28~
28
時がある程度過ぎた頃。
地球からの報告で訪れて来た中村が、妙に落ち着いた雰囲気に見えた。
気が付けば最後に会ったのは数ヶ月前で、データでの報告が大半。
地球側では年単位の経過だったようだ。
その中村は結婚していて、社長の田中さんは引退しご隠居。
日本の代表も代わり、世界情勢も少しばかり変わっていた。
見た目も変わらない鷹士に驚きを見せつつ、現況報告する中村。
別の拠点近辺で、あの後輩の田村と鈴木が仲介をしていると。
鈴木は田村になり、この2人も結婚していた。
地球側とのワープ接続は常時ではなくなっていたが、伝送用のみが常時接続状態。よって時間差は尋常ではない距離感によって生じていたのだ。
ホーク星での寿命も地球側からすると尋常ではないので、比べるものではない。
この時に中村に手渡された物があり、帰還後に両親達にも施される。
ナノロボの注入により、病気知らずの頑丈な身体に生まれ変わるようなものだが見た目の変化は遅い。それでも若返りはするので、結果によって売れ行き好調にもなる。
一方のホーク側でのホーク自身の細胞や血液検査後の進展もあった。
採取した本人ほどではないが、近い状態に持っていけそうな実験結果。
問題は人体実験に移るかどうかであったが、今のところ他の採取された者との拒否反応は出ていないが、脳や臓器に影響しないとは言い切れない技術陣。
そこへ立候補したのはソフィであったが、マリアンヌまで前に出た。
ソフィは間近でホークの戦いも見て来たので、強さへの憧れも含まれるようだが、マリアンヌも見た目と違って野望を秘めている。
詳細な説明を受けていく2人。
細胞が全滅して別の生命体になる恐れもあり、自身が無くなる可能性も否定出来ないと告げられる。注入量は1滴で十分だが、注入後の変化が驚異的なスピードで変化するので中止も不可能という。それに、既に体内に居るナノロボは消滅してしまうようだ。
実行はホーク自身の許可がないと行えないとし、猶予を与えていく。
その報告を受けたホークだが、2人を信じるとだけ言い、本人達に任せた。
手術台に寝るような改造技術や、アンドロイドの移植でもないので服を着たまま注射を受けるような簡単な処置だけに、結果の重大さが疎かにされがちであった。細胞単位での実験では全てが変化するように見えたので、念の為に拘束着を着用させての処置になる。
ついにその日がやって来た。
全身拘束にて部屋に入れられ、壁から伸びたアームの先に注入器。
ここでもAI機能で半自動的に判別し、処置が行われる。
先に施されるのはソフィ。落ち着いた感じに見えるが内面は気合で引き締められていた。マリアンヌも同じようであるが、少々恐れもあるようだ。
1階分高い場所から両者を見ているのはホーク。
付き添いで居るのはオリガー参謀、ガーネル大佐、アンバー技術部責任者。
何かあった場合に取り押さえられそうなのはガーネルしかいないであろう。
だが、処置後に変化は見受けられずに居た。
変化があるとすれば本人達が少々熱く感じていただけ。
全身拘束着を着用しているのだから寝転がっても芋虫のようになる。
その熱さかと思っていたが、風もないのにソフィの髪が揺らいだのを見逃さなかったのはホーク。
「ん?・・・変化、来たぞ」
しかし、自身を保った状態の2人であった。
「おい、ソフィ・・・マリアンヌ。今の状況、解るよな?・・・敵に捕まったと思ってその拘束着を解いでみろ。それで、そこからも脱出してみなさい」
と、無理難題を言うホークに驚きの視線を投げ掛ける3人。
ただ、ジッとその場で階下の2人を見ているホーク。
分厚い壁に覆われ電磁式でないと開かないドア。
その部屋から全身拘束着を解いで脱出など、不可能の域であると思っていたのはゴツイ体の突撃型戦闘なガーネル大佐。
当然というか、もがいているのは階下の2人。
ホークの命令に背くわけにはいかないので必死である。
「いいか?思い込みって結構、凄いものなんだ。それをいつも着ているような只の薄い生地だと思え、巻いてあるのは紐だ。そんな拘束、簡単に解けるだろ?やってみなさい」
付け加えたホークの言葉に真剣に耳を貸し、思い込みに入る2人。
次の瞬間、驚異の現実がそこに現れた。
先に解いだのはソフィであるが、すぐにマリアンヌも拘束着をいとも簡単に吹き飛ばす。その後、すぐに脱出にも手を掛け、頑強なドアを障子を破るかの如く剥がしていき脱出成功。
汗も掻かずに鼻息一つで落ち着かせる2人に大きく頷きながら拍手をしていたのはホーク。
付き添った3人は大きく口を開け、ガラス面に両手を付けて驚いた状態で固まっていた。
2人を戦闘訓練場に連れて行き、次は速さを見ることに。
「いいか?まだ動くなよ。この先の場所に自分が立っていることを想像してみなさい。そしてそこから別の場所を見る自分を思い描くんだ。そう思いながら走って行って、ここに戻ってみなさい。いいね?じゃぁ・・・ゴーッ!」
号令と共にその場から消えるようにして先の場所に移動し、別の場所にも移動してから戻って来たソフィ。
「あれ?わっ、私・・・仰られた通りにしましたが、ここに立って」
「早ぇ~、今のマジか?本当にソフィか?」というのはガーネルであった。
ホークほどのスピードではないが、訓練すればもっと早く動けるはずと確信しながら、マリアンヌにもやらせていく。
2人とも以前の5倍ほどの速度を持ったようだ。
パワーも凄まじくなったが制御がまだ覚束無いので、手を付いた柱で力を入れてしまうと手形の跡が付いてしまう。速度が出る分、自分で思考してもぶつかることもあるが、怪我はない。ぶつけられた方は破壊されてしまうのが残念であるが、戦闘訓練場であるから大丈夫。
次は戦闘時の訓練に入り、ここでは旧型の銃を使用し弾丸避けを行った。
狙撃術が最高峰のソフィにマリアンヌを狙い撃つよう指示し、念の為ホークが隣に立つ。最初の1発目は危ういとこでホークが手で弾丸を払い除けるが、速度感が解ったマリアンヌは2発目を避けられるが着衣に着弾していた。通常なら体にも傷が付くが即座に回復したのを自分でも驚いていた。
避けられるようになり、ソフィに変わると1発目から避けた。
ホークと共に戦い抜いてきた勘も鋭くなっているのだろう。
「おぉ~いいね。そうこなくちゃ。・・・じゃぁ、ガーネル大佐?あれ用意して・・・うん、そうそれ」
用意されたのは重機関銃でバルカン砲とも言われ、連射速度も並ではない。
また、ホークの思い込み論が炸裂し、銃弾を只の豆と思い込むように話す。
だが、受け過ぎると目を瞑って周りの視界を遮るから、目は開けていろと。
常時、持っている収納型ビームサーベルを使って払い除けさせるが、速度によってビームが曲がるのも考慮せよと、先に手本を見せた。
とんでもない量の銃弾が次々と払い除けられ、ホークの目の前が光っているように見えたが、ビームサーベルの動きが速すぎてそう見えるだけであった。
初めて間近で見たマリアンヌは、ホークに一目惚れしそうな雰囲気。
本当の戦闘時はこんなもんじゃないと、すぐ隣で言うのはソフィである。
ただ避けるだけでなく敵を倒しながら進む姿も速過ぎるが、残った跡が凄いのを知っているからである。
慣れていない2人は尽く当たるが、思い込みのおかげで鋼鉄並みの強靭さと凄まじい回復力に自分で驚いていた。2度目、3度目と続け、何とか出来るようになったがまだ避けきれないのもある。
さすがに息を切らし始めたので休憩にした。
「なかなか良い感じになったな。まぁまだ、身体に覚え込ませる段階と思ってていい。あとは慣れだ。おっと、それ・・力加減、誤るなよ」
グラスに手を掛けようとしたマリアンヌに助言をし、ソフィもグラス相手に恐る恐るになってしまい、その状況を笑ってしまうホークと他の3人であった。
ホークも最初の頃は着ていた地球の服がボロボロになったことを話し、ここで素材から代えさせたと笑い話に持って行き花を咲かせていく。
楽しげな日を過ごした鷹士であるが、宇宙空間に異変が起きていた。
見た目は変わらないが、技術陣からの報告で観測データが送られる。
【・・・で?】と、返送した鷹士。直接報告されたほどなので重要な機密扱いだが、内容が長ったらしくサッパリな専門用語集だったようだ。
その後、楽しさの余韻に浸っていたホークこと鷹士のもとへ、毎度のメンバーが訪れ【で?】の回答らしく、アンバー技術主任が回答していき漸く全体図を思い浮かべる事が出来たホーク。
「あ~そういうことか。要は見た目は変わってないがBHが成長してるってことだろ?だから観測継続って言ったじゃないか。まぁ、だからって付けるのは変かもだが・・・予測はどうなんだい?」
報告はアンバーの部下が要約せずに送ったようだが、オリガー、ソフィ、マリアンヌの3人が念の為の戦闘準備を行うと発言する。
この時点で予測も出来ていないようだと理解したホーク。
「ん・・・んー。近いって言ってたけど、まだ磁場形成とかはないんだな?1機、突っ込ませてみようや。こっちの空間に出るような現象なら、一方通行で突っ込ませてもデータ取れるんじゃね?何かあっても戻ってくるかも知れん」
異様な状況に検討ばかりしている技術陣では先に進まない、という予測を立てたホークは1機と言ったが戦艦級のものを、アンドロイドによる操縦で向かわせることにした。
小型化した戦艦の初任務が初観測したBH内への突入へとなった。
近いといっても目で見える範囲ではないので、航続距離もある。
一応、そのBHが見える範囲で待機させる艦隊も出撃させた。
何か出て来たとこでいきなり発砲はしないであろうが、捕獲はするよう指示している。
そして送られてくるデータを読み取る技術陣は、皆が不思議そうにしていた。
その状況が焦れったく感じたのはアンバー主任である。
「おい、なんだ?悩んでねぇで早く、そのままでいいから言えって」
いつもはポワーンとした見た目であるが、新しいことに関心を持つと人が変わる。説明を受けていくと、何故か今居る空間に酷似しているようだ。
『どういうこった?・・・ここの観測してたんか?・・・それとも向こうにも同じ空間が存在するのか?それってまさかのパラレルワールド?』と、思いは巡るが眉間にしわを寄せた表情でいたアンバーは、これをどう報告すべきかと思ってしまう。
広範囲サーチ機能を使用したデータでも似た現象が現れていた。
あの皇帝に報告するには簡素かつ明確な報告が望ましいと踏んだアンバー。
猫3匹と戯れていたホークに、アンバーの口から報告が入る。
「データ収集しました。現在のデータから推測しますと全く同じ空間、いや、似た空間がBHの向こうに存在する模様です」
報告を受けたホークは司令室に行き、そのものを見ていく。
「あっ、本当だ。・・ってか、戻ってきて見てるんじゃないよな?これ。・・・いや待て。・・・何か違わないか?」
送られて来ている画像や映像データ内に、こちらとは少々違う面がホークには見えていた。アップにした際に、他の者も気付いたようである。
似てはいるが、全く同じなのは空間そのものであって状況は違っていた。
居るべき場、あるべき場にないものが写っていたのである。
こちらにあって、向こうにないのは第3惑星ともうひとつの太陽がない。
無人惑星もないが、コロニーもない空間があった。
「ちょっと待て、ちょっと待て・・・只の別の宇宙空間じゃないのか?こっちと似てるって思っただけで、似せようとする思いが・・」
と、思わず認識を疑うことにしたのはホーク。
ステルスモードで侵入した戦艦は目視出来ないはずなので、BHの位置をメモリーして星に慎重に近付いて行く。操縦はアンドロイドなので命令に忠実であり恐怖感などの感情は一切ない。
位置的にホーク星と第2惑星の軌道上に着くと、驚くべきことに荒廃した光景が映し出されていた。その影に入ると何かの破片とも思える物体が散乱していたのだ。
データ的にはホーク星と第2惑星の大きさにピタリと一致している。
獣人族が居る惑星すらないのに、一体何が起こってこうなったのかが不明であった。コロニーの破片すらないので、高濃度のビーム砲などで破壊されたのかと思ってしまうのは、こちらの科学技術を持つ思考。
星全体をサーチしていくと熱源もなく、当然のように生体反応もない。
死の星となっているようだが、破片を回収し小型偵察機を星に下ろさせてデータ収集を続行させていく。
小型化した戦艦をもう2隻追加して向かわせ、周辺も探索するよう命じたホーク。そのホーク自身も含め、様々な憶測が司令室内に飛び交っているのであった。




