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バトルトーナメント開催から数日。
未だに予選枠での決戦であるが、別の部門の開催もされていた。
こちらは頭脳戦である為、静かなもの。
地球でのチェス世界大会のようなものだが、戦略、戦術が入り乱れてのシミュレーションな感じである。基盤上のゲームにも見えるが移動の制限はない。何をどこに配置し、どう攻め、どう守り、どう勝つか。自軍の残像数も考慮されるので実際の戦闘に役立つ戦略家の育成とも言える。こちらの主催はオリガー中将参謀長官である。
更に料理対決や美男美女コンテストも開かれ、企業による開発発表も行われるので、お祭り騒ぎである。隠れた場ではアダルトなコンテストも開催されているようだが、この時期に限り見て見ぬ振りをするホーク陣営であった。やり過ぎは規制の対象になり罰則も与えられる。
予選と言っても星全域で行われるので勝ち抜きも時間が掛かる。各地区内での勝ち抜き者が強くとも、他の地区内では負けていたかも知れない。逆に敗者が勝っていたかもという状況もあるが、それも組み合わせの運であろう。
出場経験者にはシード権もあるが、初参加の者に負けることもある。
サイボーグ化した者は別枠であるが、それぞれの力量で当て嵌められていた。
勝ち残っていくとそのサイボーグ化した者と当たることもある。
怪我の状況に応じて医療班がサイボーグ化もするが、出場選手全員が最初に同意書と誓約書を交わす。欠場者がいた場合は別の者と当たり不戦勝はない。各選手に専用ヘルメットと胸部防御創の着用も義務付けられているが試合に影響がないほど軽く薄いが穴が空くほどではない強靭さを持っている。
使用する武器等も制限が掛けられているが、打ち所によっては致命傷になる武器も存在する。命懸けであるが、実際の戦闘時に躊躇は必要ない。勝ち残った者が必ず部隊に入隊するわけではなく一般人でいる者もいる。前回の第3位入賞者は一般人であるが武闘家で道場を開いているものだったのだ。第2位の者は入隊して隊員になっているが、隊員内ではまだまだであることを自覚していた。優勝者のマーガレットが別格で強過ぎたとも言える。
一方の美男美女コンテストには地球では有り得ない種族も参加中。
地球では目の色に違いがあるように、肌の色がブルーやグリーンの種族、全身が毛で覆われた種族もいる。第2、第3惑星に生息している種族であるが、平等の扱いを受けているので参加も自由なのだ。ホーク陣営内にも隊員や他の部署にも配属されていて平等に扱われている。将校の中にも存在していて部隊を率いているのだ。
約1ヶ月もするとトーナメントも佳境に入りバトルの激しさも増す。医療班は大忙しであるが、見てる方は熱くなる。バルカン砲に刀剣で立ち向かう輩もいて白熱していった。刀剣の形状が普通と違い四つ叉に分かれていて弾丸を弾いていた。その剣捌きも素晴らしく、1本1本が飛び道具にもなるようだ。各選手の持つ武器も種類が多く、見ていて飽きない。
興味を持った武器には開発部からのオファーもある。
地上戦で役立つ場合もあり、料理に使われる場合や建築に流用される場合もある。敗者であっても配属先で希望があれば採用もするホーク陣営。戦える整備士や料理担当もいるほどだ。補給部隊では立体パズルの得意な者が優遇される妙な採用方法も取り入れているので、体力ばかりでない。自信過剰や仕切り屋は不採用になることが多く、仲間意識は常に強く持つように教育されていた。
最初はただの偏見もあるが意識の改革も含まれる為、見た目の違いは問題にならない。これは民間にも浸透され、他種族も平和に暮らしているのだった。伝える言葉は大事であり、言語は耳内に収まる超小型翻訳イヤフォンによって発せられるので意見の出し合いに通訳者は必要ない。装備してない者同士の場合はアンドロイドが仲介に入るか、小型ドローンのお出ましである。
そして今回の番狂わせは勝ち残って来てる選手の大半が女性であった。
予想通りなのはシル星のほうであったが、ホーク銀河内では予想外。
頭脳戦のほうでも女性有利なのかと思えるほど勝ち抜けて来ていた。
逆に料理対決場面では男性が多く、創作料理が多かった。
あのシルビアは出てないのかと一瞬思ったが、シル星宇宙艦隊総司令官が出るわけないかと残念ぶるホーク。頭脳戦のほうの審査官として参加はしていると情報は入る。アホな部下のせいで捕獲された過去はあれど、シル星に戻ってからホーク側の指導も受けているシルビアである。その姉でもあるサマンサ・シールドは女王であるが戦略指導を自分から受けていた。訪れた際に格の違いを自覚したようである。
幸いな事に敵の侵略もなく、この一大イベントも盛り上がり、シル星での優勝者が決まる。やはりというべきか、女戦士であった。ホーク銀河内での第2惑星での優勝者も女性でブルースキンな種族の者。第3惑星では狼風スキンの男だった。一見、獣人族にも見間違われるが知能は高く、企業戦士でもあった。ホーク星ではというと、ホーク自身が賭けていた女戦士が決勝戦に出ていた。相手も女戦士のグリーンスキンで刀剣使い。激しい攻防戦が続き、傷だらけになりながらも闘志は衰えていない。
見ながら思わず体が動いてしまっていたのはソフィ。
すぐ横でマリアンヌも目を輝かせつつ、一挙一動を見逃さない。
ソフィは超長距離射撃の腕前も持っているが格闘も素晴らしい域。
マリアンヌは軍曹時代から格闘にも精通していたのだ。
そんな二人を見て微笑むのはホークだった。
そして遂に決着がつく。
片目を失いつつも優勝した女戦士。
ジェニファなんて女らしい名前だったが筋肉質の引き締まった体。
準優勝の女戦士はグリーンスキンのアーニャという可愛い名前。
こちらは両足の腱を切られたのが敗北に繋がってしまったようで医療班に担ぎ込まれていった。頭脳戦のほうもそれぞれ決まり、オリガーも満足そうだ。他の開催も大きな花火を上げての喝采になっていた。
賭けはホークの勝ちだったが、目を付けた選手が優勝するのは、これで2度目であり見る目があると周りに認識された。優勝者のジェニファも医療班によって片目をサイボーグ化される。肉眼では見えない距離と明暗を認識出来るようになるが見た目は同じに調整された。体中の傷も何事もなかったかのように治され退院の日を迎える。その日にホーク星の女王でもあるソフィと補佐官のマリアンヌが笑顔でお見舞いをすると、緊張のあまり吃ってしまうジェニファ。上半身を二人に触られまくるが直立で動けないほど。
その後に片膝を着いて遅ればせながらと挨拶に入ったジェニファ。
早速の入隊希望を聴いていくマリアンヌ。配属希望も伺いつつ返事はいつでも良いとしたが、建築業者での作業員と聴き驚く二人。趣味で格闘技場にも通っていたのは納得した。その場は、緊張しまくりのジェニファに落ち着いたらと言ってその場をあとにし、準優勝者のアーニャの元に向かう。
アーニャはまだリハビリ中だったが、ここでも緊張の度合いが見て取れるほど。片膝を着こうにもしゃがむのが精一杯だったアーニャを立つようにマリアンヌが支えた。看護師も片側を支え、アーニャは腕を胸に当てて挨拶。ソフィが憧れだったようで、目の前に本物を目にして涙を流していた。マリアンヌもそうだったので同情もする。聴く前に自ら入隊希望を述べたアーニャに対し、一つ返事で了解したソフィ。足の付け根、膝とアキレス腱が重症で自由に動かないが、両足のサイボーグ化を施され、今は神経の調律中だという。完璧になると時速100km/h以上で走り跳躍は5階建てビルの屋上に達するほどだという。
口には出さぬが直属に配属したいと思っているソフィ。
部隊ではまだと思えど、マリアンヌの時もそうだったように傍に置きたい存在のようだ。先程のジェニファもあの目を使って超長距離射撃も訓練させたいと。両者とも刀剣使いなので護衛官にもなれそうだが、他の武器も仕込みたい。どちらにしてもホークの許可があればである。第3位には男の銃使い兼近接格闘の者だったが、民間の警備会社勤務だったので、そちらに戻ったようだ。
オリガーは直接、ホークのもとに行き頭脳戦優勝者の引き抜き許可を求めた。しかも第2位と第3位だけでなく、他の惑星の優勝者達や優れた者を引き抜きたいようだ。すぐにソフィとマリアンヌも訪れてくる。
「おぃおぃ、そんなに居たんか?他の星のはその星で教育させたほうがイイだろ。まぁ、どこにしろ戦略部に変わりはないが・・・まずは本人達に希望を聴いてからだな」
「で?そっちは?・・・は?そっちもか?・・・ん、うん。・・おぉっ、あの子か。ジェニファって言ったっけ?もうひとりは・・・あっ、アーニャか。イイんじゃないか?補佐官の助けにもなるだろう。な?マリアンヌよ。訓練はソフィに任せる。後後は護衛官か?特殊部隊に入れるくらい鍛えてあげ・・・る、つもりのようだな、アハハハ・・・うん、解った」
直属の女性部隊が出来るかもと思ったホークだが、下心がないわけでもなかった。だが、このホークの中ではソフィを第一に、マリアンヌを娘のように考えていたので両思いとも言える。そんな皇帝でもあるホークは3匹の猫に話していたりするお茶目な面も持つ。改造もされていない本物の猫なので何言ってるか解らないが返事はしていたので、ホークの自己満足の域。
暫くして、あの精神世界の星の域から別種族らしき熱探知を補足と報告が入る。敵かと思ったが、まだ宇宙へ飛び出す技術もないようだ。複数あった惑星の1つに生息してるようだが捉えた熱画像には想像してた大きさより遥かに小さかった。その惑星全体に生息してるわけではなく、偏っていたので探知が遅れたようだ。さすがにイキナリ吹っ掛けるようなことはしないが、衛星のようにその惑星の軌道上で更なる探索実行を加える。
精神世界な惑星の者とも交信したが、いるのは知っていたようだが全く攻撃性がなく精神移譲の範囲にもならなかった種族だったのが幸いなのか放置されていた。ステルスモードでその惑星に無人機を投入させ、より鮮明で詳細を調べることに。
攻撃性がないということなので、何かの生息とだけ解っていれば問題はない。ただし、宇宙空間に飛び出していないだけで、その惑星内では攻撃も行われているかもしれないのだ。人間と同じように未知なものには警戒心が働き、理解できぬものは排除しようとするのだから。
それは未だに地球上でも起こっている。
いくつか拠点は築き友好関係を全面に敷いているが、侵略という思いが拭えない者もいる。友好関係を築きながら地球乗っ取りを考えているのではと陰謀めいた思考を持つ者達による攻撃は止まらない。サイバー攻撃も仕掛けるつもりだったようだがシステムの格段の違いによって毎回弾き返されるのがオチ。海上からの潜入もしようとしてるが、既に捕捉済みにされているのも知らずに近寄ってくる。寄ってくる蚊を払うかのように人工波で押し返しているのだった。例え拠点に辿り着こうとも強力なバリアシールドがあるので侵入は不可能。それでも飽きずに攻撃を繰り返し、遊ばれてるとは知らずにいる。
無人機をひとつ提供した国では未だに苦労していた。
レーザービーム放出な武器を提供した国では漸く認識銃であることを突き止め、その技術を巡って交渉が行われていた。地球側の価値観で行われている為、億単位での話し。ホーク側にとっては量産武器のひとつに過ぎない。
そのホーク星では所属によって携帯武器も装備も多少変わるので、新人はまず全てを知ることから入る。その後、戦闘訓練をしつつ、実戦訓練は第3惑星の区切られた地域で行われる。その後、地上部隊か宇宙艦隊に配属されるが、機器類の訓練もある。一端の隊員になるには少々時間が掛かる。
だが、バトルトーナメントの上位入賞者で入隊希望を出した者は成長も早い。
ジェニファも入隊希望を出し、新人隊員として歓迎を受ける。アーニャも同じく入隊してるが、こちらのほうが早い。両者共にソフィとマリアンヌに連れられ皇帝であるホークにも挨拶に伺ったが、返事のみでロクに顔も上げられず片膝を着き、胸に腕を当てて固まってしまっていた。その時に、ホークは女性部隊の結成も視野に入れているので育成を任せるとソフィに命じた。
もうこの時点でアーニャは自身の体と思えるほどにサイボーグ強化された両足を持っていた。ジェニファも探知能力を身に付けスコープなしでの射撃訓練を行っていた。格闘に関しても更なる成長があり、他の隊員を凌ぐ傾向もある。両者ともに強靭な体を持っているので、ホークの抗体を注入予定も入っていた。既に強化するナノマシンは注入済みだがグレードアップされている。
身体強化は精神面が重要な為、切り替えの速さも要求される。
意識してれば多少の銃弾くらいは跳ね除けられ、移動時の早さも増す。慣れれば周りがスローモーションのように認識出来るがその分、神経系統は過重に耐えなければならないので疲れも早い。これを訓練で重ねて息も上げずに出来るようにさせていく。最初に訓練場でその成果をマリアンヌが見せる。1対5で、見た目は可愛い系のマリアンヌが男の隊員をものの数秒で倒していき、微笑みながら戻って来たので驚きを隠せないジェニファとアーニャ。ナイフ投げの隊員から放たれたナイフを掴んだ勢いで投げ返し、的の中心にも当てる芸当もこなす。しかもマリアンヌの相手をしたのは特殊部隊員だったのも驚きに拍車を掛けた。
医療顧問も勤めていたマリアンヌから応急処置の方法なども教えられ、見た目とは想像もつかないレベルの強者と認識していく二人は、トーナメントで勝ち誇ってもまだスタートラインに立っただけと自覚した。ソフィの超長距離射撃の教えを受けるジェニファは5km先の的に当てるのがやっとだった。しかもそれはライフルの性能もあってのこと。ホーク星ではもう昔の武器である銃弾発射なライフルにすると2km弱が良いとこだった。それをソフィは的の中心のみを連続で打ち抜いていく腕前。その姿が格好良く、憧れの対象にもなったようだ。
直々に教わるのが光栄であると共に、他の隊員からの敬礼も多いので毎回萎縮してしまう二人であった。しかし、訓練時以外では皆が親しく接してくれる。しかも階級に何の遠慮もいらないので、ジョークを飛ばす大佐に思いっきりド突くツッコミを入れる軍曹までいるのを見て、これにも驚いてしまう。さすがにソフィやマリアンヌにツッコミする者はいないが、同じ席で同じ食事もする。
刀剣使いの両者が共有する訓練にはビームサーベルなものもあり、使い方によってはレーザー銃にもなる為、通常の刀剣とは違う。個人認識も終えて専用の物となり嬉しさも増すが、扱いは慎重になる。まだカートリッジは強力なものではないが殺傷能力は十分にある。将官用は強力なカートリッジで鋼鉄でも切り裂くほどだ。レーザー銃にすると光速で的に当てるので狙いは正確にしなければならない。
こうして着々と女性兵士、将官が育てられていく。




