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目が覚めるとテスター部屋、ログイン中はRIO傭兵団がいそうな場所を調べながら自分のギルドランクを上げていた。思ったよりも地道な作業だったが、採取系だけではなく討伐系の依頼もありメリハリがあった。
何よりも冒険しているという感覚が強くあり、依頼をこなしつつ自分を磨かれていっていると感じ楽しかった。
「はぁ…さて、アンケート書いて、面談しよ」
私はひとりごとをポソリと言い、今日の気まぐれで来たことを報告しに向かった。
そして、その日はいつもと違った。いつもの面談する相手ではなく違った人だった。交代制なのだろうと思った、特にいつも通りの質問対応だった。でも、最後だけは違った…
「一つ、報告があります」
柔和な笑み、安心感がありつつもワクワクさせるような感じが漂った。
どうやら最終調整が終わったらしい。試験的に全テスターで調整しながら行っていたらしく、それが本来なら発売後のパッチで追加される一番大きな機能の一つらしい。
「ログインしていなくても、プレイヤーのプロファイルリングを元に自動で行動し、ログインした際にその出来事をフラッシュバックする機能です」
ヒューマノイドメンタグラフィティエンジンと呼ばれるものでその人の行動心理学に基づいた思考、判断、意思決定をシュミレートする機能ということだった。
「ログイン時間が減ると言われていますが、逆に増えると私達は考えています」
その人が言うには、新しい自分を発見できる機能であり、自分を向き合いやすくする仕組みになっているという。ゲームといってもただの娯楽じゃない、経営者の新しい戦略や自己啓発、下手なセミナーよりもヴァーチャルリアリティでシチュエーションごとに仮想体験した方がはるかに経験になる。
こういった取り組みがゲームを通し、五感に訴えるからこそ人はより成長の度合いが違うということだった。脳の処理能力が高い人の方が長くログイン出来るが、そうじゃない人はもちろんいる。
その処理能力を向上できにくい体質、脳質の人もいるため、それを補填するにはどうすればいいのか、その問題に取り組んで開発された機能らしい。
「そんなわけで次回のログインから、ログイン時にフラッシュバック現象が起きる。フラッシュバックの量はログインしてない時間も影響ある、また自身のプロファイリング率によって変わってくる」
頻繁にログインしなくちゃいけないわけではない、というのがわかった。
「あと今も一応シェアライン環境下でテストしてるけれど、体感時間に違和感を感じたりしてないかな?」
ネットゲームでオンライン対戦と違い、夢を利用したゲームであるため、オンライン化した際に同じ時間帯にログインしていないといけない。しかし、シェアラインと呼ばれるシステムによって多少のズレがあっても一緒にログインできるのだ。
「特に違和感は感じませんでした」
そう、何も感じなかった。ってことは他にもテスターが同じ時間軸に存在したりするのか、楽しみだなと思った。記憶喪失のままだから、交流するにもきっと新鮮だろうなと思った。
「そうか、よかった。このままだと無事に発売出来そうだ、一応先行予約した人に抽選アーリーアクセス権が付与されるんだけど、テスターにはお礼も兼ねてアーリーアクセス権が付与されたものを販売してるんだ。買う?」
「買います!」
発売日からスタートではなく、テスターが終わった次の日から遊びたかった。不思議な感覚だった、今までこういったオープンフィールド系の冒険、しかも女性がプレイしそうじゃないものにハマるなんて思いもよらなかったからだ。
それから数日間、テスター最終日まで暇があればここに通いログインをしていた。
最初はフラッシュバックシステムが不思議な感覚だったが慣れてくると面白く感じまるで自分とは違う自分を、まるで誰かを見ているような感覚だった。
その仕組が致命的なバグなのかどうかわからなかった為、面談者に聞いてみたが特にそういったログやノイズが検出されたわけじゃないことを知らされると特段気にすることもなくなった。
他のゲームと違う点としてFPS視点の主観とTPS視点の第三者視点が複合している為、自分を客観視しつつ主観でも見れる。それが自分が現実とは違ったキャラクターの性格を形成し、現実の自分にも影響を及ぼしていた。
自分自身を客観視させる視点、他人の価値基準と自分の価値基準の明確性をより論理的に見いだせるようになったり、その点は人によって変わってくるらしい。
気になったのはログインしている時にたまに自分が操作していないような感覚があることだった。無意識で動かしているのかなと思ったこともあり、面談者に相談してみたが相変わらず変なログやノイズが無かったのだ。
主観と第三者視点を同時に見ている状態だからこそ生まれる現象かもしれないとのことだった。不具合と思われる報告や違和感などと提出し、そのフィードバックやパッチなど細かなことが修正されていったがどれも致命的なバグにはつながらないもので、注意深くしないと感じないものばかりだった。
そして、月日が流れ、発売された。私は、アーリーアクセス権を用いて、発売日前にログインをしていた。




