8.冒険の始まり
ブックマークしてくださっている方、感想くださった方ありがとうございます!
まず、誤字のご指摘ありがとうございます。
今回いただいた誤字のご指摘は7月1日に訂正させていただきました。直っていない、ここも気になる、等ございましたら是非お伺いいたします。
また、句読点が多いということでしたので今回から少しづつ修正を入れさせていただきましたが、まだまだ直っていないところもあると思います。
自分では気がつけなかった点をご指摘頂けるのは本当にありがたく、ご参考にさせていただきたいです。
ここまでこの小説を読んでくださりありがとうございます。
今後も出来る限り努力していくつもりですので、よろしくお願いします!!
朝。
まだ日が昇りきってない時間に起こされた。
「随分早くに出発するんですね。」
まだ半分寝ぼけたままにだらだらと渡されたサンドイッチを食べる。
ぼんやりと窓の外の薄オレンジの太陽を眺めながら言えば、レインは部屋の中の荷物をまとめながら答えてくれた。
「夜は魔物の動きが活発になる。特にここは大森林の近くだ。
数が多すぎてまともに前には進めなくなるから、朝早くに移動を開始ししないとろくに移動距離を稼げない。」
なるほど、そういえば昨日もこの辺りが魔物の数が多い場所でしかも夜には活発になるとかそんなことを言っていた気がする。
魔物の数が大森林に近いと多いというのは初耳だが、まぁそうなんだろう。
「けどそれなら、もしかして俺たちなら夜でも移動出来るんじゃないですか?」
昨日の自分のステータスを思い出しながら聞けば、レインも既にその可能性を考えていた様でわざわざ朝早くに起こした理由を説明する。
「あぁ、けど、お前のその幸運値がどれくらいの効果かまだちゃんとわかんねぇだろ?
今日は、というか次の街に着くまでは様子見だ。」
それに納得して頷いてから、昨日の夜考えた幸運値と俺が魔法適正なしでどうしてあぁやって魔法を使えたかの理由を話してみる。
「あー、これは、俺の考察なんで的外れかもなんですけど。
俺、知力が一般の魔導師より低くて、魔法適正もなしだったじゃないですか。
で、俺、あの魔法使うの初めてだったんですよ。
だから多分、幸運値とオートスキルのビギナーズラックが働いて運良く、たまたま、けど必然的に成功したんじゃないかと思うんですよ。」
俺の言葉にレインが納得した様に頷く。
「オートスキル"初心者の幸運"か。
それに幸運値も99999超えてるんだしな。
まぁ、魔法適正なく知力も低い状況で考えられるのはそれくらいだが、魔力についてはどうなんだ?」
「あ、それは一応、俺が一般とは違う魔法理論を使ってるからですね。
俺の魔法理論では全ての規模、全ての現象を同等の少ない魔力で再現できるので。
ただ、オリジナル魔法を魔法として成立させるとさらに魔力消費が抑えられるってわけですし、一応魔法に名称と詠唱考えてみました。
ただ、まだ魔法自体試してないのでどうなるかわからないですが。」
考えられる俺の魔法についての考察は俺が朝ごはんを食べ終わったことで打ち切りとなる。
レインは既に朝ごはんを食べ終えて準備を終えていたので、俺も本の入ったリュックを背負って立ち上がる。
レインの荷物は見た所そう多いわけでもなく、まぁ三日間友達の家にお泊まり会に行く、程度の量に見える。
服装は昨日と変わっているのでおそらく服は何着か持っているのだろう。
しかも、昨日と違い腰には一本の剣が下がっている。
これから旅に出る、という感じでワクワクする。
宿代は最初にまとめて払ってあると言うことなので、まだ静まり返った宿を音を立てない様に小さな町を後にした。
町を出て舗装も何もされてない土と草の道をまっすぐ辿って歩いていく。
東から南西へ、太陽に背を向ける形だ。
道の周りはただ広い草原が広がり、所々に岩が見える。
随分シンプルで殺風景な場所だ。
魔物が多いとは思えない。
約2.3時間ほどひたすら歩き続けた。
何が起こるわけでもなくすっかり夜が明けて爽やかな朝の空気が心地よくなってきた頃。
俺は生まれて初めて魔物に遭遇した。
何もない平原で不意に魔物に襲われることなんてないと高を括っていたが、魔物との遭遇は完全に不意だった。
魔物は空からやってきた。
低い声で喉を鳴らし鋭い爪が地面を抉ってそれは俺たちの目の前に降り立った。
茶色い羽根に白い毛、短めの嘴からは針の様な牙が幾つも覗いている。
体長は2メートルを超えているのではないかと思う。
明らかに威嚇してくるそれは、ばさりと羽根を振るうだけで空気が振動し迫力がある。
おそらく俺と違って空も警戒していたレインがすぐに剣を抜き放った。
生まれてすぐに一度だけ見た母親の剣に比べてレインの持つ剣は随分簡素で飾り気がなく、重い光沢を放っている。
おそらく高価な本が沢山あった俺のうちは裕福な家庭で、母親の剣は相当高いものだったはずだ。
それに比べて素材の質は劣っているように見えるレインの剣は、けれど母親の剣よりも高い攻撃力を備えているんじゃないかと直感した。
「ビーストオウルか。」
レインがぽつりと呟いた言葉に耳と、脳が反応する。
魔物については、様々な物語が、様々な英雄譚が、そして一冊の古びた図鑑が、多くを教えてくれた。
ビーストオウルの記述があったのは、図鑑と"イコリスの冒険書"という日記を本として記したものの二冊だ。
曰く、平原を自在に飛び回り鋭い爪と牙で上空から獲物を狩る魔物で、広い場所での戦闘力はBランクに達する。
群れることはなく基本は単体だが風の魔法攻撃も使ってくる上に賢く飛行能力も備えた相当厄介な魔物だ。
魔物を初めて目にした俺と、Dランク冒険者のレイン。
目の前のビーストオウルは明らかに格上だがレインは特に焦った様子もなく剣を構えている。
必要があれば、俺も何か援護ぐらいはしよう。
そういう面持ちでいるとレインがゆっくり後ずさりして俺の側まで近づいてきた。
「ハークス、お前あれ倒せるか?
今後の旅でお前をどれくらいの戦力に数えられるか知っておきたいんだけど。」
なるほどそう来たか。
普通の状況なら絶対倒せない敵を前に試すだなんて、レインは随分余裕らしい。
とにかくレインの言葉に俺はビーストオウルを改めて見た。
「無理。ではないと思いますが。」
自分の2倍以上の体格の酷く圧倒的な存在に少々不安になるが、俺自身俺がどれくらいの状況まで対処出来るのか知っておきたい。
ゆっくりと空を見上げる。
周りの魔力に自分の魔力が溶けていくのを理解する。
魔法を展開するのと同時に、昨日考えた詠唱と名前を口にする。
「それは、煌々と輝く光である。
それは、轟々と迸る音である。
その光は天より降り立ち、その音は天より響く。
それは天に分厚い陰りをもたらす。
それは多くの水を伴い風を纏う。
それは天を荒らす誘いである。
"暴風起こしの稲妻"」
じわじわと風が巻き起こり青かった空に灰色の雲がかかる。
はじめはぽつぽつと降り出した雨はあっという間に大粒になる。
吹き荒れる強風がビーストオウルの行く先を遮断した。
降りかかる大雨がビーストオウルの翼を濡らし地に縫い付けた。
そして、名前を言うのと同時に巨大な落雷が発生する。
当然、落雷の中心地はビーストオウルだ。
光が地面に抉る光景の直後、ゴオッと雷の降ってくる音とドォンと雷が墜落しきった音が同時に聞こえる。
立ち上る土煙であたり一帯が見えなくなり余った電気エネルギーが地表面でバチバチと音を立てて弾けるのだけが確認できる。
徐々に雲が散り、風が流れて視界がクリアになる。
そして元の綺麗な晴れに戻った。
目の前に広がるのは直径10数mをこえる大きなクレーター。
そこには、かつてあったはずの土の道も草原もない。
抉れて地表がむき出しになった中央に焦げてちりじりになり原型をとどめていない何かーービーストオウルの死骸がある。
それは明らかに、思っていたより威力が強かったようだった。
ちょっとオーバーキルだったなと思ってレインの表情を伺えば、レインは思ったより何てことはなさそうな顔をしている。
「あの、なんか、やり過ぎちゃったみたいですね。」
声に出してみる。
レインに話しかける形でとったその言葉は、自分が込めた思いよりはるかに軽くあっさりと音の形をとった。
俺はたった今、この世界で初めて命の搾取をした。
自分より強いはずの生命体をたった一撃であっさりと殺した。
前世で、うっとおしいからハエを殺す、といった事象よりはるかに簡単に、あっさりと、対象は跡形もなく命を落とした。
今の光景を見るに、この世界で俺はきっと人間を含めたほとんどの生命体を簡単にあっさりと殺せてしまうのだろう。
酷くゾッとする事実だが全くたいしたことないようにも思う。
考えていると、レインは肩をすくめる。
「まぁ、こうなるってはじめからちょっとわかってたけどな。」
レインが言った言葉に眉をしかめる。
俺にとって予想外だったこの結果をレインは予想してたという。
あまり楽しくない事態である。
俺が黙っているとレインが少しため息を吐いた。
「なんていうか、お前いろいろ規格外っていうか、ちょっとぶっ飛んでるっつーか?
しかも少しどころじゃなくものすっごい世間知らずだろ。
だから、全く歯が立たないかこうなるか、どっちかだろうって思ってたんだよ。
普通は魔法って大規模なものは相当な魔力や魔法適性がないとできないけど、それもお前知らないんだろ?どーせ。」
レインの言葉に反論しようとして、言葉を止める。
レインの言っていることは間違いではないのかもしれない。
俺はこの世界についてあまりにも無知だ。
知識だけは増やしたが、この世界の常識を、この世界で生きるための知識を、何も知ろうとしてこなかった。
そういうことなんだろう。
「すいません、早く先に進みましょう。」
考えていたことを振り払って笑顔を作った。