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訓練場で息継ぎも絶え絶えの4人。
レベルが違い過ぎて、自身の技の方がおかしいのかと疑問を抱いてしまっているようだ。
格闘途中で、目の前に現れて笑顔を晒す余裕までも見せた鷹士。
「うん、良く鍛えられてるよ。剣術のほうはまだ少し刀身に頼り過ぎかも?斬るのが前提に入ってるのも解るけど、実戦でそんなルールは必要ない。交わしながら意表を突いた攻撃をしてもいい。あのマリー中佐は可愛い顔して剣術に体術も組み込んでるから強い。んで、格闘術の方も変に型にハマってる感がある。教えられた格闘術に自分なりのアレンジを加えたほうが、相手側は見抜きづらくなる。と言っても特殊なのは俺の方か、アハハハハッ」
最後は笑って誤魔化すが、オリガーも微笑みつつ最初から解っていた結果でもある。
さすがに4人相手での超高速格闘で額に汗・・・掻いても居なかった鷹士。
「さて。んじゃぁ、なんだっけ?・・・あっ!そうか、悪い悪い。でも先に・・・プリン食わせて」
またズッコケるようなことを言う鷹士であるが、もう慣れていたオリガー。
真面目な表情のまま顔を傾け、襟元にある通信機に話す。
「こちらオリガー。皇帝よりプリンご所望。至急頼む」
このオリガーのほうが笑えるシチュエーションに見えてしまいそうである。
好物第1位がプリンになっている皇帝である鷹士。
地球にいた頃は、少々、足を伸ばさなければ買いに行けない場所に旨い店舗があった。
その味を求めて、このホーク陣営本部の食堂で見つけたプリンに改良を加えさせ続けた結果、出来上がったのが大満足の一品に生まれ変わったのである。
鷹士の曖昧な表現で、よくここまで出来たというほうが凄いが、他の下士官らにも人気であった。
それは良いとして、獣人族をけし掛けた奴らが直接攻撃に転じる場合にも備えておかねばならない。
地球側との交渉は上手くいっているようで、コロニーも数機が地球軌道上に存在する。
その内の何機かは、何と重犯罪人の牢獄仕様である。
地上で捕まった重犯罪人は眠らせて送られ、起きた時には宇宙空間。
脱走しようとしても宇宙に放り出されるのがオチであり、自動管理でもある。
これには各国も同意されたことなので、ホーク側の計画は上手く機能している。
地球に見合ったサイズの移動手段の物も送られ、徐々にではあるが交通網に変化が訪れていた。
頑固な技術者達も漸く理解する時のスタートラインに立てたようだ。
大きなことは、某国の攻撃性を減らすか無くして欲しい意見があったようで、ミサイル系の武器に使われている電子回路を停止させたホーク側の艦隊。電気が通わなければ動きもしないのだから置物と化した。
核ミサイルも同様であるが、過去からある核廃棄物の処分も艦隊が行った。
地球を綺麗にしつつ、平和に繋げ、より良い生活が出来るよう手助けをしていくのである。
これまで、自衛隊や軍隊が周りを囲んでいたが、こちらも徐々にではあるが拠点周りは減ってきた。
その拠点も地球側の各国から建造要請が出ているほど。
優れた科学技術は、どの国も欲しいはずである。
だが、鷹士が皇帝として既に命令を出していたのは、ワープゲートは決めた国にのみ配置ということを徹底させつつ、大きさも制限していた。拠点建造も増えることを見越しているが、全てに配置するわけではない。
あっちもこっちもと配置したら交通網は麻痺し、平和とは逆の事案が起きてしまうので制限は必要不可欠なのである。
大気汚染にもなる航空機は全て排除し、ホーク側の技術を取り入れた機体が宙を駆け抜けることになるであろう。
地上では充電が必須の車も、浮遊車両にしてしまう反重力技術を取り入れるが、それも制限して浮遊し過ぎないようにし、安全面は上級クラスのサーチ機能搭載を標準にしているので歩行者第1の考えである。例え物陰に居ても車内のナビゲーション画面に映り、自動回避も行われる。
物好きな人用に昔の車の排気音をオプション設定で選べるようにさせたのは皇帝である鷹士であった。騒音にならない音量であるが、気分は違ってくる。
その他の技術であるアンドロイドはまだ伏せている。医療用での活用に限って提供しているが、部分的な腕や足であり、完全体になると頭脳である部分が含まれてしまい、良からぬ使用を避ける為であった。
この頃、鷹士の在籍してる会社が何故か大きく取り上げられ、親会社も利益増収となっていた。
中村や鈴木、田村もまだ在籍し頑張っているが、異星人からの技術提供が会社に利益を与えていた。これは中村がマリー中佐と仲が良いいのが好都合に働いている結果でもある。
そして、とある休日にマリー中佐に呼ばれた中村。
拠点に行くと、もうスンナリ入れるようになっており、生体認証も登録済み。
何だろうと思っていた中村に旅行の経験を聴いたマリー中佐であるが、普通にあると答えた中村を案内した場には小さい方のワープゲートがあった。
「え?・・・これって」目を丸くして驚きも含めた表情を浮かべながら、その先に興味が注がれていた中村。
他の者や部下に指示を出しているマリー中佐も一緒に行くようで、少しは安心出来そうと思ったようだが、旅行なのに荷物無しが不安のようだ。しかも宇宙旅行なのだから。
不安を持ちながら、あっという間に別の場所に移動していたことに気付く中村。頭の周りに疑問符が連投されるかのように周りをキョロキョロとしだす観光客丸出しであった。
マリー中佐が場所の説明をし、ホーク星に程近いコロニー内の出入管理の場だというが、本当は急遽変更されていた。
直にホーク星に着くよりも、念のためというのが理由らしい。
その後、また円が描かれた場に連れて行かれ、光に包まれて送られた場所は本部のあるホーク城の一室。待合所みたいな感じの部屋であったが、中村的には空港のラウンジを思っていたようだが、至って普通に見えそうな部屋であった。違うのは妙に広いことである。
マリー中佐から待つように言われ、この部屋内ならご自由にと。
そう言われても備われているテーブルと椅子があるだけで、飲料水なども見当たらずに椅子に座ったまま周りを見ているだけだった。
そこに訪れた者が、まさにメイド姿に見えるが着衣はタイト気味。
壁に手を向けると、そこから出てきたものは飲料の装置であり、驚く中村に差し出される飲み物ですら驚きで手を伸ばせずに居た。
マリー中佐が戻ってくると真っ先に「お口に合いませんか?」と言われたので覚悟を決めて口にする飲み物の味は美味しかったが例えようがない新しい味であった。
そのマリー中佐が、1歩横に移動し片膝を着いて待つ。
現れたのは中村もよく知る、あの管理官である大熊鷹士その者であった。
軍装姿であるが、間違いないと思った中村は思わず口を付けていたカップを吹き出すかのようにしてしまう。
「ぅぷっ・・かっ、管理官?なんでここ・・・って、どこか解んないですけど、休暇取って何してるのかと思えば・・・というか、これは何ですか?説明を求めます」
微笑みながら終始、頷き続けているのは鷹士。
小さく手を上げると、片膝着きだったマリー中佐がドアらしきものの向こうへ行く。
それに対してもツッコミを入れたい中村であったが、鷹士からの説明を聞きたいほうが先のようだ。
「で、こんな部屋まで作っ・・」
「まぁまぁ、落ち着いて。ここがまだ何処かも把握してない・・・よね?」
「は?ここは拠点と言われる場所の建物の中ではないんですか?」
中村は拠点に訪れた時に、見るからに大きな建物なので中を移動させられただけと思っているようだ。
それに対して鷹士は中村をまだ移動させることにした。
部屋を出て歩いていく2人であるが、擦れ違う人が皆、片膝着きで挨拶をしていく異様な光景に驚きも隠せない中村であるが、同時に嫌悪感を抱いていた。
『何この、王様ぶってるみたいなのは。そんなにここじゃ偉いの?』
と、心の中で文句を鷹士の背中に向けて放っていた。
別の部屋の前で立ち止まり、中村は鷹士にぶつかりそうになるが、思わず殴る体勢を装っていた為にそのままぶつかってしまう。
謝ろうとしたが、目の前のドアらしきものが開き、その中に居た1人の赤髪の綺麗な女性が目に入る。
ソフィも片膝着きで挨拶をしてから鷹士に報告をしようと近付くが、中村にも丁寧に胸元に手を沿えお辞儀する。
当然の挨拶と思い、お辞儀で返すのは中村。
そのお辞儀から顔を上げ、視点を目の前から全体に向けると、そこは街並みが見渡せる展望フロアかとも思える場所であった。
視点を戻し、近くである周りを見ていくと、似たような服装の者が至るとこに居た。
本部の休憩施設とも言える場に皆を呼んで集まらせていたのは鷹士である。
そこで中村を紹介していく鷹士であるが、まだこの光景を信じきれていない中村は、言われるがままのように挨拶をしていく。
何かのコスプレパーティかとも思えたようだが、場所と広さがあの拠点にそぐわない。建物は大きかったが、こんなに見渡せる街並みがある訳もなく、見たこともない光景であるからリアルに造られたグラフィック画像なのではないかと思ったが、空の部分に動くものも見えた。
「ん?まだ信じてない?じゃぁ、まずは俺・・・ぼ、僕の紹介からしようか」
ソフィが中村に鷹士を紹介する形で始まるが、そういう設定なのかと理解しようとしていたが、ここまで大々的にしてるのは映画か何かの撮影のためかとも思いを馳せていた。
しかし、目に付いた者が手元でモニターを出していたり、街並みの上空に飛ぶ物体がリアル過ぎることもあり、俄かに信じがたい光景であるが現実なのかと少しばかり脳内での葛藤があった。
理論派で点と点が繋がり線で結ばれないと理解に到達しづらい中村。
逆とまでは言わないが、鷹士は点であってもその点がそこにあると認識するだけで理解の域に達するので、目の前の状況を直ぐ様、理解し適した行いに繋げる事も出来てしまう。例え不明であっても様子見で理解域を深めていくのである。
次に、目の前に出された食べ物も見たことない中村は、手に取りはするものの口には運べずにいた。
そこへ鷹士が微笑みながら持ってきたのは、プリン。
「ほら、これなら食えるんじゃないか?苦労したんだよ、ここの技術陣」
差し出されたプリンにスプーンを差し入れ、一口大のプリンを恐る恐る頬張るのは中村。
「はぅ・・・ん?・・・美味しい。っていうか、この味って」
地球に居た時に自分へのご褒美と思いながら購入して食べた有名店のプリン。
中村もそこを知っていたし、食べたこともあるので解ったようだが、器も形も違っていたので不思議に思ってしまう。
1つの物が大丈夫と解った時点で別の物にも手を付け始めると、どれもが美味しく止まらない様子の中村。
両手に食べ物を持ちながら次の場所に移動となるが、まるで子供のように駄々を捏ねているようであった。
「えぇ~ちょっと待ってぇ。あっちのも気になるんですぅ~」
「あとで幾らでも差し上げられますので、こちらへ」と、ソフィに付き添っていたマリアンヌ少尉に腕を絡ませられて連れて行かれる中村。
次に来た場で目に飛び込んで来たのは、まさに異世界の物だらけの技術部門であった。通常は来たばかりの者に案内はしないが、見せたところで理解に苦しむであろうから大丈夫という鷹士の言い分。
思いっきり機密事項な分野であるが、思った通りの反応を起こすのは中村。
姿が消える着装、レーザービーム砲だが曲がる放射、アンドロイドの重量級動作、反重力技術で浮かぶ物体、通信ソナーも地球のとは比べ物にならないほどの精確さでクリアな音質と映像であるが、繋がっている場所が地球に派遣されているアイン大佐が映っていた。
皇帝である鷹士が目に入るとすぐに片膝着きの挨拶を交わすアイン大佐。
ここでも中村を紹介するが、まだ片手に持った食べ物を背中側に隠しての挨拶になった。そのお返しの挨拶も先ほど見た胸に手を添えてのお辞儀である。
次に向かうは地球側でも見て経験した円を描いた場に、鷹士も含めて4人が集う。
次の瞬間、移動した先はまた何かの部屋かと思っていたのは中村であった。




