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地球側に造ったホーク側の拠点も大国を含めていくつか出来上がっていた。
ある国は間違いなく軍事利用目的で軍服連中が押し寄せる場面もあったが、バリア内には入れずに居ることもある。
とある国では建設中に攻撃を受ける場面もあったが、その国の軍隊が防衛に当たり事は済んでいる。
そんな報告も受ける鷹士は、どこかの国に似てるのかもと思った。
世界の警察になるつもりは毛頭ないので、拠点から発展していく事は抑制させている。
地上に限らず、先に取り組んだ重犯罪者用格納施設のコロニーも順調に運用されている。
脱獄出来るものならご自由にであり、そのコロニー内で管理しているのはアンドロイドが中心のオート管理にも近いので酸素がなくても動けるのだ。囚人は決められた区画外に出たら即死サービスが受けられるが、知っててやる者は居ない。
運動時間や休憩時に野外に出られたと思っている者もいるが、そこはコロニー内の空間であって空は立体映像である。
他の囚人用の提案でハッカーやクラッカーのようなサイバー犯罪者用に造られたのは電子機器を一切使用しない昔の牢獄を造ったほど。何十もの寄木細工風のロック機構を抜けなければ出れない。例え出たとしても待っているのは屈強な刑務官達の出迎えサービスである。
地上にある刑務所に重犯罪者が殆ど居ない状況になり、あとは軽犯罪に値する罪を犯す者達の処罰である。
ホーク陣側のホーク星などでは、罪に軽さや重さの区別に被害者の心中や意見が取り入れられるので、例え地球上での軽犯罪であっても重罪になり兼ねないのだ。
盗み1つに対しても、大事に持って届けようとしている子供から奪いその子供に怪我をさせ逃亡した場合重罪決定。持ち主本人である子供が許す心を持っていたとしても罪の重みは変わらない。逆にその子供の親が許さないとしても、罪が重くなることはないが刑罰に選択肢が与えられる。
犯罪者にはトコトン厳しいが、普通に暮らす住民には優しいホーク星なのだ。
それを地球にまでもたらす気はないが、自由の名のもとであっても逸脱者は罰せられるものである。どこにいても最低限のルールは必須なのだ。
三つの惑星を束ねるホーク皇帝こと鷹士の権限は絶大であるが、当の本人は見た目ノンビリで、住民と冗談を言い合いながら笑顔を絶やさない変わった皇帝である。戦いになると豹変したように常識外のスピードを発揮し、敵を一網打尽にする姿は同じ人物とは誰も思えずいるのも確かな事実。
その本人の鷹士は今日も街に繰り出し住民と和気藹々を楽しんでいる。
と言っても近くには特殊部隊員も居たりするのが日常であった。
ホーク星で何となく過ごしているが、地球との時間差は尋常ではない。
普通に移動していくと地球側では何世代も進んでいたりするが、ワープ航法を利用してるので時間は物凄く短縮されている。
地球上でも、A地点からB地点に移動する場合に望遠で見た光景は移動中に少なからず時間の経過と共に変化する。その大幅版とでも言うのが銀河間の移動である。移動速度が速ければ速いほど目的地の変化は少なく済むのである。
通信技術の発達も同じであり、速ければリアルタイムで応答が可能。
地球上でも、もう既に裏側に居ようと即座に返答や映像が届けられているが、昔は隣国に手紙を届けるだけで1日以上掛かっていたのだから凄まじい発展と云えよう。
そんな離れた場の状況も、国が変われば事情も変わる。
星が変われば、その星の事情もあり、銀河が変われば常識外も当たり前。
その銀河が違う場のシル星からの応答は相変わらずであり、捕虜状態で第2惑星の王室内で作業を担うことになったシルビア自身も解っていたようだ。
最初の頃の威勢の良いドS級な強気の女王気取りは何処へやら。
執務をしている執事やメイドに言われて「はい」と答えて掃除をしている場面もあったりする。
一気に王女から下働きの平民に、格下げに遭いながら自身を受け入れている。
そのシルビアには時に質問の嵐が飛び交うが正直に応えていくのである。
シル星の暮らしや状況、政治的なものまで聴き、独占欲が強い女王らしいが、そうならざるを得ない状況を創っているのは家臣なる取り纏める者達のようだ。
しかし独断で飛び出して成果を期待しろなどと放って来たのはシルビア本人でもあった。その結果が惨敗で捕虜となってしまったのは仕方がないことである。
まだホーク側も気付いていないが、他の銀河にも科学技術が発達した星に存在する者も居る。その星の者は、このホーク銀河周辺で起きていたことも把握していたが、様子見を続行していた。
地球がある太陽系にも足を伸ばしたことがあるが、まだまだ驚異にもならない種族と断定されていた。
だが、その太陽系に訪れているホーク陣を気にしている傾向はあった。
4つの銀河間で目に見えない攻防戦が繰り広げられているが、ホーク陣と似た科学技術の発展を成している星では、下手にチョッカイは出さぬずに居る懸命な判断をする指導者が存在するようだ。
数千、数万とあるであろう銀河内には、いくつもの星があり様々な種族が居るかも知れない。ホーク陣営が把握してる種族存在の星はホーク星を中心に360度展開でまだ第2惑星、第3惑星、獣人族の星、太陽系内の地球、そしてシル星の5つでありホーク星を含めれば6つ。
その他に居てもおかしくはないと思えど、ホーク側も下手にチョッカイ出さずに居る方針である。先にチョッカイを出したシル星は厄介な存在である。
交渉に関わっているアイン大佐とマリー中佐も休ませたいホーク。
代わりの者と交代でも良いが能力の差が歴然。
地球側に居る中村が間に入っているようなものだが、それは一国に過ぎない。
他の国には社長の田中さんが応対してるようだが、未知の領域な為に詳しい説明は困難であり、ホーク陣の者が対応せざるを得ない。
ある程度の技術提供は済んでいるので、理解するかどうかは地球人の方。
よって、アイン大佐とマリー中佐には帰還命令を出す。
大型艦が地球上から姿を消したと思っているのは地球側だが、ステルス機能で見えないだけな艦がまだ残っているのだ。専用艦が帰還していくだけである。
地球の技術で飛んできたシャトルはホーク側の配慮で、艦内に入れて大気圏突入後に転送で基地に戻された。何の衝撃もなく戻ったのが驚きだった宇宙飛行士達。技術の違いの桁違いも思い知ったようだ。
ホーク側の技術陣が地球の拠点との行き来に往来するので、然程の問題は起きていない。然程のであり、全くではない。バリアが二重に施してあるので攻撃を受けても中にいる分には映像を観ているような感覚だ。
拠点内は全くの別地域扱いであり、地球で言えば大使館みたいなものだ。
その中に入った場合はホーク星の法律が適用される。
許可が無ければ重要人物であっても第1幕のバリアは解除されない。
解除時に紛れて入った不法侵入者には拘束と尋問が待っている。
犯罪者の場合はその場で処刑も有り得るが、まだ実践した者はなくバリア外からの攻撃のみ。
日本の場合は平和的であるが、他の国ではロケットランチャーまで使っての攻撃があったが、何の支障もない強固なバリア。すぐに現地の軍隊に取り押さえられる犯人を見ているだけになる。
拠点を作っていない国では軍隊そのものが攻撃態勢な国もある。
敢えて作ろうとは思ってもいないのが、ホークであった。
ものの見事な時間差が生じるので、地球からの訪れで利用するワープゲートは休む暇もない。さっき帰ったばかりじゃないかと思っても、地球側では半日経っていることも起きる。
繋がってはいるが、まだ時間的な面は不安定さがあるようだが、大きくても10倍超の差で、ホーク星で1時間過ごすと地球側では10~12時間経過してることもある。よって、訪問者には30分以内で帰還要請を掛けていた。ただの報告書などのデータなら時間差はそんなに生じない。
艦隊でワープ航法を使っても2~3時間掛かるのだから仕方がない。
それを数秒に短縮しているのだ。パワーも物凄い必要だが、日々改良されているのは技術者の力である。
ホーク星で1日経つと地球側では12日間に値する場合もある。
この距離感プラス、地球側の検討から結果までの遅さが加わるので、焦れったさを感じてしまうホークである。自身の移動では然程の時間差を感じていなかった時空間移動だが、体力を奪われる。それでも尋常でない体を手に入れているので移動時に動けないことはないようだ。
そこで、試しに検査をしてみることにしたホーク。
針も刺せない頑強な肌であるが、口内は別であった。
地球でDNA検査する際の頬裏を引っ掻くようにして細胞を取る。
血液検査用にはホーク自身が採取しないと通常の針は曲がるほどだ。
採取後も傷は一瞬で無くなる。
他の者は皆、ナノテクノロジーの超極小ロボットが注入されている。
そのおかげで病気もなく、怪我しても止血は早い。
重体になってしまうと細胞蘇生に時間が掛かるので、サイボーグ化もある。
ホークの検査結果に驚きを隠せない医療従事者達。
ずば抜け過ぎて範囲外数値が並んでいたようだ。
行動からして納得は出来るようだが、細胞自体が変化していた。
見た目は人間であるが、まるっきり違う生命体といっても良いくらいであった。
その細胞を他の者の細胞に加えると、瞬く間に変化していきホークと同等レベルにまで引き上がる数値。アンドロイドのデータなんぞ目ではない。
さすがに人体実験は、いくら科学技術が発展してようと躊躇する技術陣。
ほんの1滴を垂らしただけで細胞変化が即座に起きてしまうから注入時の変化に耐えられる者が居ないと予想した。
他の部位での実験もしたい技術陣はホークから許可を得る。
ホーク自身は生活に何の問題もなく食事でさえ普通に取れるからと、その場を後にした。
専用室に戻ると表情は代わり、3匹の猫と戯れるホークであった。
皇帝にまで上り詰めると孤独感も半端ない気もするが、元々庶民的なホークに孤独感はひとりの時間として割り切られているようだ。
何かしらの報告で誰かがいつもやってくるので、孤独がないとも言える。
そんな時に珍しく、技術部の天文観測チームと一緒にソフィとマリンヌがやって来る。
何の報告かと聞いてみると、とある場にブラックホールが形成されつつあるということで、何が問題なんだと聞き返したいくらい普通に存在していることと思ったホーク。
だが、そのBHは吸い込むのではなく、逆の作用が起きているとのこと。
よって、何かが出現する可能性が大幅に上がった。
「なぁ~に?・・・吸い込まれたもんが戻ってくるとかじゃないのか?・・・まさか、別の次元だの並行世界がどうのって言うんじゃなかろうな」
冗談交じりに言うホークに、真面目な表情を保ちつつ恐る恐る答えるのはソフィ。
「いぇ、その・・・まだ、不明点は多いのですが可能性がないとは言い切れません。ワープ発生時のとは異なるもので、観測地帯が・・・その・・・意外と近いのです」
ギロっとした目で見られ、全身を強ばらせるソフィとその他一同。
「近いだと?・・・んー・・・この辺に派遣してる部隊は・・・ない?何故?・・・あーそうか・・・まぁいい、部隊は待機継続で観測も続けてくれ」
追加報告をするのはマリアンヌであったが声が小さくて聞き取りづらかったホーク。
「ん?もう1回最初から言って。何だって?・・・んー・・・ん、解った。試験運用に入ってって伝えて頂戴。あっ!それと威力の結果も伝えて欲しい」
小型戦艦の完成だったようで、約10分の1のサイズになったが装備されてる武器などの威力も縮小されていたのが、少々不満なホークである。
数日後、ホーク自身が技術部の総責任者になっているアンバーに意見を言う。
「君としたことが、全てを10分の1にしただけか?まぁ、無駄な部屋を取り去れば出来たことだけどさ。この砲台・・・中身も?・・・もっとこう・・・圧縮というか、砲身から出るのが細くなっても刺さるような威力に変えたらどぉ?・・・こぉ、ドリルみたいにさ。以前のは熱で破壊みたいのが多かった気がする」
大雑把な意見であるが、銃身の中に溝を掘り直進度と飛距離を大幅に改善する拳銃の作りであった。
その意見を参考に、溝部分にも電磁的なイナズマを発生させ、放射されるビームに絡めることによって破壊力は増した。
以前の状態でも目標までの到達が早いが、速度も増しているのに発射台のパワー出力は抑えられていくので連射も可能。
ほんのちょっとの意見が大きな飛躍になった。
これでまた崇め奉られるのはホークである。
どうみても科学技術の差は歴然の地球出身の鷹士だが、歴史の違いがあるようだと見た。




