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そして再び春が来る

 吾輩は猫である。とは有名な小説の冒頭である。私は猫ではないが、乙女である。これをもって自己紹介とし、私たちを取り巻く有形無形有象無象魑魅魍魎悲喜交々(こもごも)の説明を始めたいと思う。


       ○


 茨木先輩。

 彼女は無事、大学の卒業を果たした。もはや名物となっている、コスプレ女装や着ぐるみなどがうごうごする、仮装大会のような卒業式に、先輩はいつもの見慣れたいい加減な姿で参加していた。その天性のいい加減っぷりに八回生の重みも加わった先輩の存在感は、多くの卒業生たちの中でも一際異彩を放っており、弟子である私は流石だなあ、と感服するしかなかった。

 先輩は卒業式後に『仙術研究会』の会員で開いた飲み会の席で、私たちからの「寂しくなりますね」との声に片手を振って答え、しこたま酒を飲んだ後、夜の先斗ぽんと町へと消えていった。

 もう会わないのかな、としんみりしていた私が七条あたりの予備校に通う先輩を見て唖然としたのは、その一か月後のことである。どうやら先輩はまた大学に入り直すつもりらしい。


       ○


 高槻。

 彼はいまだに私の宿敵である。私の冷蔵庫に仕掛けためんつゆトラップで私を塩分過多に追い込み、米櫃の中に黒いあんちくしょうの模型を忍び込ませ私の腰を抜かした。お返しに私はスープの代わりにコーヒーをかけた冷やし中華をマヨネーズ大盛りで提供し、カバンの中に鯖を仕込んだ。


「てめえ、なんてことを。ぶっ殺してやる」

「あなただって僕にとんでもないことをして」


 そんな塩梅で私たちの仲は続いている。

 宿敵ではあるが、私が乙女となってからも変わらずに付き合ってくれた――親友である。

 ある日、私は彼が美女と連れ立って、楽しそうに百万遍交差点を横断しているのを見かけた。手までつないでいる。彼は私を見ると「やべっ」という顔をすると、その乙女の手をひいてあっという間に私の目の前から逃げ出していってしまった。

 やはり彼は宿敵である。私の薔薇色未来を阻害しながら、自分はのうのうと薔薇色のキャンパスライフを楽しんでいたとは!!


       ○


 水無瀬嬢。

 彼女は無事、単位を落とすことなく四回生となった私から『仙術研究会長』の座を押し付けられた。彼女は「私にはお姉さまと四年間同じ大学に通うという目標が」と文句を垂れていたが、高槻の「仙人は不老長寿ですよ」との言葉にあっけなく陥落。やはり女性は永遠の若さ、という言葉に弱いのだろうか。


「それにお姉さまを落第させる方法は他にもいろいろとあるでしょうし」


 私は経済学部。留年などという不経済なことは学術的アイデンティティに関わるのでお断りしたい。そんな私を尻目に水無瀬嬢は言葉を続ける。


「お姉さまも仙人、私も仙人。お姉さまも不老、私も不老。めくるめく桃色空間」

「水無瀬さん、最近大宮に似てきましたね」

「嫌なことを言うな」


       ○


 妖怪や神たち。

 ちんこが復活した夜以来、私は彼らに会っていない。だがたまに彼らの宴席に顔を出すちんこからの報告によると、しょっちゅう四条界隈の店で乱痴気騒ぎをしているらしい。


『今度、貴君の肌を一舐めだけでもさせてくれ、と淡路殿が言っていたよ』

「断っておいてくれ。私はお前だけの巫女だ」

『嵐山殿が貴君を天狗の弟子としてとりたいそうだ』

「断っておいてくれ。私はお前だけの巫女だ」


 そんなやり取りをすると、ちんこはすぐに通信を切ってしまう。そんな彼の様子を見て私はやっぱり可愛いな、と一人こっそり笑う。



       ○


 私とちんこ。

 私は乙女である。名前は既に変えた。

 ちんこに仕える巫女として、毎朝神楽舞を踊り、六畳間の掃除を行っているとはいえ、得られる神通力は微々たるものである。在学中に男に戻れるとは到底思えず、私は女性として生きていく決意を固めた。

 父から受け取った診断書を役所に提出した私は、性同一性障碍者として受理され、女性としての戸籍と名前を手に入れた。

 電話で家族にそのことを伝えると、母は「わかったよ」と少し鼻声で言い、父は「お前の決めたことだ。好きにしろ」と言って笑った。「困ったことがあれば、いつでも言え。手助けしてやる」とも。

 その言葉を父が言った後、たまたま――本当にたまたまである。断じて鼻の奥がつん、としたとかではない――私が鼻をすすると、父が馬鹿にしたように「やーい、泣いてやんのー」と言うので思わず「くたばれ!」と言って電話を切ってしまった。ゴールデンウィークにちんこに会いに帰省する際、謝罪しなければ、と思う。


 その他の変化と言えば、大学の食堂やゼミなどで一人でいることが少なくなったことか。以前、乙女となった私から距離をとっていた同会生たちと、とくに話が弾むわけでもないが、レポートや進路のことについて軽く話し、雪中夜間行軍のごとく見通しのきかない就職活動について嘆きあう。「神は我々を見放した!」がちょっとした流行語である。

 私も、あまりにも就職が難しいので、いっそのこと自分で就職先を作ってやろうか、などと考える。「ちんこは私を見放していないのでなんとかなるかな」


 ちんこは私の地元に一人、帰って行ってしまっていた。そこで産土うぶすな神として信仰を集め、神格を高めるつもりらしい。

 少し寂しいが、今の世の中、声だけでなく、顔すら確認しながら通話ができる。だから声が聞きたくなればちんこに連絡を入れて、他愛無い話で盛り上がる。

 ごくごくたまに、ちんこの肌や体温を思い出して切なくなるが、ちんこも頑張っているのだ。

「今回のことのようなことがあっても、貴君を守れるように」とはちんこの言葉だ。「貴君はほんの少し、たくましくなった。安心して留守を任せられる」と彼は続けた。


 それを思い出して、私は気合を入れ直す。いまだに頬が熱くなるのには困ったものだが。

 そう。

 私はちんこに仕える巫女であり。

 私はちんこに恋する巫女になりました。

 これで「ちん☆みこ」の物語はひと段落です。

 くまみこを見た私は思いました。「巫女ってやっぱりいいなあ」

 そして自分の作品群の、荒野のようなブクマを見て思いました。「やっぱりTSかな」

 そうして生まれたのがちん☆みこです。

 とりあえず私は思いました。「なぜちんこ?」

 結構な理由があったはずなんですが忘れてしまいました。かえりみちさんは阿呆なのです。


 その阿呆が阿呆なりに怖れていたことは、この物語をエタらせることでした。

 しかし完結させた今となっては、あなたの感想と評価ポイントが怖い!!

 おあとがよろしいようで。

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