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7.最終目的

7月1日、ご指摘いただいた誤字を訂正しました!

部屋に帰ってきて、俺はベッドに座り、レインは椅子に座る。


話を切り出そうと、俺が口を開くその前に、レインは話を始めた。


「ハークス、さっき食堂でも言ったが、今後の話をしよう。」


最初に、俺に頭を下げてきた時と同じ、真剣な表情で切り出したレインに、俺は頷く。


俺の反応に、頷き返したレインは説明を始めた。


「今、俺たちがいるのは大森林のすぐ横、東の大国オリエトスの東側の小さい町、ソリエ。

まぁ、東の果てだ。

そして、俺たちの最終目的地は俺の故郷、南の大国アリステリスの首都ヘリアンサス。

即ち、南の果てだ。

世界を、半分縦断する長旅になる。

俺もここに来るまでに十分準備して出発したが3年かかってるしな。」


一時期地図帳を貪るように眺め続けたおかげで、頭の中にしっかりと入った世界地図を思い浮かべながらレインの説明を聞く。


「行きは3年ですか。

……なら、帰りはおそらく6年ほどかかる、と見ていいですかね。

それで、救いたい妹さんについて、詳しく教えてもらえますか?

人質、とかですか?」


普通に、最初に考えた病気の可能性は3年かかったという言葉に違うだろうと考えて、別の可能性を、口にしてみる。


一瞬、目を細めたレインにびくりと体が震える。


が、次の瞬間にはいつもの表情に戻ったレインが先ほどと同じように説明を始めた。


「いやー、妹は"呪い"にかかってるんだ。

加護持ちが、光属性の魔法を使うとどうなるか知ってるか?」


レインの質問に、首を振る。


呪い、か。


前世ではあり得ないことだから、その考えは思いつかなかったが、加護と呪い、なにか関係があるのかは残念ながら俺の知識には存在しない。


首を振った俺に、レインは正解を口にする。


「加護持ちが使った光属性の魔法は"聖属性の魔法"になる。

他にも、呪い持ちが闇属性の魔法を使えば"魔属性の魔法"になるし、加護持ちが振るう剣術は聖剣術に昇華される。」


なるほど、"加護"にはそういう力があるのか。


まぁ、光属性の魔法も剣術も使えない俺にはあまり関係なさそうな話だ。


知識程度に覚えておこうと考えて、レインにさらに詳しく話を聞く。


「呪いを解くのに"聖属性の魔法"が関係あるんですか?

ですが、それだけではわざわざ大森林まで来て"ネコの獣人"を探して頼ってきた理由にはならないと思いますが。」


疑問を口にすれば、レインが即座に答えを返してくれる。


俺の質問にレインが当たり前のように答えを返すのは、俺が無知過ぎるのか、レインが博識なのか。


後者だと思いたいが、きっと両方なのだろう。


「"聖属性の魔法"そのものは関係ないが、聖属性と魔属性は相反する属性だ。

なら、呪い持ちと加護持ちが打ち消しあう、相反する存在だということだろ?

普通の解呪では解けない呪いでも、あるいは加護持ちの解呪なら解けるかもしれない。

当然俺は、すぐにアリステリスの解呪ができる加護持ちを頼ったが呪いを解くことはできなかった。

けど、他にもう方法は思いつかない。

だから、より強い加護を持つネコの獣人に解呪をおねがいするしかないと思ったんだ。」


なるほど、加護持ちと呪い持ちが相反する、だから加護持ちなら呪いを解けるかもしれないというのは、なかなかありそうな発想だ。


が、試したがダメだったから、より強い加護持ちを探した、というのはよくわからない。


加護に強さがあるものなのか?


そして、わざわざネコの獣人を探したということはネコの獣人に与えられた加護は相当強い加護ということなのだろうか。


考えていると、レインが察したのか加護について詳しく説明してくれた。


「加護って言っても、いろいろあるんだ。

"精霊の加護"、"天地の加護"、"聖王の加護"、それにお前の"神樹イグラルの加護"。

他にも多く存在するが、この加護には強さがある。

正確に言うと、加護の強さというより、加護のランク、だな。

精霊や天地のような自然系の名称が入った加護より、"聖"の単語が入った加護の方がランクが高く、"聖"より"王"という単語が入った加護の方がランクが高いし、"王"という単語の入った加護よりも"神"の単語が入った加護の方がランクが高い。

まぁ、王や神のランクの加護は滅多にないが。

加護を大きく二つに分けると、"個人に与えられた加護"と"代々種族に与えられる加護"だ。

世界中に存在する加護持ちの大半は個人だが、個人に与えられる加護は大抵自然系の最低ランクの加護だ。

それに比べ、種族に与えられる加護は、その加護の数自体は圧倒的に少ないが、桁違いに強い王や神のランクが多い。

しかも、その加護は種族に深く根付き結びつきが強いおかげで、個人の加護よりも多くの力が引き出せる。

まぁ、ネコの獣人に頼った理由はそれだけじゃないんだけどな。」


レインの説明をまとめると、加護にはランクがあり、弱い順に自然、聖、王、神が名前に入っているかどうかであり、自然は個人に王、神は種族に与えられる加護に多い、ということか。


なるほど、俺の加護には"神"が入っている。


「それだけじゃないっていうのはどういうことですか?」


「個人に与えられた加護は本人が公言しないと本人にしかわからない。

だから、誰が加護持ちかどうか判断するのは難しいし、そこから王ランクや神ランクの加護持ちを探すのはほぼ不可能だ。

逆に加護持ちの種族は閉鎖的な種族が多く、居場所がわからない種族がほとんどだ。

加護持ちの種族で居場所が割れてるのは獣人くらいだ。

まぁ、閉鎖的な種族に変わりわないんだが。」


レインの説明に、納得する。


俺を探しに来たレインの理由は十分だと理解した。


さらに、妹の呪いについても聞きたいところだが、さすがに踏み込み過ぎかと思い、時間はたくさんあるし、もっとお互いを知ってからでも遅くはないだろう。


「その、呪いにタイムリミットはあるんですか?」


目的と目的地ははっきりした。


なら、あと必要なのは制限時間だろう。


「タイムリミットは、1068年の最初の満月だ。

今が1060年だから、あと7年と半年ある。

行きと違って金銭面に問題があるが、来た道を帰るだけだ。

余裕を持ってたどり着けるはずだ。」


なるほど、行きに来た道を帰るだけなら、道中なんとか稼ぎながら、引きこもり5才児の俺がいるということを鑑みても、7年半もあればよっぽどのことがない限りなんとかなるだろう。


時間は多少余裕がある。


なら、次の心配は金だ。


当然、俺は本以外は手ぶらの無一文だし、印刷技術のないこの世界で高価な本でも、当然売る気はない。


「金銭面の問題はどれくらい深刻なんですか?」


「俺とハークスの食料3日分買ったら俺たちは無一文になる。」


3日、以外と深刻そうだ。


「この先、お金を稼ぐ方法はどうする予定なんですか?」


「明日の早朝、ここを出発すれば一週間でこのあたりではかなり大きい街にたどり着く。

そこで冒険者ギルドのクエストを受ければ多少は稼げるはずだ。

移動中は野宿だし、食料は魔物でも狩って食べればいいから、当面必要だろう費用は、ハークスのギルド登録料、次の街での滞在費、それと、南の大国はこことは海を挟んだ大陸だから、海を渡るための乗船費が必要だ。

乗船費はこれからちょっとずつ稼ぐとして、ギルド登録料は銅貨3枚。

次の街は大きい街だから、一週間の滞在で宿泊費は一部屋あたり銀貨6枚、食費が銀貨2枚。

それと、ハークスの最低限の生活用品を買うとすると銀貨4枚くらいは必要だろう。」


「銀貨12枚と銅貨3枚か。

3日分の食料で無くなるってことはもしかして銅貨4、50枚しかない?」


この世界の通貨は、基本的に全世界共通だ。

銅貨が最低単位で、順に銅貨、銀貨、金貨、白銀貨、白金貨と、高くなる。

銅貨100枚で銀貨1枚。

銀貨100枚で金貨1枚。

金貨100枚で白銀貨1枚。

白銀貨100枚で白金貨1枚だ。


物価は元の世界とはだいぶ違うから比べにくいが、まぁ、銅貨1枚が70~80円くらいだと考えれば妥当だろう。


必要な金額を聞いて、所持金を計算してみる。


「いや、銅貨36枚だ。

明日の朝、朝ごはん食べたら25枚くらいになる。

けど、最低限ギルド登録料銅貨3枚さえあれば、その日の生活費ぐらいは稼げるはずだ。

ギルドでの依頼は高ランクの依頼の方が稼げるが、登録最初の頃は最低のFランクになるから、Eランクまでの依頼しか受けれない。

俺はDランクだから、当面、おれが生活費を稼いでハークスがランク上げに専念する予定だ。」


確かに、街にたどり着くまでの一週間はお金が必要ないわけだし、その計画が妥当だろう。


話し合いが終わり、頭の中で必要な情報を整理して、ふと窓を見れば、夕方に起きたせいか既に夜空が見えていた。

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