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目覚めよく、ゆっくりと目を開ける。そこは見知った天井、心地良いリクライニングソファの上だった。
「チッ」
私は思わず舌打ちをし、時間を確認するともう少しで1時間経とうとしていた。どう考えても都合がいいように起こされた感覚があった。残り後少しで1時間だろうと、数分でも数日分はあちらで滞在できると確信があった。
今から寝直すにも眠気がなく、やけに思考がはっきりとしている。腕を伸ばしたり、上半身をくねったりし、ストレッチっぽいことをし、立ち上がった。肌寒い、と感じたのはかなり汗をかいていたのがわかった。
死亡ループ時の影響だろうか、それとも最後のビリビリの影響だろうか、なんでもいいからさっぱりしたいなと思った。
現実の戻ってくると第三者視点が解除されているせいか、妙に視界が狭まってて、不便だなと感じてしまった。だけど、数分もしない内に慣れてしまう。これがVR系だと異常を来していたのだから脳というのはつくづく作りが謎だと思った。
私はテスト入力室で質問事項を入力し、面談室へ向かった。死亡ループのことで視認出来ずのまま死亡しまくった件について、そしてログオフの方法について改めて聞こうと思う。私自身、すっかり忘れているからだ。
テスターを行う際に、ログオフ方法について聞いたはずなのだけど忘れている。できればあのループ時にさっさと目覚めてしまいたかった。
面談室で今回のことを覚えてる範囲で聞いた。死亡ループについては、仕様上のものでクリア困難レベルではないということだった。正当なクリア方法は召喚を使って、自身に対する攻撃を逸すとのことだったのだが…召喚する方法さえわかっていなかったのに無茶もいいところだと思った。
「召喚なんて特殊なタレントね、確かにこれじゃあ難易度がおかしいし、そもそも誰かに習うにも体系化されてないしね」
体系化されてない…つまり独学で召喚を覚えれろってこと!?いや、今それを言われてもログインしたら記憶喪失になってるからわからないじゃない…ってことはベリーハードモード?
「武具もその分、強力なものになってるし、近接戦闘も可能な召喚士だから慣れるまでは死にゲーになるかもね」
その難易度どうなんだよ!死にたくないし!私はえーという顔をして、訴えた。
「さて、途中で起きれるようにトーテムの説明をしましょう」
咳払いするとトーテムについて教えてくれた。ログオフの方法だ、これはゲームする人によって変わって来る。自分で設定するため、自分で再設定する必要があるということだった。再設定方法は自宅でも出来るため、やり方を聞いて方法が書き記したメモももらった。
「他にゲームにログインしていて気になった事とか、バグとか見つかった?」
ん~、私はなにかあったかなと思い出そうにも特に気になる事はなかった。あのうんざりする死亡ループ周回くらいしか思い浮かばなかった。タレントの召喚について、どうやって身につけていけばいいのかさえわからないまま、記憶喪失のままストーリーが進むとしたら今後難易度は死亡ループが起こるのはさすがに嫌だな、と愚痴ったりした。
「ん~、そうだね。正規版では記憶喪失を踏まえて、希少なタレントに対する配慮も必要だね」
あ、そういえば、遺跡まで辿り着いたのはどうやってクリアしたんだろ。
「無意識なのか、敵全員に対して召喚術を使って一掃したよ。」
えっ、一掃…だから敵が全くいなかったってこと…
「ログでは、全員同時に召喚による殲滅になってる。ただ何を召喚したのかは不明になってるかな…あまりにも一瞬だった為、発生時、過程、結果のみが出てる。解析しても別にバグでもないから、実力だと思って大丈夫だよ」
どうやって召喚したかさえわからないのに実力とか、次もうまく行くかさえわからない不安がよぎる。あれは間違いなく、意味わからず上手くいっただけじゃ…このゲーム、装備が整っていても敵が強すぎる。ひどくバランスがいびつに感じる、それでも感情を揺さぶられ、ゲームなんかで舌打ちしてしまった。なんか、そう…友達にテスターなんて応募されなかったらやらなかったのに…
「腑に落ちないと思うけれど、一つ一つ解明していくのがこのゲームの楽しさでもある。製品版は今のデータをそのまま使えるからテスト期間は気軽な気持ちで楽しんでくれたらと思うよ」
面談が終わり、帰路につく。ふとカバンの中にメモが入ってる事に気づき、書いてある内容を見る。ゲームの中であった出来事を書いてあるものだった。テスターとしてログインした日ではなく、別の日の日付で書かれていた。私はその書かれた紙を見て、ゲームの夢でも見て、印象的だったからメモしたんだっけ…
それにしても記憶喪失状態でSFとファンタジーが入り混じった世界を冒険していくのは面白い。現実の記憶を持った状態や異世界に転生したり、好きなゲームの世界が現実の異世界で飛ばされる話などいろいろあるけれど、記憶喪失状態を楽しめるのはなかなか無い。まるでもう一つのどこかにある世界でもう一人の自分が旅をしているよう感覚だった。
私は携帯端末を出し、このゲームについてまた調べながら帰った。
この時、私は現実の自分に起きている事に気が付かなかった。現実でも記憶を喪失していることに…




