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9.冒険の第一夜

結局、あれから途中でした30分休憩2回を入れて12時間経過した。

既に日は落ち、空には綺麗な月と星が輝いている。

これまで魔物には14、5回遭遇した。

この数は随分少ない方だとレインが感心していたのはわずか数分前のことだ。

進んできた道は平坦で、出発当初と風景はほとんど変わらない。

けれど、俺とレインは相当なハイペースで前へ進んだらしい。

小さな木陰で今日はここまでにしようとレインが言った時、予定の倍近く進んだと話した。

ひとえに魔物の数が少ないおかげだろう。


この世界での魔物は冒険者の重要な収入源である。

動物ではない魔物は心臓を持たない。

変わりに"魔力核"と呼ばれる魔力結晶体を体内に宿し、そのエネルギーを循環させて生きている。

そして、魔力で生きていながら魔力を自ら生み出せない魔物は魔力核の魔力を充電するために他の魔力を持つ生命体を喰らう。

この"魔力核"は言わば充電式の電池である。

あるいはケータイなどに使用されるバッテリーというのが正しいだろう。

繰り返し使いすぎれば、時間が経ちすぎれば次第に老朽化していく。

そうして、魔物は魔力核の衰えに伴って死んでいく。

この魔力核は魔物の種類によって傾向がある。

強い魔物の方が大きく質のいい魔力核を持っており、大きく質のいい魔力核であればあるほど一度に蓄えられる魔力量は増え魔力核の寿命も長持ちになる。

ドラゴンのような上位種にもなれば魔力核は非常に大きく質のいいものとなり、それに伴って蓄えられる魔力量や蓄えた際の魔力の質が向上する。

それは、100年近く食事をせずとも圧倒的な力を発揮できる程のものであり寿命も平均して5000年は生きるほどである。

この魔力核は、魔力の貯蓄という貴重な性質があり魔物からしか取れない。

そのため冒険者はこの魔物から取れる魔力核を売ることで主な収入とする。

他にも、魔物の素材は売買されるし魔物を討伐する事自体にお金が支払われる"クエスト"が冒険者ギルドで受注できる。

冒険者はこれらの稼ぎで生活をするのだ。


と、まぁ、本を読んだだけの情報だが間違ってはいないだろう。

魔力核は最初のビーストオウルを含め12個回収した。

内訳はAランク1つ、Bランク3つ、Cランク2つ、Dランク4つ、Eランク2つ。

即遇した魔物のいくつかは俺のオーバーキルで砕け散ってしまったが、粉々になった魔力核も俺は個別で回収してある。


普通、Aランク以上の魔物はどこか僻地か高難易度ダンジョンの奥の方にしかいないそうだが、出会う魔物の数といい俺がイレギュラーを引き起こしてる可能性があるそうだ。

Aランクの魔物に出会った時は意外にもレインは焦ったような反応をした。

そして、その反応に焦った俺が超高威力魔法を放って惨殺するという形でAランクの魔物はこれまたあっさり退場する事になった。

まぁ、そんなこんなで俺は道中クレーターを幾つか作ったが、そこまで人が通る道ではないので問題にならないと思いたい。


とにかく、ここまでの旅は非常に順調だ。

さしたる障害もなく冒険初日の夜を迎えられた。

木の棒を4箇所に立てて黒い布をかけ囲いを作る。

その中で火を起こし晩御飯を用意したり、寝袋のようなもので寝たりするのだ。

夜になれば火の光は目立つためそれを避けるための囲い。

夜は魔物量は増加するが空を飛ぶ魔物は大抵羽を休めて地面に降り立つ。

だからこそ、囲いで目くらましを作ればそこそこの魔物は凌げるらしい。

煙や匂いにどうしてもつられてくるやつもいるが、見張りさえ立てておけば大事ないという話だ。

俺の幸運値も働くだろうし夜を乗り越えることに問題はない。


が、昨日からしていない歯磨きがしたい。

そして今朝から旅をして汚れた髪やからだも洗いたい。

というか風呂に入りたい。

これはどうも耐え難い文化の違いである。

人は獣人より牙を重要としない。

匂いや五感を重要としないしそれほど敏感ではない。

というかそもそも、現代人であった身としては最低限の清潔は守りたいものである。


さてでは、何が問題かというと簡単な話、その要求を満たすほどの水がないことだろう。

飲料用の水を使うわけにもいかないし、かといって余分な水を持ってきているわけでもない。

そしてこの近くに川や池があるなんてこともなくただただ広がっている草原。


そう、草原だ。

草花が育つだけの水分がこの大地には存在している。

それならその水を少しばかりおすそ分けしてもらってもいいんじゃないだろうか。


囲いの内側でフルーラビットの肉を料理するレインをちらりと覗き見る。

囲いの外側はすっかり俺に任せてくれたようでこちらの動きに反応することはない。


囲いから数歩離れて、俺は魔法を発動した。


「天は渇き餓えた大地に恵を与える。

恵は地の果てをめぐり地より湧き出る。

それはあらゆる大地の命を育み一処へ流れる。

"恵の(フォンス)"」


ズッと大地が動き直径10メートルほどの浅めのくぼみができ、綺麗な水が湧き出てくる。

ほんの数分でくぼみは水でいっぱいになり、満足してこっそりレインが出発前に破棄していた荷物から拝借していたレインがこちらに来るときには水が入っていたという容器に汲み取っていく。

3つほど容器がいっぱいになったところで知らない足音と声が耳に入る。


「ネオン、悪いな。

明日には町に着くはずだから、それまで我慢してくれ。」


低い男の声でどうやら切羽詰まった様子に聞こえる。

姿はまだ確認できない。


「ミランも疲れてるでしょ。

今日はこれ以上は進めないよ。」


今度は女の声。比較的若いように聞こえる。

その姿を今度は視認できた。


約80メートルほど先。

ゆっくりと歩いてくる三人組が見える。

1人は背中に背負われているようだが、流石に詳細はわからない。

ネコの獣人であるため夜も昼もかわらない視界を確保できるが、見ることは残念ながら得意分野ではないしほぼ人間と変わらない視覚能力である。


しばらく三人組の観察を続けようとしたが、レインに呼ばれたことにより一先ず夕食を食べることにした。

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