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18~

   18


 そして、約10分ほど経ち、薄くなった砂煙の中から2人の姿がシルエットのようにして現れる。

それを見た兵士が思わず武器を構えるが、出で立ちが違うことに気付く。

「えっ?・・たっ、大佐っ!あ、あ、あ、あれを・・・」

と、現場指揮官である大佐に声を掛ける1人の兵士。


ほぼ全員がその声で気付き振り向くと、まさに皇帝とソフィ司令官が全身を赤く染めて歩いて来ていた。

普通に歩いているのも確認出来るので、全員が前列から順に片膝着きの礼儀を行う。

医療班も同様であるが、真っ先に治療を施そうと走り寄る。

「なかなかいい動きしてたな。上はどうなってんだろうか」

「いえ、そんな。でも光栄です。陛下は全く衰えていませんね。あの速さは絶対に真似出来ません。そうですね、上も大人しくなっているように見えますが」

と、2人は世間話でもしてるかのように落ち着いて、過去の戦闘時も思い出していたようだ。


医療班が出迎えると「おぉ、怪我はないぞ。あるとしたらこの服だ」と、お茶目さを披露。

「いやぁ、通信機持ってくの忘れたのが誤算だな、意外と距離があるから迎えを呼びたかったのに」

地上に降りて部隊と皇帝、司令官でもあるソフィを降ろしたあと、ホーク艦は上空に向かい敵の一掃の支援に向かっていた。

徒歩で帰ってくるのを悔やんでいるかのようであるが、たった2人で敵を一掃してしまい無傷での帰還となったのである。


医療班も驚きの状態で時間が止まったかのように立ち竦み、2人を見ているだけになってしまう。他の兵士達も同様であるが怪我した兵士の傍らに立ち「よく頑張ったな。ちゃんと治療してもらうんだぞ。で、よく休め」と言っていく鷹士。担架に乗せられながらも敬礼をしていく兵士であった。


浮遊車両に乗って移動し、迎えに来たホーク艦に乗り込む2人。

大部隊を動かして、やっとの思いで食い止めていた敵軍の進行だったはず、と思っていたのは現場の全員。

ホーク艦に戻った2人を出迎えた者達は皆、心配していた表情だったようだが、無事に帰還したことに対して片膝着きをしながら「お帰りなさいませ陛下」と申していく。

上空からも見えたキノコ雲だったようで、驚きを隠せずにいたようだ。

その爆発時のことを思い出し、改めて礼を言っていくソフィは鷹士に助けられていた。


敵の大将が最後は巻き込んでの爆死を引き起こそうとしたので、すぐにソフィに知らせるが間に合いそうにないのでフル加速でソフィに覆い被さり、抱き抱えながらその場を離れ凹んでいた場所に隠れ防御を取ったらしい。凄まじい熱風が通り過ぎていくのは感じたが、鷹士の防御オーラに守らていたソフィ。


シッカリ、自分に与えられた武器も持っていたのを鷹士からツッコミを受けていたのは話さずにいた。それだけ大事にされてるなら嬉しい限りの鷹士でもある。


そして戦況は大きく代わり、敵陣は跡形もなく消え去り、地上の方も1人も残っていないようだ。

無人惑星にはポッカリとクレーターが出来上がってしまった。

「あっはっはっはぁ~、やったなぁ。見事なクレーターだ。確かに思いっきりやれとは言ったが・・ん?追い詰めたところに発射?ん~いいねぇ。敵の母星の状況は解ったか?あ~あと、コロニーの防護シールドのバリア、もっと強くしといたほうが・・・ん?違うの?・・・何っ?・・老朽化?」

どうやら発生させる装置がワンランク下のレベルを掴まされていたようで、確認もせずに設置していた過去があるようだ。こうなると、あのバークレイ王だけに責任を負わせることは出来ない。

本部の技術部門に指示し、確認を怠らないよう他の惑星の技術部にも連絡を徹底させていきつつ、バークレイ王にも連絡した。


戦闘が早期終了したのは皇帝のおかげというがすぐに広まり、友好関係も深くなる。

だが、有り得ない光景を現実で見た兵士達はまだ信じれていないようだ。


ソフィには切り傷もあったがナノマシンのおかげで、ホーク星に帰り着く頃には治っていた。

圧倒的な強さを誇る鷹士であるが、さすがに疲れているようだが着ていた服の背中部分が焼けて無くなっているのを不思議に思っていた者も居る。


皇帝室に着くとベッドに倒れるように寝ていく鷹士。

寄り添っていくのは3匹の可愛い猫達であった。


ソフィも同じく相当疲れているはずだが、ホーク星に残っていたオリガーから報告を聴き、今後のことも話していく。アイン大佐とマリー中佐からも心配の通信が入っていたが無事の連絡を入れ、ホッとしたようだ。


体術である格闘術も非常に優れているソフィは皇帝に救われたが、戦闘時の皇帝は化物かとも思えて仕方がないようだ。それでも命の恩人にもなった人なので改めて忠誠を心の中で誓うのである。


一方の地球の拠点は出来上がり、宇宙空間にもコロニーが運ばれ、次の交渉に移ることに。

その交渉は国に対しての技術提供に収まらず、2次的には専用の学校を設立して地球の未来を担う子供達にも教えていくことであった。

だが、日本に限らず英国でも似たような質疑応答が両者の技術者同士で繰り返されていた。

地球での常識や過去の理論は忘れてほしいホーク側の技術者。

そう言われても簡単に理解も出来ず、押し問答になる頭の固さが技術革新を拒んでしまう状況になっていた。

鷹士のように、こういうもんだと楽観的に理解してしまえば事は早いのである。

しかし、過去から積み上げてきた実績なども否定されてるような気持ちは解らなくもない。


歴史上、革命的なものは変人扱いされるのと似ている気もする。

だが、その物体が目の前に存在しているのだから理解するか、受け入れるしかないのである。

さすがに、いくら科学技術が発達しているホーク側であっても、頭の固さを柔らかくする薬は開発されていないのが残念である。


その技術を知り、受け入れるしかないと思っていたのは拠点建造中に訪れた中村である。

ひと月経っても警護の者は去らず、逆に増えたのは政府関係者の訪れであった。

まず何よりも異星人側から個人を指定してきたからであった。

その個人を調べている間に、拠点に訪れてしまったので事後承諾にも値した。

マリー中佐から直接通達があったので自衛官は通してしまったのだが、政府の遅い対応がハッキリ現れてしまったのも痛手である。


単なる1企業に務める女性管理職なのに、最重要人物になってしまった中村。

話してしまった鈴木と田村にも事情聴取に似た接触があり、中村のことを聞いていたようだ。

隠しようがない真実となっている宇宙船飛来と異星人との接触。

更に拠点建設にまで発展していることも全世界が知っている。

某大国では必要以上に隠したがる傾向があるが、無駄にガセネタを放出しても埒が明かない。


結局、何も知らず見たまんまのことを言うだけであった。

日本も英国も、地球に来たのは命令で動いた者であり、更に上の者が居ることを察知していた。

それでも、ホーク星と皇帝とだけで、どのような者なのかが一切不明であった。

直接聞けない政府陣は民間の中村に聞いても無駄なことというのを理解したほうが良い。

中村もまだホーク星の皇帝があの大熊鷹士であることを知らないのだから。

しかも、そのホークというのがゲームをしている時の鷹士のニックネームだったのは中村は疎か、ホーク星の全ての者が知らないのである。


ホーク星でも時が過ぎていたが、敵方の母星を調査していた者からの報告が入る。

獣人族が主体になってと思っていた結果であるが、そのまた後ろにけし掛けた奴らが居るような憶測が含まれていた。どうやら獣人族は駒にされていたようだ。


ホーク星が誇る広範囲サーチにも引っ掛からずに近付ける奴らが居る。

こう、察したのは参謀長官であるオリガーであった。

鷹士よりも様子見が得意であるが、鷹士は正面突破も可能な強さを持っているので、回りくどい作戦を立てても役に立たない時がある。皇帝である鷹士が出撃せずに済む場合に備えての作戦はいくつも立てている。過去のホーク星での戦闘時はこのオリガーの作戦も役に立っていた。


ここまで強く成られるとは、というのがオリガーの本音でもある。

その強さを持つホークこと、鷹士は技術部に妙な注文を出していた。

それは、着ている服の強度に関することである。


新しく出来た試作の服を持って来た技術部門の主任のアンバー。

「陛下、一応出来ました。バリア機能並みの強度でという御注文でしたが、硬さを減らすのに苦労しました。それでも他のより重い衣装になってしまいましたがご勘弁を」

戦艦等にも使用するバリア機能を着る服に搭載させると、大きなバックパックを背負う形状になってしまうので、他の強度のある繊維などを合成して強度アップしつつ、動きに支障がないように柔軟性も持たせるべく研究されたようである。

「おっ?出来た?じゃぁ、早速着てみるか。・・・うん・・・うん。・・・まぁ、確かに重さは感じるが・・・随分とフィット感もあるね。でもこの方が風圧でバタバタせんで良いか。ありがとう。・・・おっ?意外と動けるぞ。ちょっと訓練場に行って試してみたいな」


全身スパッツみたいに見えそうでもないが、暑さ対策も施されていたので、その上から軍装も着れるようだ。皇帝の証にもなる着衣はシンプルであるが、気品ある形状に整っている。

お忍びで出掛ける以外は、この着装であるのだ。


オリガーからの報告の途中であるにも関わらず、訓練場に向かう鷹士。

そのあとを追うように着いて来ながら、報告と今後の作戦について語るオリガー。

聴いていないようで聴いている鷹士は、ズバリと答える時があるので油断も出来ない。

本当に聴いていない時もあるので、再度の説明は要点のみに絞るのがコツと、オリガーは他の士官らに言っていた。


訓練場に着いた鷹士は、そこで訓練をしていた者は一斉にいつもの片膝着きを行い挨拶。

「まぁまぁまぁ、そう堅苦しいのは抜きにして。え~っと、この中で速さを持った者は居るかな?体術でも刀剣術でもいい」

そう言うと、誰もが個人の名を出していき、そいつを呼びに行く1人の男。

すぐに別部屋に居た者を連れて戻って来た。

鷹士の前で片膝着きをして名を名乗り、階級も申し上げていくのは女性の大尉と男性の少佐であった。剣術使いの名手とも言われているのが女性の方で、体術に特化しているのは男性の少佐。

「自分より速く剣を使える者はライバルであり憧れでもある、マリー中佐であります」

「自分は格闘術をメインに訓練しております。憧れはガーネル大佐であります」

どちらも地上部隊所属な為、出会ったことがなかったが、居るとこには居るものだと感心した鷹士。


そして2番目を名乗れる者も選抜し、本気で攻撃して来なさいと言う。

それを間近で聞いているオリガーは鷹士の耳に囁く。

「少しは手加減してあげてくださいよ」と言ったのが他にも聞こえたようだが、鷹士の戦いを見たこともない連中は騒めく。

いくら、強いと噂があってもという思いがあるようだが、皇帝が相手をしてくれる光栄を投げるはずもなく気合を入れる4人。

鷹士は着替えもせずにそのままやるようだ。


オリガーが審判役のようだがスタートの合図を出すだけである。

最初に前に出たのは剣術使いの2人。

その間を縫うように格闘術の2人が迫る。

鷹士が直立状態から両腕を上げる仕草をすると、4人が一斉に攻撃に入った。

だが、ものの一瞬で勝負は決まった。


オリガーが声を上げて時間を言う。

「はい。2秒弱です」

呆気に取られている他の隊員達。


4人は一度に倒れ込むようにして床に膝を着く。

決して礼儀を行っている訳ではなく、向きは鷹士の後ろである。

「ん~、まぁまぁかな。重みは多少動きにと思ってたけど大丈夫そうだ」

と、着ている服のほうの感想を述べていた鷹士である。


4人は一体何が起きたのか解らずにいたが腹部に鈍痛があるのは間違いなかった。

剣術使いの者は2人して目の前から皇帝の姿が消えたのと同時に衝撃が背中まで伝わったと。

体術側は脇腹辺りのようだ。

「有り得ない」4人同時にハモった言葉であった。


一汗も掻かずに終わってしまったのも納得できない4人は再挑戦を申し込む。

「ん?おぉ~いいね、そのやる気、買った。次はもう少し抑えてあげよう」


このあと、幾戦やろうと皇帝である鷹士に勝てる者は居らず、触れることすら適わなかった。

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