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 恵那は感情が高まっていて、レンツと対峙したままだった。そりゃ偽物呼ばわりされて、心創剣使ったのに認めてくれないのだから冷静になれてないのも無理はない。

 私たちはそれをぼーっとではないが、見ていた。乃陰は腕を組んでどうしたものかとつぶやいていた。

 レンツは武器をしまった状態ではあったが、何を考えているのか笑家内状態だった。その場にただ佇みながら恵那を見ていたからだ。


 するとキャンプの奥から一人接近してくる人がいた。マップから近寄ってくるのがわかり、そちらに視線を向けると乃陰も気付いたのかそっちを見ていた。レンツと同じ白い髪で腰まで長く、スラっとし身体のラインがわかる白を基調にした黒のラインが入っている奇妙な服を着た女性が歩いてきた。

 背も高く、綺麗な人だなと遠目からでもわかった。そしてボンキュッボンというセクシーぶりだった。まさかのあれが恵那のお姉さんだろうという確信がった。


 恵那とレンツが気付き、そちらに視線が行くと同時にレンツがその女性を守るような位置に移動した。

レンツ「どうしてここに来た」

 レンツは背中越しへ向けてしゃべっていた、その女性の表情は近づいてくるにつれてはっきりとわかるようになった。少し不機嫌そうな表情っぽく感じ取れたが美人だった。超美人。かっこいい美人。


恵那「姉さん!!!」

 やはりお姉さんだったか…と思ったけれど、なんで恵那と髪の色が違うんだ?やっぱり思いっきり辛い経験をして髪の色が白になったとか?見ようによっては銀色に見えない事もない。あれできつね耳とかついてたら似合いそうだなと思った。

 姉だと恵那はひと目でわかったのだから、お互い感動の再会になるのかなと思った。だが、姉と呼ばれた女性は鋭い目つきのまま恵那を見据えていた。


レンツ「那美、なんで来た?」

那美「形見は本物よ、確かめる為に来たのよ」

 彼女の眼は…瞳孔は銀色だった。水銀が揺らめいているような眼だった。その眼で恵那を見据えていた。


那美「本物に限りなく近いけれど、偽物ね…魂の形は全く一緒なのに色が全く異なってる…あなた何者なの?」


恵那「そ、そんな…僕は偽物じゃない!」

 恵那の持っている剣と盾は崩れていった。地面に膝をつき、その場に項垂れていた。姉だと信じていた者に偽物と言われ、項垂れたままだったが顔を上げ、恵那は姉を見ていた。ただ、これは夢ではなく恵那に再度通告するように言われる。


那美「何度も言うがお前は私の弟じゃない。同じ名前、容姿だとしても違う…心創剣がなぜ使えるのが気にかかる点だけど…とりあえず、あなたの姉との形見は返しておくわ」

 那美は形見をレンツに渡すと返すように言い、レンツは恵那に形見を返した。恵那は形見を受け取り、呆然としていた。

 私達は何も言えない状態だった、ただ何かしらの再会のシーンがあると思ったのだが、全否定だったのだ。あの人が恵那は姉だと思っていたが、姉だと思われていた人は姉ではなく知らないという…


那美「私の弟と同じ名前、形は違えど心創剣を使い、更には形見も同じものを使う者よ。もしかしたら、私の弟に会えばわかるかもしれない。弟は今は月無つきなと名乗っている、もしかしたらお前自身が何者かわかるかもしれない。弟と同じ顔でそのような表情をされると私としても心苦しいのもある。」


レンツ「おい、那美…いいのか?弟の事を伝えて…」

那美「構わないわ、とは言えどこにいるかなんて私にもわからないけれどね。同じ心創剣を使うならいい修行になるでしょ」

 修行て…戦う事前提な感じじゃないですかー恵那大丈夫かな…


那美「それにね、私と同じ顔と名前の人がいるかもしれないしね。私の弟の方は何か知ってるかもしれないし、聞いてみるのもありだと思うよ」


 同じ顔の人は世界に二人はいるとかそういう話を思い出した。ゲームのキャラメイクになると同じようなキャラばかりになってしまうので名前で差別化をするにも、有名なキャラ名を使う人もいるので被ってしまう事もある。

 それが起因して今回のようなことがあったのかな…でも、テスト環境下で同じ容姿と名前なんて被るなんてことはないだろうし、そうなってくると恵那は本当は何者なんだろう?


乃陰「これ以上、ここにいても何か進展するわけでもなさそうだし、引き上げて状況を整理した方がよさそうだな」

眠兎「そうね、私もよくわからないし…恵那も一度落ち着いた方がいいかもしれないし…」


私達は恵那の方へ行き、魂が抜けて呆然とした恵那を引き連れて町へ戻ることにした。


 宿屋でとりあえず、部屋に行き三人で情報の整理を行う事にした。恵那はぼーっとしており、ショックを受けてまともに会話が出来るか微妙だったので、乃陰と二人で整理することにした。

 部屋には備え付けの丸テーブルと椅子が2つあった、私は自分の泊まってる部屋から椅子を持ってきた。恵那と乃陰は男同士なので二人部屋なのでテーブルがあるが私は一人部屋でテーブルはない。


乃陰「恵那のお姉さんが言っていた魂の形は一緒だが、色が異なっているっていうのはどういう意味なんだ?」

 

 魂の形は一緒だが、色が異なっている事について、形は一緒でも中身が別物って意味だろうか…


恵那「魂の形は同じのものは存在しない、形も色も違うんだ。どちらか、形だけが一緒、色だけが一緒というのはないんだ。誰かと一緒になること事態、そもそもありえない…」


 本来魂というのは形も色もどちらも同じになることはないらしい。


恵那「魂を見るという術は、姉さん…つまりは飛翔家の女系のみ使えるんだ…でも分家なんてなかった。他に使える人が同姓同名でいるわけがない…そうなってくると僕は…なんなんだ?」


 歯を食いしばり、今にも泣き出しそうな顔をしていた。不安に押しつぶされそうだった、今まで生きる糧としていたものが崩れかけていたのがわかった。

 私はそれを見て、胸が苦しくなった。


恵那「僕はッ…僕はッ…」

乃陰「恵那の姉さんが洗脳されてるという線は?」

 その言葉に恵那は顔を上げ、苦しそうな顔をし首を振って頭を抱え込んだ。

恵那「か、可能性としてはある…けれどそんな簡単に飛翔家に対して洗脳するなんて…飛翔家は精神攻撃に対して耐性が強い血筋だから、そもそも洗脳なんて…」


眠兎「記憶の…操作は?」

 私自身、されている。違和感さえ現実では感じず、このゲームにログインしておかしいと感じるという不可解の現象だ。なら、このゲームの中でも普通にあるだろうと思ったからだ。


 二人は黙ったままだった。恵那の記憶ではお姉さんの容姿はどうだったのか、なんていう質問をしたとしても意味はない…


乃陰「何もかもがわからなくなってくるな…くそっ」

 私が言葉を発してから、数分後に出たが特に何か進展するものでもなかった。きっと私が何かしらフラグを立てないといけないのかなと思った。女は行動力だ、動こう。


 今までの事を頭の中で整理し、何をするか目標を立てる事にした。


 お姉さんだと思っていた人が言っていた同じ心創剣を使う月無に会うこと、乃陰の眼を探すこと、そして私の記憶に関すること…


 正直、私の記憶については現実の問題がある。ゲーム内の記憶はそのうちイベントで判明するし優先順位としては下だ。現実とゲームは違う。

 現実の記憶障害になるのかな、この世界にいる間だけゲームの記憶だけじゃなく現実の記憶も所持しているが現実ではその記憶を失っている状態がバグだ。こんなの運営に問い合わせるにしてもゲーム内からでは不可能だった。

 今まで事例がもしかしたらあったのかもしれないが、現実の生活で支障を来すような事件なんて聞いたこともなかった。それほど、このゲームシステムは安全だったからだ。


 潜在意識下で記憶を持ったままにし、現実でその記憶を無くさせた状態にすることでどんなメリットがあるのだろうか?


 思考が脱線してきた…当面の目標は月無と会う事と乃陰の眼を探す事にしよう。


眠兎「ねぇ!二人とも考えたって答えが見つからない時は手掛かりを探そう。月無っていう人を探してみよう、乃陰の眼もさ。私の記憶は手掛かりがないけど、探してみようよ」


乃陰「そうだな…でも月無ってやつはどこにいるかわからないよな」


眠兎「だったら乃陰の眼を探そう、探しつつ月無って人も一緒に探そう」

 私はいつの間にか必死になっていた。私を助けてくれているからだ。もちろん、私も強くならないといけない…


 立ち止まってはいけない気がした。不安がよぎっていく、このままじゃダメだと感じている。恵那に引きずられるように乃陰も重い雰囲気になってる。私がどうにかしなくちゃ、一緒に前に進まないと…


 心がざわついていた。


 このゲームにログインしたての時のような感情が溢れ、胸のあたりに激流の渦巻いてるような不可思議な感覚だった。違和感と気持ち悪さがあり、吐き気はなく、むしろぽっかりと穴が飽きそうで何か足りない切なさがあった。


恵那「ありがとう…眠兎、月無を探して自分が何者なのかわかるかもしれない。乃陰も悪かった、前に進もう」


乃陰「ああ、進もう!俺の眼の在処も実は美夜から情報を買ってな、目星はついてるんだ。とりあえず、次はそこを目指すのはどうだ?」


眠兎「いいね!そうしよう!」

恵那「ああ、そうだな」

乃陰「決まりだな、あと眠兎の事についても聞いておいたが…断定は出来ないから教えてくれなかったよ。わりぃ」


 今は、無理にでも違うことに気を向けて前に進めば…考えてもわからないことを考えてて立ち止まってるよりはいい。

 泣きそうな笑顔の恵那と無理に口元だけ笑った乃陰が印象的だった。


 話は終わり、自分が泊まっている部屋に戻り、ベッドに横になった。そして、私はそのまま寝て、気がついたらテスター部屋にいた。

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