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 レンツはローブから短い奇妙な棒を出したままだった。見た感じ、刃がない剣を持っているとわかった。私は、ビームソードの類だと感じた。出力口を下に向けているのは、ビーム刃を展開した際にその反動が上方向に行くのでそれを利用し切り上げを狙っているのだろうと思った。

 そこで冷静にその武器がなんなのかわかって、危険に気付いた。火傷程度じゃ済まないということに…実際に私が使ってるビーム刃はビーム刃っぽい何かだからだ。ビーム兵器なのに出力時の反動が無いからだ。光熱で発射されるものはガスの燃焼による刃の形成じゃない。


 止めなきゃと思った。だけど身体は動かなかったのだ、わかってはいても動けなかった。特殊イベント時だから身体は動かないのかという疑問が頭に過った。もちろん、声を発することも出来なかった、ただ、不安や恐怖はなかった。

 レーダーマップを確認し、周りの傭兵を見ても特に変わった動きをしていなかったからだ。視認出来る範囲でも変わらない日常の一コマとして思っているような表情を彼らはしていたのだ。


 レンツはゆっくりと歩き、恵那に近寄っていった。一定の速さで足元が見えないのもあり、そのままスライドして近寄ってるように見えた。

 スッとレンツの動きが止まったように見えた。瞬く間に恵那の目の前に移動し、ブゥオンという音が鳴った。恵那は横に飛び、切り上げを回避した。

 光の線が目に残り、まるで暗闇で手で持つ花火を動かした時のような軌跡が残っていた。切り上げた後、空中にビーム刃の粒子が拡散していた。一瞬の出来事で、恵那は剣を構え直し、距離を取った。


レンツ「今のを避けるのか、やるね」

 レンツはそのまま距離詰める。さっきとは違い恵那は右手の武器を警戒しつつ、ビーム刃を警戒した動きをしていた。私との手合わせとは違い、棒の射程ではなく、剣の射程であるため恵那にとってはそんなに苦ではないように見えた。ただ、私が普段使っているビーム刃と違い、音も熱量も違って見えた。

 恵那の顔に緊張が走ってるのを感じ取れた。


乃陰「これはヤバイぞ…」

 乃陰が小声で口を抑えながら私に言った。

乃陰「相手は恵那を殺すつもりだ…」

眠兎「どういうこと?レーダーマップには相手方の傭兵たちに変な動きはないけれど?」

 私は、レーダーマップを乃陰に共有した。乃陰は頷いたことで共有できたことを確認できた。

乃陰「さっき、恵那を止めようとしただろ?俺も止めようとしたんだが強烈な気を当てられて動けなかったんだ。言葉すら発せられないくらいに…不覚だった」

 あれは強制イベントだから動けなかったわけじゃなかったのか…いやそういう辻褄合わせなのかな…と呑気に思った。

眠兎「恵那なら、大丈夫でしょ…?普段私とビーム刃の手合わせしてるだろうし…」


 恵那は防戦一方だった、ひたすら動き、避けては距離を取っていた。恵那も手合わせではなく、自分を殺しに来ていることに最初の一太刀目で気付き、逃げようとしているが逃げた所で形見を相手が所持してる状態で攻撃に転じようとしても帰ってくる保証がない。

 私達が戦闘に介入したとしたら、傭兵全員が相手になる流れになるだろう…手合わせという名目だからだ…


乃陰「どうだかな…眠兎と違って常時出しっ放し状態でない分、正確な間合いが取りにくいし、あとさっきから右腕だけしか使ってないのが気になるのもある…なによりあのローブの中身がまったくわからない」


 突きの攻撃が伸びきる前に出力されるビーム刃、突きを引き戻すた後に出力を切りビームの粒子を拡散させ近寄れないようにしている。避ける方も拡散されるビームで必要以上に避けることになっていた。全て避けきれていないのか、服のところどころに焦げ目が見えた。


眠兎「だ、大丈夫よね?」

 私は不安になっていた。恵那がさっきからいつも生成しっぱなしで腰に下げている鞘つきの剣のみで戦っているためだ。一度も盾を生成していないし、今ある剣も鞘のままで戦っている。

乃陰「…た、多分」

 

 乃陰の不安気な言葉に私も不安に駆られた。なぜ恵那は盾を生成しないのか、他の剣も生成もしていなかったからだ。


レンツ「どうしました?さっきから逃げてばかりで、本気を出したらどうなのですか?」


 レンツが恵那に挑発をする。恵那はそれに応えるわけでもなく、冷静に攻撃を躱していった。どのくらい時間が経ったのか、わからなかったが画面に表示されている時間を見ると5分も経っていなかった。

 さっきから恵那が攻撃でなく、ビーム刃を避けていた。ビーム刃の停止時に出る残留に警戒しているのか、動きがいつもと違っていた。防戦一方過ぎて、このままでは詰むのではないかと感じた。私は更に不安になった。

乃陰「ん、そういうことか…眠兎、そろそろ恵那が反撃すると思うぞ」

 さっきと同じように乃陰が口に手を当て、かつ小声で言った。心なしかゴーグルがキラッと光に反射したように見えた。何に気付いたのか、さっさと言えと思ったが自分で気づけなのかもったいぶってるのか、楽しみにしてろなのか…

 先ほどの不安はなく、身体をこわばらせるものも、胸のあたりに重くのしかかるようなものが少しばかり軽くなった気がした。


 レンツの攻撃は突き、払いといった動作は普通の剣を扱うのを違った。ビーム刃が出力した時の反動を利用した動きだった。突くという動作も剣なら引いて刺すだが、ビーム刃の場合突いた状態で出力し、伸びきった所で反動で引いて出力をオフにしビームの残留を拡散させていた。

 払いについては、元より切っ先が無いので振り回しながら出力し、払い終わったらオフにする。場合によってはオフにした後に切り返しにまた出力をしていた。

 光の線による剣閃が綺麗に描かれ、それを避ける恵那。まるで二人は踊っているように見えなくもないと思えてきた。


 一方的に避け続けてる中、恵那が行動に反撃にうつった。盾を生成するわけではなく、すでに持ってる剣を使い出力口から出されるビーム刃防ぐようにレンツと同じ切り払いを行ったのだ。

 フードを深々と被っている為、表情が見えにくくなっているのでどんな顔をしているのかわからなかった。周りで見ているの表情は驚いていた。だが、驚きは更にこの後大きくなった。


 恵那の剣が出力されたビーム刃を相手に飛び散らせたのだ。


 レンツもまさか自分に戻ってくるとは思っていなかったのか、その飛び散ったビーム刃の欠片がローブに当たった。当たったと同時にレンツがその手合わせの中、初めて距離をとった。

 恵那は、その場で相手に剣先きを鞘のまま向け笑みを向け言った。

恵那「一太刀、今ので入ったよね?」


 周りの傭兵は拍手をしていた。そして、フードを深々とかぶっていたレンツは武器をしまい、フードをとった。


レンツ「その剣、魔法剣かい?まさか弾くとは思わなかったよ」

 真っ白い髪に一箇所だけ黒のメッシュ、右目は黒で左目は金色の目をしていた。そこの部分だけ黒のメッシュが被さるような形だったため、眼が色が際立っていた。青年というよりも歴戦の戦士のような顔つきに近いものを感じた。


レンツ「さて、続きをしようか…」

恵那「ちょっと待ってくれ、なんなんだよ!」

レンツ「んん?とぼけるなよ、偽物…全く攻撃してこないから奇妙だとは思ってこっちから戦闘の口実作ってやりやすくしたんだ。わかってんだろ?後ろの二人も隙あればだろう?」


 どういうこと?


恵那「僕は…僕は偽物じゃない!!!」


レンツ「はっ!証明してみせろ!那美の弟だっていうなら代々伝わる心創剣を使ってみせろよ!!!」


 何かがおかしく感じた。秋導院美夜から姉はここにいると聞いた時、恵那に対して本物か?と問うた。そして、今相手は偽物だと思っている。

 恵那は誰かと勘違いされているのか?


 レンツはローブから手を出さない状態で恵那と距離を詰めた。恵那は突き出していた剣を構え直し、距離を取りながら動いた。しかし、それよりも上回る速さで距離を詰め、今までローブで隠していた左手を出した。その手は、義手になっており、手首が球体関節になっていた。


 ビーム刃が出力され、義手である左手が回転した。出力された状態の反動を利用し、それを制御することで回転刃にしたのだ。そして飛び散るようにビーム刃も拡散される。

 拡散されたビーム刃の欠片は先ほどよりも殺傷能力が高いものに感じた。まばゆい光の刃が恵那を襲いかかるが、右手でタワー型の盾を生成し防いだ。


レンツ「なんだそれは?!」

恵那「心創剣だ!!!」

レンツ「盾じゃねえか!!!」


 そうだよね、剣じゃないよね。でも左手に持ってるのは剣だよ…と思った。

 レンツは距離を取り、どうやってその盾を攻略しようか見据えていた。ビーム系の武具はガード貫通が本来の性能だ、しかし恵那の心創剣で生成された剣と盾はそれを防いだ。

 恵那は攻撃後から生成精度や性質に対して、より考えるようになり強固だけではなく、受けながる為の仕組みなどを取り入れるようになっていった。恵那と稽古をしてる時に私のビーム刃を防げなく剣や盾が崩壊した事から私が使ってるビーム刃の性質など一緒に話す事になり、防げるようになったのだ。

 先ほどの戦闘時に恵那が避けていたのは、相手の武器の性質を読み取り防げる剣に性質を変化を試みていたのかと思った。乃陰はそれに気付いていたんだろう…


 レンツが持つ武器は恵那の盾によって防がれる為、今まで攻めていた優勢だと思われていたが一気に攻撃が効かないという状態になったので形勢逆転された。

 タワー型の盾も今ではバックラーサイズに変更され、動きやすい状態になっていた。


恵那「その武器はもう効かない!」

 レンツに対し、盾を正面に出し剣を後ろに下げた構えをとった。一方、レンツの方は舌打ちし、これ以上続けても無駄だと思ったのか武器をしまった。

 さっきまでの礼儀正しさはどこへいったのかというくらい不機嫌な表情だった。


眠兎「ねぇ、乃陰…この後どうする?」

 戦闘行為は終わったっぽく感じ、このまま素直に恵那の姉と会えるような気がしなかった。恵那の形見は相手が所持している状態だし、確認するといってそれが戻ってくるかどうか別だと思ったからだ。

乃陰「流れに任せる、だな…」

 ため息をし、頭をガリガリとかいていた。すんなりうまくいくと思ったのだけどうまく行かず、乃陰は拗ねていると感じ私は頭痛がした。

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