05
三人で森へやって来た。ほかに声をかけたら駆けつけてくれる仲間はいるが、ただの討伐任務だ。3人で十分だろう。
依頼書によると、特殊な魔物ではない。羽が生えたり、火を噴いたりといった能力はないようだ。大きな害獣駆除といっていい。
少し歩くと、棲家となっている洞窟が見えてきた。遠くから様子をうかがう。
肌がごつごつとしていて、サイのような表皮だ。身の丈は3メートルほどだが、今まで倒してきたモンスターに比べるとそれほど大きくはない。
さっそく、遠目から魔法で攻撃を仕掛ける。まずは雷属性の魔法。森の中で火を出すわけにはいかない。雷なら、意識を集中させれば、ピンポイントで攻撃できるし、火の粉が飛んだりはしないので山火事の心配はない。
腕輪に刻印されている紋章に意識を集中する。魔物の内側から電流が光り出すようなイメージだ。
大きな音とともにモンスターの体が光る。
無傷だ。さすがに一撃で倒せるとは思っていなかったが、まったくダメージを与えられないとはおどろいた。
魔物はあたりを見渡す。するとこちらと目があった。
「どうする?気づかれたみたいよ」ジュリーが訊いた。
「迎え撃つしかありませんね」とソフィア。
「そうだな」
特に作戦を立てる必要もなく。各々散開する。ソフィアは距離をとって、後方から魔法を。ジュリーは脇へ回って、相手の隙を伺う。
魔物はこちらへ向かってくる。僕は、正面からの突進を受け止めるべく、鞘から剣を抜いて、待ち構えた。
剣の腹で魔物の状態を受け止める。全身に大きな衝撃が走った。かろうじて体制が崩れそうになるのをこらえ、全力で押し返す。
ひるんだところを、袈裟切りにする。無傷だ。どうやらかなり頑強な体をしているらしい。
どうしようか、何か弱点はないかと魔物の全身を注視した。
「アイン!背中が怪しい。弱点じゃないか?」様子をうかがっていたジュリーが叫んだ。
確かによく見ると、淡く光っているような水晶様のものが見て取れた。
あれ、さっきまであんなものあったか?
「どうかしましたか」ソフィアが不思議そうに声をかけてきた。
「大丈夫だ。なんでもない。ジュリー搖動をたのむ。ヤツが気を取られたら、ソフィアが目くらましと足止めを。そのすきに俺が止めを刺す」
ジュリーは、すかさず、敵の目先に切っ先を振り注意を引いた。ソフィアはそれを見て、魔法を発動させる。火力は弱いが、目くらましに効果的なやつだ。
煙が広がり、敵が戸惑っているのがわかる。
僕はすかさず、背後に回って、剣を突き立てる。さっきまでの頑強さが嘘のように、背中の水晶にひびが入り、モンスターは霧散した。
「やったな。アイン!」
「やりましたね!」
ふたりが嬉しそうに抱きついてくる。僕もそれに答えるように笑顔になるが、どうにもひっかかる。
いつも通りの討伐だ。それほど苦労はしていない。
いや、苦労なんて微塵もしていない。
それどころか、楽すぎる。
背中に弱点だなんて。以前、全く同じ倒し方をしたような気がする。
同じ種類のモンスターとかではない、この状況全てがおなじ、ジュリーの剣の振るいかた。ソフィアの魔法の種類。背中に刺さっていく剣の感触。既視感というにはリアルな感触。
「どうかしたか」ジュリーが心配そうに、僕の顔を覗き込む。
「いや、なんでもない」そう言ってみたが、頭の中では、ギルド前で出会ったあいつのことを考えていた。