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夢。これは夢だ。異世界に始めて来たときの場面。草原で目を覚ました。朝とも夜ともいえない空。薄闇にあわい朱色の混ざった空だった。実際と違うのは、人影が見えることだ。あの時は誰もいなかったはずだ。
人影は頭から黒い布、というよりも全身に黒つぶれした影をかぶり、ぼんやりとゆらめいて、輪郭ははっきりとしない。しかしなぜだか、口元だけがよく見えた。
口を動かして、なにか言っている。声は聞こえない。しかし不思議と意味はわかった。
「め を さ ま せ」
そこで目が覚めた。いつもの自宅の寝具の上だ。部屋の中を見渡すと、テレビもパソコンもない。“こちら”の世界だ。以前は“あちら”に戻りたいと思うこともあったが、今となってはかなり昔のことのように思う。今は確信している。“こちら”が僕の居場所だ。
妙な夢を見た気がしたが、目覚めは悪くない。もう、夢の内容など忘れてしまった。そんなことより身支度をしないと、今日は用事があるんだ。