれ落ちる
それは私を想うもの
私を想う 人の想い
涙が溢れる私は落ちる
止まらぬ想いに掻き立てられて
涙が止まらぬ私は落ちる
私を落としたあの人恨み
涙が乾いた私は落ちる
下に待つのは絶望で 彼奴が望んだものだと分かる
心を見つめて私は落ちる
このまま落ちて良いものか
落ちる 落ちる 私は落ちる
下へ下へ下へと落ちる
落ちても堕ちることはせず
気高く私は堕ちて行く
落ちることは構わない
堕ちることはするまいと
下へ下へ下へと落ちる
気高き王は独りで落ちた
たとえその身を滅ぼされ
いくら嗤われたとしても
決して 決して 堕ちはせず
ただ 下へ落ちていた
気高くあれ 人間よ
いつ 如何なることがあろうとも
気品だけは捨ててはならぬ
どんなに蔑まれたとしても
どんなに嘲られたとしても
気品だけは捨ててはならぬ
人であることを忘れるな
年端のいかぬ者だとしても
後先短いものだとしても
決して 決して 忘れるな
お前はお前であることを
決して忘れてはならぬ
王が最後に紡いだ言葉
娘は静かに頷いた
そして下へと落ちるのは
気高き我らの姫だった
下へ下へ下へと落ちて
それでも自我を失くさずに
ただ 気高く落ちて行く
決して堕ちてはならぬこと
父なるかつての王に従い
姫は ただただ堕ちて行く
下へ下へ下へと落ちる
下へ下へ下へと落ちる
下へ下へ下へと落ちていく