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この戦闘時に得た情報から、地上からの砲撃時にバリアに隙間が出来てしまうのが今後の課題でもあるがバリア発生器も破壊されてしまったので艦隊を常時警戒態勢でおく必要が出た。
宇宙空間にあったコロニーも幾つか破壊を避けることが出来ずにいたが、艦体修理用だったのが幸いであった。
地上に落ちた敵主力艦の司令室と操縦区域から通信機器を取り出して持ち帰る特殊部隊。敵艦隊の司令官であるシルビアに、母星に通信させる為である。
そのシルビアは厳重な檻に閉じ込められての護送。
「ちょっと!私はシル星の第2王女なのよ!こんな扱い許されるとでも思ってんの?」
などと最初は強気でほざいていたが、先に仕掛けて戦闘行為もした自分を解っているようで護送中に大人しくなっていた。
宇宙区間のみで戦闘ならまだ良かったのかも知れぬ。
地上に降りてそこの住民を巻き込んだ戦闘を行ってしまったのが最悪の展開にしてしまったのだ。
第2惑星の王、ガーネットに謁見していくシルビア。
いくら謝罪をしようとガーネットは「私はこの星の王だが、上には皇帝がいらっしゃるのです。あなたの言うことは伝えますが、抹殺命令が下ればお仕舞ですよ。母星はどこですか?あなたが王女なら王はなんて言う方ですか?第1王女も居るようですね。先に戦闘行為、いや獣人族を利用したのもあなたですよね?部下が勝手にというのはもう聞き飽きましたから。あまり待たせると、こちらの皇帝は問答無用で星ごと消し去りますけど?・・・良いんですか?」
穏やかな雰囲気を持つガーネットであったが口からは脅しに近い言葉が欄列していた。
別々で尋問を受けていた他の敵指揮官もいたが、シルビアの『部下が勝手に』という言葉に怒りを覚えたようで文句はシルビアに向けられていた。
部下が勝手にという言葉は嘘ではないが、止めもせずに自分も戦闘に加わり、地上に降りたのもシルビア自身であるのだから責任はシルビアにある。
報告を受けた鷹士もガーネット王と同じ考えで居た。
厳重な牢獄に入れられ、皇帝が会いに来ると伝えられたシルビアであるが、想像内では年食った髭面のジジイと思っていたようだ。
通常、皇帝との謁見は厳しく、そう簡単に出来るものではないと括っていた。だが、ホーク皇帝こと鷹士がなってからは手続きの簡素化も進み、大部分が早期決着である。しかも普段は庶民的なので気軽に街にも繰り出している鷹士なのだから。
よって対面は早く催され、シルビアとその部下である指揮官も同時に部屋に案内されていく。
王と言っていたものが片膝着きで待つのを見たシルビア。
いったいどんな凄い者かと思っていた場に現れたのはごく平凡にも見える容姿の鷹士。
「やぁ、やぁ~や、皆さんご苦労さん。・・・で?この人がそうなの?やってくれたねぇ~君ぃ。・・・おっ?なんだ?その形相は。えぇ~っと君は・・・部下の方か」
睨み付けるシルビアの部下であるが、シルビア自身も似た形相でいた。
後ろ手に縛られているが、口を開けば文句ばかりの部下に文句で返すシルビア。
「・・・五月蝿いなぁ。・・・ウルセェよ、オマエら、黙れ。何したか解ってるよな?・・・で、母星はどこで王はなんて言うの?すぐ答えてくれるかな」
表情が代わり鋭い眼光になった皇帝である鷹士を見たシルビアは黙るが、部下は黙らず文句を言い続けていた。
その部下の傍に居た者に合図を送るのは鷹士。
ものの一瞬であった。
文句を言い続けていた声が途中で止まり、シルビアの視線上に転がるのはその部下の首。
驚きのまま鷹士のほうを見たのはシルビア。
「ガーネットさん、ゴメンね。床、汚しちゃった」
王が一礼でことを済ます状況にも驚きの表情を抑えきれないシルビアに、もう一度同じことを聴いていく鷹士。今度は素直に声を震わしながら丁寧に言葉を発していくのであった。
そして通信機器も室内に持ち込まれ、母星にコンタクトを取るよう指示されていくシルビア。
後ろ手に縛られた状態で操作方法を口で説明し、受信口で話していく。
「こっ、こちら・・ゼッ、ゼロワンSS・・・K2・シルビア・シールド。・・・サッ、サーシャ女王へ、きっ、緊急通信願う」
雑音が続くも繰り返されると、返答が帰ってくる。
「こちら、SS本部司令室。・・・聞き取りに少々難有り。K2・・・王女?シルビア王女ですか?・・・生きておられましたか?」
と、通信が確立されると正直に今の状況を伝えていくシルビア。
先に仕掛けて戦闘行為に入り、こちらの住民を多数死なせて捕まり全艦大破と伝えると無言の返答が続いた。
数十秒後に通信士ではなく、指揮官であろう者が出て了解を伝えつつ、女王にも報告しその後のことを検討するという返答。
それに対しシルビアは待ってる時間は少ないと言い、全ての代償を払うと伝えて欲しいとも言う。
シル星では全ての代償を払うということは自身の命も含まれるのであった。
この通信が確立した時点でシルビアの母星の位置も確認したホーク陣。
鷹士の耳にも一緒に来ていたソフィから入る。
シルビアが言っていた座標とも一致しているので真実を言っているのであった。シル星と呼ばれる星の女王はサーシャ・シールドのようで、同じSSかとも思えた。
そんな通信中に片付けられていくのは部下の死体。
もう完全にお仕舞いだと思っているシルビアは降参どころか全身の力が抜けているようでへたり込んでいた。
初めての捕虜体験は想像を遥かに超えたものらしく、決して敵に回してはいけない存在までも知ることになってしまった。
その後、後ろ手に縛られた状態で連れて行かれるシルビア。
シル星との交渉は第2惑星のガーネット王に委ねることにした鷹士。
当然、何か不利な物言いがあった場合は攻め込むことを含んでいた。
ホーク星に戻った鷹士は、ユッタリすべく猫3匹と戯れる。
逆にシルビアは目の前で部下が斬首された光景が忘れられず震えが止まらずに個室に閉じ込められている。
ソフィですら、未だに慣れない鷹士の敵に対しての冷酷さは最高峰に値すると思っている。
怒りに身を任せではなく、冷静な表情で合図し、表情を変えずに事を進めるのだから。
その命令を受けた特殊部隊員も凄いのだが、皇帝の命令は絶対であることを示している。
戦闘も収まったことを報告された地球側に居る2人もホッと胸を撫で下ろす。
だが、遅い地球側の返答に対して強硬手段を用いようとしていた。
こちらでも電磁砲を使って軍事基地の核兵器に限らず、有害物質を排出する産業の工場を閉鎖に持ち込んでやろうかという案であった。
そんな強硬手段は鷹士が許可しないので、地球側のスピードに合わせるしかないのである。
しかし、軍事目的の武器に関しては緩やかな判断の答えを与えていた。
未だにツンツン突っ突くような攻撃を目論む血の気の多い者が居るようなので、大国には念を押すことにした。
あまりシツコイと黙らせても良いと判断しますと伝えるのである。
数日後、鷹士はまた拠点に顔を出し現場の近況報告を直に聴いていく。
先に訪れたのはアインのほうであったが、日本よりも検討が早い傾向があり受け入れ態勢も整っているようだ。さすが王族が過去から従えてきたことはある。民主主義であっても王の一声は国を動かす。よっぽど突飛押しもないことであれば女王の判断として受け入れるようだ。
これはホーク星でも似ていたので、アインは然程のストレスなく継続出来ていた。
次に訪れた鷹士の母国の日本。
相変わらずというか検討が異常な程長く、かと言って明らかな答えは出ない曖昧さがあったりする。代表でありながら何も解っていない者が表面上に出ているだけで実際は他の者が思考検討したりしているので、決まったことを伝えられて言うだけが代表ということのようである。
検討も、あらゆる分野の専門家が集う有識者会議を設けているようだが、意見が飛び交うだけで誰も収集した意見内から判断に至らない無駄な時間の過ごし方が続く。
有識者といっても、そもそも地球外の生命体の事柄に詳しい者は居ないのだ。
中にはその通りと思える意見もあるが、それを黙らせてしまうアホも居る。
地球上での常識を基本としている時点で、違う方向の答えに向かっているのではないかという意見に対し、保守的な者は変化を好まず、理解を超えたものには拒否してしまう。
事実、人間は己の知らぬものや驚異と感じたことに対しては警戒するものだ。
しかし、好奇心というものがあれば触れてみたい気持ちも現れる。
科学者達にはそれがあるので、我先にと名乗り出てきたのが拠点に集まっていたのだ。それでもまだ過去からの常識とされていた理論が邪魔してしまう者も存在する。
とりあえずの事案は環境改善の名のもとで行われていく。
自動車メーカーも挙って反重力技術の習得に精を出し、医学会もバイオテクノロジーに興味津々であった。
疲れが溜まっているようなマリー中佐にはホーク星で作られたケーキをプレゼントする鷹士。まだ拠点から出れるのはアンドロイドのみであるが、日本という国の隅々まで知っているわけではないので買い物も出来ない。
その買い物に不可欠な決済に関しては、銀行グループが総力を結集して取り組んでいた。国からは同等の価値観を持って資産を移管出来るようにと指示が下っていたが担保もない者に融資は出来ないのが本音の銀行屋。
融資ではなく資産の一部を預けるだけと説明をしたのはマリー本人であった。
銀行側からすれば運用出来るものが入ってくるのであればと思っていたが、マリーは銀行ごと買い取る案も出していたので、早期検討とシステム開発に走り回るのは銀行グループであった。
システムの違いはあれど、この時代の地球の技術はホーク星にとっては子供の玩具並み。AIを組み込んだシステムが主流のホーク側の者は最終判断するだけである。
報告などが終わり、ひと休憩をしているマリー中佐と鷹士。
最近はあまり話していないが、世間話ですら光栄と思えるマリーは緊張感が拭えない。平凡を装う日常に戻ろうとする鷹士であるが、休憩で佇む部屋に訪れる者の全てがお堅い礼儀を交わしていく。
これもホーク星での過去からの常識の1つなので、そう簡単には変えられそうにない。それでも上位指揮官達から徐々に簡素化させているので軍隊式敬礼ではあるが浸透してきている。
もう慣れてしまっていた通信手段で連絡を行おうとしたが繋がらない。
あの中村にと思ったが、スマホすら必要ない通信技術を持つホーク側の普通は地球では通用しない。目の前にモニターが出ても通信不可になってしまうのだ。
環境改善の初歩的なものは拠点内に施されている。
だが、一歩外に出れば地球にいた頃は感じなかった不快感があった。
「ぅ~わっ。こりゃすぐ改善したくなるわな。元を断つには制限あるが・・・ん~、やっちまうか」
すぐに拠点内に戻った鷹士は、まだケーキを食らっていたマリーに伝える。
すぐに地球に展開してる艦隊にもアインにも連絡させて、地球全土に配信せよと。
交渉での遅れにストレスを感じていたマリーは喜びを露わにして了解する。
待ってられないので先に目に見れる改善を施してやろうという魂胆であった。
実際に目に見えるのはデカイ砲弾級のものが発射されるのだが、勘違い野郎が例え撃ち落とそうと結果は同じで、大気の改善で綺麗な空気に変わっていく。
各国首脳も驚きの声明配信にアタフタとしていたが、検討の余地もなく砲弾級はそれぞれのホーク艦隊から発射されていく。既にコロニーもあったので、そこから配られていたのであった。
爆発後に散らばる雨のような光景が続き、地上に辿り着く頃には何も見えない微小な物質が巻かれた。空気中でその効果は発揮されていくので徐々に淀みもなくなっていく。気圧や風に左右されるのでなく利用するので、その風に乗って全土に行き渡るようになっていた。
一見、空の色が変わったかのように見えたが、その後の変化の効果は絶大であった。都心部にいながら森林浴をしているのような爽やかさまで味わえた民衆の驚きに驚くのは政府陣であった。
技術は本物と断定され、有害物質を放つ産業への警告を用意していく国々が後を絶たずに参加表明を表していく。
この時ほど早い検討と決断はないと思えたが、それは諸外国であり日本はまたお決まりの会議に入っていた。
材料と技術は揃っているのに何を検討するのだという思いが募る鷹士。
時に慎重さにも程があるものである。




