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恵那と違うのは、襲撃された時期だった。また恵那が滞在していた国と違うのもあり防衛力も違った。乃陰の家は特に武家というわけではなかったが、黄金の民は生きていく上で身を守るように育てられる。
いつものように乃陰は朝の自主稽古のために起きて、近くの広場で型の練習をしていた時に、不穏な空気を読み取って自宅に戻ったら襲撃されていた。武家ではないにしろ、黄金の民であるためある程度は強いが、突然襲われた事もあり深手を負った父親と母親の姿があった。
乃陰は、襲撃者に対して一撃を食らわせたが、攻撃した瞬間に敵の防具からガスが出て乃陰はそれを吸い込み、目にも当てられた。攻撃を当てられたことで隙が出た敵は乃陰の父親に倒されたのが最後に見た光景だったとのことだった。その光景を見た後に、乃陰は気を失って、気がついたら兄と一緒に違う街の孤児院にいたという。
乃陰は、敵から受けたガスによって身体が動かず事も出来ず、痛覚が鈍くなり、身体も思うように動けない状態だった。生体活動に支障をきたし、死を待つだけと診断した医者が言ったらしい。だが、乃陰の兄が気を使い治療し、乃陰もその術を身につけリハビリした。
だがどうしても、視力だけは戻らなかった為に人の気などを感じ取って見る訓練をし、自分で治すために冒険者になって治す手掛かりを探すようになった。探していく内に武具の存在を知って、武具に解毒剤のようなものがついてるらしいという噂を聞き、探すようになった。
乃陰「まあ、それで眠兎の武具に興味が尽きないってことなんだよ。だから決して眠兎を性的な目で見てるわけでもない。安心してくれ、反応しないし」
こいつ最低だ。わかっていたが
眠兎「武具バカの理由がわかったわ、それで自分用のが見つかればってっことなの?」
目を治すには着ないといけない、だが私のをこいつに着させるのは正直、生理的に嫌だ。
乃陰「いや、武具を見つけて装着したら適応外の血筋だから医療専用型の遺産を見つけないといけないのがわかったんだよ。武具が好きなのは単純にかっこいいからだ」
なんだーただのバカだー
眠兎「あっそ、っていうか普段は不自由なく動いてるけれどすごいね」
正直、自分には無理だなと感じた。ゲームのキャラ設定とはいえエゲつないなと思った。
すると乃陰は真面目な雰囲気になった。
乃陰「まあ、正直いまでも痛覚が鈍くなってる時があって不安になる事がある。だから女性と性行為することでその不安と自分の痛覚に問題ないか、ちゃんと機能してるか確かめているんだ。決してやましい思いで歓楽街に行っているわけじゃない」
ゴーグルで目が隠されている分、もしこいつに視力が戻ったらキラキラした目で言葉を吐くんだろうと思うと視力ないままがいいんじゃないかなと思った。
眠兎「まあ、そんな事はどうでもいいわ。壁はいつ現れたの?」
スルーしよう。スルー。
恵那「壁が出来たのは、それからまもなくしてからなんだ…でもその前に―」
恵那はそうだったんだ、と納得していた顔をしていた。乃陰にからかわれてるぞ、ちょろいなー恵那は~
隷属国の近くや大国の近くに滞在してる黄金の民がいる場所が狙われた。滞在してる黄金の民たちは住民たちの危険を及ぼすと考え、滞在国から去る事にした。しかし、各国は恩を仇で返すような真似はできないということで国の内陸部の首都で匿まわせてくれという形になった。出入りの自由はもちろんの事、他国への移動も無制限、移動する際の護衛もついた状態の待遇だった。
黄金の民たちは自分たちの本国と連絡がつかなくなった事に対して、独自で調査をはじめていった。また調査内容についても各国と共有し、黄金の民として今後の対応は国賓ではなく、一介の冒険者として対応してほしいと進言した。しかし、行き場を失った幼い子どもなどもいることから見つけたら保護し、どうするかは本人に決めさせる事になった。
いわば、本国がどうなってるかわからない状態だったからだ。そして調査をして判明したのが本国が陸地ごとえぐられてなくなっていたということだった。跡形もなく消えていた為、生存者は見つからない状況だった。その情報を持ち帰り、どこに消えたのか、あるいは何らかの災害なのか調査をより詳しく行う事になった。
そして調査していく中で本国の方から光が空に流れ、世界各地にその光は落ちた。その光は夜を昼間に変え、とてつもない輝きを放っていた。それがいったいなんだったのか、再調査に向かうことになった。
しかし、それ以上の調査はできなくなった。隷属国の一つが「我々こそが黄金の民」と宣言した内容が改めて各国に流れたのだ。最初の宣言は大国内だけに留まったものだった。そしてこの時、はじめて大国が情報を隠蔽し、自国内で処理しようと躍起になっていることが公然で明らかになった。だが、それに乗じて大国も侵略行為をしていたのではないかと各国は不信感は募らせていた。
大国は公式にそういった事はしていないと発表した。そしてその日に隷属国の一つが世界に宣戦布告をし、まずは大国に対して侵略行為を行った。隷属国の国境に壁が出現し、それは徐々に進軍していき近寄るものを蹂躙していったという。
その戦果は瞬く間に他の国に知れ渡り、大国の隷属国のいくつかはその宣戦布告した隷属国に賛同し、彼らを招き入れ吸収されていった。壁はすぐさまに吸収した国の国境線に出現し、内部がわからないようになった。吸収された国がどうなったかは誰もわからなくなった。
そこから侵攻が始まり、大国も今では領土の3分の1まで減らされ、首都も陥落、隷属国を管理しきれなくなり、独立していった。大国の民は国外逃亡を図ろうとするが大国はそれを禁じ、戦う続けたが壁に飲み込まれた。
逃げ延びる事が出来た大国の民は難民として各地に散らばっていった。彼らは盗賊になったり、隷属国だった国へ行ったり、様々だったがどこの国にとっても問題になっていた。
大国はこうして5千年の歴史に終止符を終え、世界の地図から消失した。そして現在、その壁は最初の頃に比べると侵攻速度と突然出現するといった事はなくなった。
壁が新しく出来る時は段階を踏んだように徐々に大きくなるようになっていった。壁の向こう側がどうなっているのか誰も知るよしもない状況になっている。また近寄るものに対し、壁から発射される巨大ネイル砲により近寄れなくなっていた。
そしてそれから、遺跡という存在が明るみになった。
眠兎「世界の敵が使う、巨大ネイル砲って何?」
初めて、兵器らしい名前が出てきた。このゲームに飛び道具はあるが、火薬類…燃焼ガスは機能しない。もちろんそれに準ずる内燃機関といったものも機能しない。そのため、発射されるという単語が気になった。
乃陰「魔鉱っていう特殊な石で精製された巨大な杭が超速で打ち込まれ衝撃波が巻き起こるんだ。当たったら最後、肉塊ではなく、肉の破片になると言われてる。当たらなくても衝撃波によるダメージがある…」
乃陰は歯ぎしりをしていた。
乃陰「あと、壁を防衛する…何かがいる。その何かは俺もわからない…」
恵那「僕たちは遺跡巡りをメインにする冒険者だからね…わざわざ危険には飛び込まないよ」
二人はあの壁に近寄りたくないような感じがしていた。
乃陰「あそこには近寄りたくない、っていうのが本心だ。」
恵那「僕も何か嫌な感じがして、ね」
嫌悪感があるのか、それとも危険からだろうか、どちらとも言える表情をしていた。
乃陰「まあ、俺が調べて知った歴史だけど、実際は違ったりするかもしれない。ただ俺が感じたのは、隷属していた国は精神文化が低く、力を手にしても人にはなれない。ただ、蛮族と化すだけだってことに…やつらに知識は不要だったってことさ。」
二人の話を聞き、バックグランドストーリーがなんとくわかった。この話を聞いて自分がどこへ向かうのか…ルートの選択が3つあるんだろうなと感じた。
どのルートを優先させるかによって、ストーリーが変わるんだろうなと思った。乃陰ルートは冒険者として成功していき、恵那ルートは姉を探しあててからまた新しいイベントが開始される。私自身のルートは、このキャラクターの記憶を取り戻すことだけど、どのルートでも後になって戻るんだろうなと感じた。
二人から聞いた話から世界の敵に対して、更に怒りの感情が湧いた。それはきっと黄金の民たちも感じているのかもしれないと思った。どこかへ消えてしまった黄金の民が今の現状を見たら、と思うとなんとも言えない世界だな…
気が付くと夕方時になっていた。
乃陰「さぁて、このまま夕飯にするか…」
眠兎「明日の用意、私何もしてないや!」
話し込んでて忘れてた…まあ、日帰りで行ける距離だから大丈夫だろうけれど
恵那「大丈夫、必要なものを購入しておいたし、ギルドにも探索する事を伝えてあるよ」
眠兎「ありがとう~よし、じゃあご飯食べよう」
私達はご飯を食べ終え、それぞれ明日に備えた。
そういえば、私、ギルドがどういうシステムで成り立ってるのかわかってないな…冒険者ギルド以外にもいろいろあるんだろうけれど、今度二人に聞いてみよ。
今日はいろいろ話を聞いて、いろいろ疲れた。
テスター期間だけど、リリースされた後はどうなるんだろう…まあ、今は致命的なバグがあるからリリースは見送りになると思うけれどもどうやって伝えたものか…思い当たらん。GMへの連絡手段は記憶喪失という状態をよりリアリティ性を出すためか、GMへのメール機能もない。
そもそもバグによって途中進めないってことがあってもログオフして連絡する手段を用いることが出来るけれど、現実で記憶障害が起きてるわけだから…厄介だ。あ…頭が痛くなってきた…もう休もう
今できる事がなく、悶々としていたせいか、頭が痛くなり私は寝た。




