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2つの案件が入り乱れる情報がホークこと鷹士に伝わる。
友好関係になっている2つの星には借りもあるので、守らなければならない。
まだ地上では然程大きな争いは起きていないようだが、潜伏中の獣人族は時を待っているのだろう。
短気な連中ではあるが上下関係は厳しいようで、自己判断で行動はしない。
その代わり、集団的行動は一致団結してるように見える。
簡単に言うと下っ端にはアホが多いとも言えるのだ。
猪突猛進の顔ぶれが揃って居そうな獣人族の中にも、少しはキレる奴が居るようだ。
その他で、別の意味のキレる奴は沢山いるが、束ねる側は大変だろうと思うのはこちらの常識であり、向こうのことはよく知らん。
次の日も、抗争は飛び火してるかのように地区の代表が居る王都を襲撃している。
幸い、その他の地区には居ないようであるが、王都に住む住民は避難をしていく。
逆にそれで占領されやすくなってしまうが、住民の命の方が大事である。
そして、ホーク陣営から小隊、中隊、特殊部隊も出撃し、約3日間ほどで王都に居た反逆者共は成敗された。
結構、破壊されはしたが内部に限っていた。こちらの武器は認識に基づいているので、本人以外は使えない。
よって、建造物を破壊する程の威力を持った武器は反逆者共には扱えないのだ。
ホーク陣営側も休日扱いな日が近付くが、それどころではない。
宇宙に繰り出す艦隊も、第2、第3惑星に向かい出航していた。
ホーク星での防御はガーネル大佐が指揮を取っているので、ひとまずは安心出来る。
ホーク城には鷹士、ソフィ、マリアンヌ、オリガーなどの上級指揮官も居るが、地球との交渉は続いているのでアイン大佐とマリー中佐のことも忘れてはならない。
一方は笑顔で接し、もう一方では眉間にシワが寄りそうであった。
そんな状況下であるが最高の癒しを与えてくれる猫3匹にも構う鷹士。
追加報告を届けに来た部下がソフィとマリンヌに渡し報告を続けるが、皇帝に緊張感がないのかと思ってしまう。
それぞれを抱き上げて撫でていた猫をそっと降ろし、立ち上がった次の瞬間に表情は一変した。
「今なんて言った?王都は奪還、それはいい。こっちの損害にコロニーが入っているだと?」
第3惑星上のコロニーには移住した住民が居たのである。
それを単なる数字で表す奴が許せないとも思う鷹士であるが、その被害を出させた獣人族には容赦しないと決めた。
戦闘員が傷を負うのは戦闘中のことで、ある程度は仕方がない犠牲にもなるが、武器も持たず普通に暮らしていた住民に被害どころかコロニー損傷で済まそうとする者は誰だと問い詰める。
友好関係であったが第3惑星のバークレイ王を呼び寄せることになった。
住民を商品の一部としてしか考えていなかったなら、即刻友好関係は破棄すると言う鷹士は今までにない怒りの表情と全身からメラメラと湧き出す何かがソフィをも震わせていた。
近くに居た3匹の猫達も本能で解るのか、逃げ出すようにしつつ物陰に隠れてしまう。
すぐにワープゲートで第3惑星のバークレイ王と、第2惑星の統治者でもあるガーネット王にも来てもらった。ゲート前で腕を組んで待っていたのは皇帝の鷹士。ゲートから現れた2人はすぐに礼儀である片膝着きで挨拶を交わす。
さすがに笑い話をしながら来ることはなく、真剣な表情でいた。
2人から話しを聞くと、既に処罰している者が居ると言う。
バークレイは特に怒りを表面化し、コロニーに居た住民のことを気遣っていた。
商業が主体であっても住民は我が星の宝なのだと言い張り、商品はまた仕入れれば良い話とハッキリ言う。ガーネットの方は敵の潜入を防げなかったことを悔やんでいた。
現況は、第3惑星の地上に設置してある連射砲で、ワラワラとやって来る敵を撃ち落としているという。
第2惑星では地上軍が応戦中ということであるが、そんなことは聴いていなかった鷹士。
「ちょっと待ってくれ!地上で応戦中?バークレイの方は空に向かって撃ってるんだろ?何故にガー・・・のほうは地上なんだ?」と、自分側のガーネル大佐と名が被り、妙な略し方になってしまう。
まるでウイルスのように降ってくる敵軍の片割れが第2惑星にも降り注ぎ、地上に配備してる大型武器では第3惑星に被害が生じる方向から押し寄せて来てるようで、地上に降り立った奴らと交戦中ということのようだ。幸い、住民が居ない砂漠地帯に近いが無法者までが敵に向かって争っていると。
その地の権力に反抗はするも、獣人族に縄張りを荒らされるのは許せないようだ。
今は執行側と協力体勢で敵に向かって争いが続いていると。
当然のように惑星間の観光目的な移動は全面禁止。
宇宙空間にある他のコロニーも移動を開始し防御には戦艦などが当たる。
小型無人偵察機は戦闘時用に設定変更され、敵の追撃に応じていく。
第3惑星より向こうでは戦争状態に突入しているといっても過言ではなかった。
第2惑星のほうにはこのホーク星からも更なる部隊を派遣していく。
近くに居た戦艦も応戦に向かい、第3惑星の方からダダ漏れて来る敵を一掃していく。
大元は第3惑星で精製しているパワーコアの原料が目当てのようだ。
かと言って惑星ごと移動出来るはずもなく、痺れを切らした獣人族が一斉にやって来た模様。
2つ目の太陽に近付くと妙に活気付き、獣人族の中でも争いは多くなる時期であった。
満月を見た狼男が数万、数十万、数千万といるようなものである。
弱肉強食の世界なので共存なんて言葉は、ドブに捨てられているような世界でもあるが、争いを好まない連中も居る。強い者だけが生き残る世界では強い者に従うしかない。
表面上は似ていても、統治は強い権力で他の者を押さえ付けているのではない。
強い権力は悪しき者に対しての盾でもあり、そこに住む者を守る為なのである。
地球に居る時は様子見をしながら事態を避けたり、何とか治めようと努力しつつ上司に取り次いでも扱いは軽く、下請け会社への苦情は減らなかった時もある。その苦情が倍増したかのように上がってくるから大変な部署であった。
そんな時の鷹士の本心が、こちらの世界では露わになっているようだ。
ゲーム上で敵をやっつけると鬱憤が晴れていくのも思い出す。
今回は鬱憤ではないが、統一して平和が訪れた世界を壊そうとする奴らが敵なのだ。
既にソフィ達は飛び回り、部下に指示を出して回っていた。
手元から指示や命令を出せる機器ではなく、直接出向いて各本人に伝えることで危機感をも伝えていた。
なんと、ジャーマン大将までがソフィに敬礼をし「イェッサーッ!」と言って走る姿を目撃している者も居た。普段からすると驚きの展開である。『えっ?あのエロジジイが?』と思っているのが多いようだ。
地上軍統括責任者であるが、ガーネル大佐達を第2惑星に向かわせ地上軍を指揮させるよう言われ、ホーク星の地上部隊全ての指揮を任せらたジャーマン大将であった。
指揮系統のトップであるホークである鷹士も行きたいが、地球側のこともあり、離れるわけにいかずムズムズしてしまう。落ち着き感が削がれているので安易に近付けないのは誰もが一緒。
そんな中で、鷹士が口を開いて呼ばれた者は、緊張感どころか恐怖感すら感じるようだ。
「んぬぬぬぬぅ~、糞虫共めがぁ~・・・えぇ~~い!あれ、持って来てくれぇ」
そう言った鷹士の前に来たメイドのひとりは、片膝着きをしつつ【あれ】とはを恐る恐る聴いていく。
それは、まさかの物であった。
戦闘時になりそうな雰囲気の中、その物を急いで取り寄せるメイド。
戻って来て皇帝である鷹士に渡したものは、地球で言うイカを乾燥させたスルメイカに似た物であった。
それを口に頬張り、噛んで怒りのストレスを発散させているようだ。
それを3匹の猫にも与えて一緒にガジガジしていくのであった。
希にこういう展開があるので、メイド達も一気に気が抜けてしまうこともあるよう。
鷹士は検討していた。向こうさんである獣人族にはバリアを通り抜けられる技術も持っているのか、たまたまバリア濃度が薄い時だったのか、コロニーに攻撃したのは事実。
言おうとして振り向いた時、ソフィが居て先に言ってしまう。
「艦は出港準備出来ております。そして、報告です。コロニーの住民に死者は居ません。しかし、緊急手術をしている者も居るようです。こちらからも医療班をマリアンヌ少尉を筆頭に向かわせました」
「おっ、おぉ、そうか。・・・手術だと?そんな大怪我した者までいるのか?それは残虐非道な奴らだな、うぬぬぬぬ。ヨシ、出るぞ!」
向こうにしたら只邪魔だったからに過ぎないようで、命を軽く見過ぎている傾向があるようだ。
そのお返しとして、残虐非道な奴らには冷酷無比なサービスをお見舞いしていくのが鷹士。
命令を受けるソフィは短い返事のみであるが、心の中ではドS魂に火がつくように『喜んで!』と言っていた。
ホーク艦出撃となるが、オリガー参謀長官には残ってもらい、地球側との交渉の報告や現況を見ていて欲しいと頼んだ。こうして一点集中になれるので思う存分、敵にサービスが出来るのである。
この時点での報告はアイン大佐とマリー中佐にも届くことになる。
まずは第2惑星上空にて既に戦闘中の味方軍への支援を施し、地上にホーク艦のみが降りる。
上空から見ても戦闘中が見えたので、ソフィも鷹士も別の意味で腕が鳴る。抑えているが震えが生じてしまうソフィ。
「ソフィ、降りたらこれでもかってくらい、やっていいぞ」と、口の片方だけニヤッと微笑み、握った拳を見せ親指を立てた。
皇帝のお許しが出たので、ソフィは笑顔で敬礼し「了解致しましたっ!」となった。
遂にホーク艦から部隊と共に最後に降りて行くホークこと鷹士とソフィ。
上空では艦隊と無人機が応戦中。
部下にばかり負担は架けられない思いがある鷹士は真っ先に最前線に向かおうとするが、その部下達は皇帝の手を煩わせるなという思いがあるようで、妙な対立が起きそうであった。
ソフィはもう長距離射撃を行っていた。
現場指揮官であるものが報告をしてくるが、見れば解る状況であった。
「んー、もういい。正面の部隊だけでも引かせろ、撤退させて休ませろ」と鷹士は言うが、現場指揮官は引かずにまだやれます的な言葉を並べていく。
そんな言葉の連打はもう鷹士の耳には入っておらず、立ち上がって武器を取り颯爽と最前線に向かってしまう。
部隊を移動させる機体に乗り込み、操縦士に問答無用で指定の場所に向かわせ、最前線の上空から飛び降りる鷹士。
地上に降りた時には四方八方に敵がワンサカ居たが、鷹士の表情は悪魔的微笑みであった。
最前線どころか、敵の真っ只中に降りたようだ。
その数秒後、最前線で戦う兵士が見たのは、砂煙と敵が宙を舞う光景であった。
音と声に気付いた敵側も振り向くと、異様なまでの光景に一瞬唖然としてしまう。
その最前線の中を疾風の如く走り抜けて行くのはソフィ。
ソフィの通った後には無数の敵の残骸。
砂煙と敵が宙を舞う光景が大きくなるのも見えていた。
やられる仲間を見て舞い戻る敵兵達。
その場に残った兵士達も唖然としていた。
現場指揮官が到着した時には、最前線は遠のいていた。
「おい、今、こっちに皇帝と司令官が・・・なんだ?何があっ・・・何だあれは?」
砂煙が収まりかけてくると敵軍の残骸の山が出現した。
その直後に敵軍の長が居るであろう場所で大きな爆発のキノコ雲が発生し、遅れて音と爆風が押し寄せてくる。
「え”っ?・・・ちょっ・・こっ、皇帝は?司令官は?・・・どうなってんだよ、これ」
現場指揮官は理解に苦しむようだ。
部下は無事な者が多いが、トップである皇帝と司令官を失っては、どうしたらいいのか解らずに居た。
撤退命令は出されていたので、部下には指示をする。
怪我人を担ぐ者や担架で運ばれるものも居た。
あの爆発に司令官と皇帝は巻き込まれてしまったのだろうかと、悲しみと悔みが入り混じっていた。




