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9~

   9


 本当に何も起きず、地球の実行までの長さがイラっとしてしまう鷹士。

ニュースを見てもまだ、あれはなんだったのでしょうで検証ばかり。


仕事も終わってまたいつものコンビニで弁当とビールを1本購入し自宅に戻る。

数日間は同じことの繰り返しであった。

宇宙空間で待機してるマリー少佐やアイン中佐の部隊も、待ちくたびれてしまうのではないかと思っていた。

展開に進みが一切見られず、また密室会議のオンパレードなのだろうと、待ってられない鷹士は就寝時に一旦ホーク星の部屋に戻ることにした。


そして起きて周りを見て確認すると、隣の部屋にいるはずの執事を呼び、ソフィを呼ぶように言い付けた。

流石というか、ものの1分で登場したソフィ司令官。

予定にない帰還と急な呼び出しで、飛んで来たようだ。

「陛下、ご帰還嬉しく思いま」と、ここで鷹士が止めて現状報告をせがむ。

ソフィも皇帝が少々お怒りが入っている様子と感じ、前置きも抜かして要点だけを述べていった。

「ん~、そうか。特にマリー少佐が待ちくたびれてんじゃないかと思ってな。もうさ、地球側の展開の遅さにイライラしちゃって、それでいて通信手段がないから一旦戻ってきたんだ」

淡々と返事をしていくソフィはビクビクしていた。

まさかの八つ当たりやトバッチリが来ても避ける間もないであろうと。


大きな鼻息で溜息を吐いたあとに腰に手を当て「ヨシッ!決めたっ」とハッキリ言う鷹士。

聞き逃さないように真剣な眼差しで片膝を着いた姿勢のまま待つのはソフィ。

鷹士の口から出た言葉は「プリン食おう」であった。


思わず膝に当てていた片方の手を滑らせズッコケを表現してしまったソフィ。

何を申すのかと思えば夜食をご要望だった。

「まずは、食いたかったんだよ。こっちのプリン旨いからさ。でね?早速で悪いんだが、月に降りたヤツあるでしょ?あれが飛び立ったら追いかけっこ始めちゃって。もう、向こうの・・・地球の対応待ってらんねぇから盛大にいくよ」


ド派手なことも難なくこなす鷹士の盛大とは、いったいどのくらいなのだろうと末恐ろしくも感じるソフィであるが「ご命令はなんなりと」と、片膝着きをズッコケから整え真剣さを取り戻す。

出された命令に唖然という感情を持ちつつ、すぐに実行に移し通信にて各艦隊に命令を伝える。

「そうそう、この早さがないと落ち着かないね」と、満足気な鷹士であった。


ものの数分後に命令を受けたマリー少佐の艦隊は動き出す。

アイン中佐の艦隊も動き出し、地球の周りを囲むように配置していく。

月から発進もせずにいる航空機には第2の命令を実行し、小型無人偵察機でまた光の放射をしながら存在をアピールし、人の動きがあったらステルスモードを解除してユックリと円を描くように周回させた。


当然、本国への報告が入るだろうから、その時はアイン中佐の艦隊がステルスモード解除で地球から見える位置で存在を明らかにする。どれもが主要都市の真上で巨大戦艦が浮遊する。マリー少佐の艦と艦隊は某大国ではなく日本の中枢である国会上空に姿を表す。

これも鷹士の洋画の影響なのか、似た光景があったようだ。


地球はパニックになり逃げ惑う者、祈りを捧げる者、右往左往する者と人それぞれの行動が見れる。某国ではシェルターへの避難をし、地下施設に逃げる主要人物達。

こんな時でも会議を始めるかと言いたくなるほどの日本の政治家。

防衛省は武器の配備に時間が掛かり、戦争経験もないものは焦るばかりであるが、誰も宇宙からのお客に対処した者はいないのだ。

逆に戦争経験者である歳のいった老人のほうが落ち着いているのだ。

だが、この時代にそのような人はもう居ない。

あっても受験戦争くらいで話にならんのだ。


たったひとりの一言で動いているとは思ってもいない地球側は、どう対処していいのか解らない国が多いようだ。

一応、通信衛星は傍受してるが遮断はしていないので情報が錯綜しているのも解っているホーク側。

そこへ、皇帝である鷹士がマリー少佐に伝えたことを実行させる。

国会の真上に位置しながら、スピーカー音声で呼び掛ける。

「日本国の代表殿。我々はホーク銀河より来た者である。この星より遥か彼方である。この銀河で唯一、生命体反応を確認した。挨拶に来たのである。侵略も支配も攻撃もしない。しかし、攻撃を受けた場合は敵対行為とみなし壊滅止むなしとする」

ユックリとした口調で、喉を手で軽く叩きながら喋る、あの手法を用いていたが合成の音声である。

ここにも鷹士のジョークが盛り込まれているが、上空を専有されているので余裕は一切ない。


別の場所のアイン中佐の艦隊では、国名を変えただけで同じ内容をその国の主要言語で流していた。殆どが英語圏なので、鷹士の知らない言語の国には行かせていないのが楽しげでもあるホーク側。


更に月の軌道上、月基地から見える範囲で小型無人偵察機数機によるステルスモード+投影で巨大戦艦を映し出していた。

本国には地球上空だけでなく月の上空にも出現していると報告。

問答無用で代表を出させる手段をしたホーク艦隊。


だが、警告をしたにも関わらず独断専行の早とちりな国が対空ミサイルを発射してしまう。

しかし、当たるはずもなく吸い込まれるように消えていくミサイル。

アイン中佐の艦隊の殆どはダミーである無人機を使っての投影技術であった。

位置的には同じであるが、本体は更に上空の宇宙空間にいた。

これも鷹士の想定内での命令であった。


各国から批判の嵐を受ける早とちりの国。

しかし、蓋を開けてみれば、あーだこーだ言ってるだけの政治家を差し置いて軍の中だけでの独断専行だったようだ。その早とちりの軍は戦闘機も緊急発進させていた。

それを知ったアイン中佐の艦隊はその国のダミーの機影を消し、向かってくる戦闘機と無人機によるドッグファイトで遊ぶ。性能差が違うので、エースパイロットでも無駄である。


そしてまた放送が始まる。

国名を上げて戦闘行為があったことを伝え、猶予を与えてまた訪れると。

アイン中佐の艦隊も月より離れた場でステルスモードになり待機し、マリー少佐の艦隊は日本の上空に舞い上がっていき姿を消すようにステルスモードに突入し、大気圏を抜けた先のワッフル状に発展した形状の国際宇宙ステーションを見下ろすような位置で待機した。


一部の国々は早朝。

反対側は夜中で、はた迷惑な登場であったが、艦隊が現れていない国は関わりたくない心もあるようで無言を通している国もあった。


ホーク星の本部がある建造物の中で、大きな机に両足を投げ出してモニターを見ていた鷹士は、2つ目のプリンを食しながら悪魔的な微笑みを浮かべていた。

「ん~、2人共、良い働きするねぇ。褒美に昇格でもさせるか?勲章でもいいか」

ソフィも最初は少々不安もあったようだが、見ている内に微笑みが生まれ鷹士に同調するようになっていた。

「どぉ?とんでもなく無駄が多い星でしょ?何すんでも遅いんだよね。何か出しても確認確認確認ばっかで、ちっとも進まないんだ。集まったって何の結論もないのもザラ。・・・あ、猶予ってどのくらいって言ってないよね?意地悪してすぐ登場させちゃおうか?でゅわっはっはっはっ。早過ぎってツッコまれそうだな」


口元を握った手で押さえ笑いを堪えるソフィであるが、親指を立ててグッドサインを送りたい気持ちであった。

通信傍受の中でも【おいっ!猶予ってどのくらいの事だ?】という怒り混じりのものも聞こえるが、ホーク側は和やかである。


突然の暴挙な未確認飛行物体の接近遭遇と、言葉を理解しているのも驚きに値している地球側。

攻撃はしないというのも本当で反撃は一切していない。

某国の戦闘機と少々遊んだだけであり、最後は急上昇に追い着けない戦闘機側が諦めた様子であった。

既に放送を解析している国も居るが、ホーク銀河ってどこだといった見当違いをしている。

地球側の技術ではまだ外宇宙である場には有人の宇宙船では行けないのだから。


次の命令を出す鷹士は、アイン中佐とマリー少佐を引き返させ休ませることにした。

その交代であのゴツイ、ガーネル大佐をと思ったがこちらの守備が疎かになるので保留し、別の艦隊を向かわせた。それは中間地点で通信艦として居た艦隊である。その中間地点に向かわせるのは宇宙への出撃が初の奴らであり、希望と憧れを抱いて本部直属になった者達である。

所謂、新兵卒の最後の試練のようなもの。


本部に戻ったら、マリー少佐とアイン中佐から直接報告を聞きたいと打診した。皇帝からの直々の打診で緊張感が増す2人であった。只の通信で映像はないのにシッカリ敬礼していた2人でもある。


これでまた地球に戻ってもいいが、イライラが募るだけなのでもう暫く滞在することにした鷹士。

地球にいる時と違い、思いっきりグダグダとノンビリしていても誰も文句は言わない。

ここまで数々の戦歴や偉業を成し遂げてきた経歴もあり、技術開発にも意見を言い成果を上げ、民衆の為にといくつもの施設や法を整えてきたのだから。


その鷹士に忠誠を誓い、着いてくる部下と従う者が数え切れないほど居るのも確か。

例え、自害しろと命令されたら即実行に移す者もいるかも知れぬが、絶対に言わないであろう。

仲間を大事にし、どんなに過酷な状況であっても助ける心を持っている鷹士。


これは地球に居る時も同様で部下の不始末は責任を持って処理してきた。

当然といえば当然なのだが、部下のすることは上司の責任であるはずだが、保身に走る者もいる。

典型的なのが元部長であった。その部長は地方に飛ばされたらしい。


本部に帰り着いた少佐と中佐は走るようにして皇帝のもとに馳せ参じる。

鷹士は、こちらの世界にある3Dプリンターなどを使い勲章を作らせていた。

一見、他の勲章と似たデザインであるが、丸い枠内に刻まれた文字は【大変よく頑張りました】と刻まれてはいるが、こちらの世界の者には読めぬようにしていた。

「おっ?来たか?・・・ヨシ、そこで並んでくれ。んじゃ、ソフィ頼む」

ソフィ司令官に勲章を授与され、緊張感が暴発しそうなほどの2人。

「それは大いなる戦果を挙げたものに送る勲章だ。君らはよくやってくれたから御礼でもある」

と、それらしいことを言って文字内の正しい意味を伝えずにいる鷹士は、心の中で微笑んでいた。


勲章を授かった2人は光栄の至りとして片膝を着き、更なる忠誠を誓った。

表情も微笑みで2人を見送る皇帝の鷹士。

『意外と単純に受けてくれるんだな』と思いもしたが、隣にいたソフィも嬉しそうだ。

勲章の為に頑張るものも居る世界であることを忘れてはならないが、アメとムチも使いようである。


その鷹士の後ろの方にある机の上には食べ終わったプリンの器が置いてあった。

のりしおチップスなどでなくて良かった。もしも、口元に青のりが着いたままでは威厳は全くないも同然だ。

ムチのほうのバージョンをソフィが施したジャーマン大将はと言うと、気絶後に病院に入れられ精神抑制剤を注射された模様である。一応は大人しくなっているようだが、大好きな猫に囲まれている。羨ましいと思う鷹士は、ここにも数匹欲しいと願った。


すぐに手配され、白猫と茶トラ、アーバンな柄の3匹が献上された。

まだ小さく子猫たちを見る皇帝が幸せそうな表情でいるのを見たソフィと執事やメイドも幸せそうな表情になっていた。

ふと『これって精巧なロボットじゃないよな?』と思いながら周りの者を見る鷹士。

すぐに「ご安心ください、本物です」と届けてくれた執事が言い、子猫それぞれを撫でていく鷹士であった。

専用の餌場や遊び場も用意され、皇帝の室内に設置されていく。

無駄に広いので成長しても十分な遊び場にもなる。


さて、地球側の動きであるが、一向に目処が立たないようなので強硬手段として、どこかの代表を転送で来てもらってしまおうかとも検討していく鷹士。

ソフィは当然、オリガー参謀長官も呼び付け、地上部隊の最高司令官でもガーネル大佐にも出席してもらい作戦会議が始まった。


地球の対応は如何に?


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