18-
異臭がした、吐瀉物と尿の臭いだった。
乃陰「恵那、説明はしたか?」
恵那は頷いた。
乃陰「尋問した内容を共有する、結論から言うと最悪な状況だ」
尋問された世界の敵である盗賊は、股間部は汚れ、口からはよだれが垂れていた。
恵那「ちょっと場所を移動しないか?少しだけさ」
さすがに私も気分が悪くなる臭いと状態だった。
乃陰「そうだな、だが確認をとってからだ。眠兎ちょっといいか、このクソ野郎の目線に合わせて少しだけしゃがんで欲しいんだ」
臭いが気になったが、正座させられてる状態の世界の敵の前に距離を開け目線を合わせた。手は後ろで拘束され、口はだらしなく開けられていた。おそらく顎を外されたのだろうと思った。
私はこの異様な状況に、おぞましさは感じていたものの、恐怖感はなぜかなかった。
乃陰「おい、クソ野郎…どうなんだ?」
乃陰は世界の敵の耳を持ちながら言った。
声にならないような悲痛な叫び、そして何度も頷いていた。
私は何が起きているのかわからなかった。
乃陰は舌打ちをし、掴んでいた耳を離し、立ち上がった。
乃陰「確認がとれた、ちょっとあっちで話そう」
そう言い、私達は少し離れた場所で詳しく聞く事になった。
乃陰「まず、眠兎は俺のことをドン引きしたと思うが、言い訳はしない。生きていく中で身につけないといけなかった術として尋問術を知っている。また自分たちに敵対する者に対して容赦した時に自分たちの命は危険にさらされるから徹底したことだ」
眠兎「大丈夫、さっき恵那から彼ら…世界の敵がどんな奴らか教えてもらったからドン引きはしていない」けど怖いとは言わなかった。
乃陰「そ、そうか…結構血なまぐさいから引かれたかと思ったよ」
まあ、引いたけれど、乃陰は怒らせちゃいけないなと思った。
恵那「それで、何が聞けたんだ?」
恵那はため息を付きながら聞いた。恵那はどうやら尋問は好きじゃないっぽいのを感じた。もちろん、私もそういった事は好きじゃない
乃陰「最悪なのはもう顔がバレてる可能性が高いってことだ…」
恵那「嘘だろ…ん、待って可能性?」
乃陰は言うには、私が最初に襲われていた際に彼らを返り討ちにし、跡形もなく消した事が遠くから確認されていたということだった。さっき確認をとったのも顔を確認して顔がバレているかどうかだった。服装は変わってない為、ひと目でわかったのもあったとのことだった。
成り行きとはいえ、彼らを撃退した事で町へ報復しに全員で強襲したとのことだった。人数は16人、尋問された彼がここにいるのは遊びだったとのこと、町の住民は広場に集められ、町は火をつけた状態になっており、討伐隊と遊ぶ為に生かしてるとのことだった。
恵那「これはもう手に負えない以上に…」
乃陰「恵那、お前はどうしたい?」
恵那「それって…」
乃陰「お前もわかってるはずだ…」
私を見捨てるか、それとも守るかどうかという質問、出会って数日も経ってない。守って欲しいという希望は自分にはあるけれど、これ以上は迷惑をかけれないなと感じた。つくづく、理不尽だ…
よくわからない所に放り出されて、何の為にあんなところに飛ばされたのか、身につけている武具にも覚えがない。遺跡でのこともよくわからない。
恵那「僕は守る、姉の手掛かりになると思う。乃陰だって、答えが決まってるんだろ」
乃陰「ああ、旅は道連れだしな。眠兎が着てる武具も野放しにできないレベルのものだって感じるしな」
私は嬉しかった。
眠兎「ありがとう…本当に、ありがとう…」
不安だったのだ、これからのこと、自分が何者かさえわからない状態でさっきも足手まといでこれからどうしていけばいいのかわからなく、誰にも頼れないそんなときに、彼らは守ってくれると言ってくれた。
私は嬉しさと安堵で、涙が出た。視界も赤からクリアになり黒い根のようなものも見えなった。
乃陰「ん、まあ…さて、これからの事なんだが―」
視界にウィンドウが表示され、自己防衛機能:パーティクル・アーマーが起動しましたと文章も表示された。
私は涙を拭き、周りを見渡した。その様子に乃陰と恵那も警戒した。
恵那「まさかさっきのやつが帰ってくるのが遅いから様子を見に?」
乃陰「眠兎、その武具…索敵機能もついてるんだろ…直感だが…」
眠兎「た、多分…今、防衛機能が起動した」
私は、棒を構え、槍の刃を出し、周りを注視した。
乃陰「数はわかるか?」
眠兎「わからないけれど、やってみる」
私は頭の耳に意識し、表示されているマップを見てみる。すると挟み撃ちをされている状態だった。さっきまでわからなかったのに、意識してないとわからないか…
眠兎「挟まれてる、数は2、方向はあっちと反対側」
二人は瞬時に私を中心にし、守るような形で陣形を組んだ。
乃陰「さっき尋問したやつを殺しておくべきだったか…」
恵那「なんらかの手段で連絡とったと見るべきか?」
乃陰「いや、だとしたら2人っていうのはおかしい…他にも来る可能性がある」
そして、気がついたら盗賊の仲間、世界の敵がそこにいた。恵那と乃陰から少し離れた位置に、現れた。それも突然現れたように見えたのだ。
恵那「これは…厳しいね」
乃陰「恵那、鞘を抜けよ…この臭い…やばいぞ」
何か異臭を感じた、鼻にツーンと来て独特な辛味がある臭いだった。鼻につく臭いに顔をしかめ、他に増援がいないのかマップで確認したが2人だけを確認し、どちらかに付けば2対1に出来るのがわかった。
恵那の持つ剣から革製っぽい鞘がするりと落ちていき、それを見た敵が距離を詰めてくる、敵はそれぞれ両刃の剣を持っており、左手小さな盾を装備していた。
2人も敵に合わせ、迎撃を行った。戦闘がはじまった瞬間、嫌な悪寒がし、2人の戦闘よりも何か他に来るような感じがあり、尋問されていた敵を思い出した。
気がついた時には、複数のナイフが飛んできているのがわかった。私は槍で撃ち落としつつ、避けた。数が思ったより多く、撃ち落とせなかったものもあったが、パーティクル・アーマーにより、目の前で失速し地に落ちた。
ナイフが投げられた瞬間、その視界が歪んだのを見えた為、風景に溶け込む何かを持っている、またはしてるとわかった。なぜそれがそういうものだとわかったのか、自分でも疑問に思えずにいたが今はそれどころじゃなく、このままだと2人が戦っている中で、今の姿が見えない奴から攻撃をくらったらやばいとわかった。
眠兎「姿が見えない奴がいる。場所はわからない…気をつけて!」
戦闘では足手まといになる自分が歯がゆく感じた。恵那と乃陰は決定打を与えられずに膠着状態だった。
無手の乃陰は敵からの攻撃をうまくさばいてはいるものの、相手に攻撃をうまく当てれない状態だった。恵那は攻撃をしているものの盾に阻まれ、攻撃を止められる時に反撃を警戒し、踏み込めないでいる。もう一人、姿を見せないでこちらに攻撃のチャンスを狙っているというのが気になってか、自分たちは踏み込めないでいた。
「クフフゥ、お前らも時間の問題だ、しっかり苦しませてやるからなァ!」
姿が見えない敵からの声がどこからか聞こえる。
乃陰「ぶっ殺しておけばよかった…チッ」
乃陰が戦ってる側面後ろからナイフが飛んでいった、私はそれを目で追うことしか出来ずにいた。
しかし、乃陰はそれに気づいており、飛んでくるナイフを掴み、そのまま投げられた方向に投げ返した。その一連の動作は、ナイフの起動がUターンする形で返されており、その反動を利用して乃陰が相手をしてる敵に蹴りを入れていた。
返されたナイフは、見えない敵に当たった。当たった瞬間に、景色が揺らぎ続けていた。チャンスだと感じ、私がその見えない敵を倒そうと動いた。
しかし、即座にまた見えなくなった。血が流れて見えるはずと思っていたが、地面にも血のあとがなく、見失ってしまった。
「殺す…殺す…殺す…」
乃陰「しぶといやつだな!」
さっきから喋ってるのが見えない奴のみで対峙してる2人は目が血走っており、歯を食いしばって苦しそうな感じで戦ってる。
恵那「くっ…力が強くなってきてる…ぐっ」
恵那は相手の攻撃を剣で捌ききれず、つばぜり合いの状態になった。相手は片手で押しているが、恵那は両手で剣を持っている。
片手で盾を持っている為、つばぜり合いをしていても恵那の方が力で負けており、敵は盾で攻撃を仕掛けてきていた。恵那はそれを避けるが、剣で追撃される。切っ先が身体をかすめ、もう少し遅かったら切られていたのがわかった。
避けた先にナイフが投げられ、避けられない状態だった。私は攻撃が来るだろうと動けるようにしていたが、完全に自分が落とせない位置からの攻撃で恵那に当たろうとしていた。
ナイフは恵那に当たろうとした瞬間、失速して地に落ちた。
恵那「眠兎と同じアーマーがこの服にもついてるからね…そっちよりは高性能じゃないけど」
私は2人の戦闘で何も出来ずにいる不甲斐なさを感じ、苛立ちを覚えていた。
乃陰「眠兎、落ち着けよ!こいつらはなんとかする、恵那も早くしろ」
乃陰が何か言っている声がかすかに聞こえた…でもそんな事よりも胸の当たりが熱くなっていた。視界が急激に赤く染まっていき、黒い根がうねうねしながら主観視点を狭めていた。
第三者視点で自分を見ると目が充血したように真っ赤になっていた。髪の毛の色もかすかだが赤くなっているように見えた。
恵那「なにこの感じ…って眠兎?!」
悔しい…
乃陰「落ち着け!眠兎!」
悔しい…悔しいィィイ!!!!
「お前、役立たずだなァ…あの女の子も死んじゃって…ほんと、役立たず」
殺す!
「お前はあの時、何もしなければ町の人たちも死なずに済んだのに、最低だなお前」
ぶっ殺す!!!!!
恵那「眠兎、聞くな!お前は悪くない!」
乃陰「腐れ外道が!黙りやがれ!」
そこでふと、目に入った。さっき殺された女の子だった…服は脱がされ、胸のあたりが紫色と血色が混ざった状態だった。下部からは血が流れていた…
「クヒャヒャヒャ!ここに来る前に犯してやった、いい発散になった」
それがキッカケだった。黒いインナーが身体中を飲み込んでいった、シルクの絹が肌に触れていく感触で不快感はなかった。首元から後頭部へつたっていき、ツインテールの髪はポニーテールにまとめられ、頭の耳も三角形から、尖った形へと変異した。後頭部からつたっていった黒いインナーは顎下からつたってくる黒いインナーと合流し、頭全体をすっぽりと包んだ。
外装が元からあった部分以外は黒いインナー全身をくまなく包みこんだ。またインナーの上に着ていた外装の形状と材質が変身していった。淡い光を帯びながら、それは身体を包み込み、鎧として形成された。首から下にかけて、さっきまでと違い厚みを増したものへと変化し、黒いインナーが見えない状態になった。
頭部の部分だけ、黒いインナーが包み込んだ状態だったが、形状と材質が変化した後、獣の顔と思われるヘルメットが瞬時に現れた。口を開けた状態で中は頭部が見える。
全身がフルプレートの騎士のような出で立ちに変わった。
眠兎「ウオォォォォ!!!!」
自分の声が合成音のようになっていた。
ガシャン!!!!!
獣のようなヘルメットの口が閉じられ、それは狐の仮面のような兎だった。ヘルメットは兎の形をしているが、目の部分はナメクジの目のように突き出されており、一定の速度で回転していた。
先ほどの状態と違い、視界が変わった。さっきまで見えなかった敵の位置がリングターゲットでどの方向にいるのか表示された。また、敵がくっきりと表示されるようになった。
見つけた瞬間、私は足に力を込め一気に槍を突き出し突進した。
槍の刃の部分が瞬時に変化し、蛍光ピンク色のドリル型になった。
距離はあったものの、一足で距離を詰め、槍でそいつを貫いた。
胸から頭にかけてパックリと消え、両腕が散らばり、胸から下の下半身が無造作にその場に落ちた。
その一瞬の出来事を、恵那と乃陰が対峙していた敵は恐慌し、逃げようとしたのがわかった。リングターゲットの情報が逃げようとしてると知らせてくれたのだ。
赤色から黄色の点滅に変わったのだ、私はそれが逃亡の意思があるというのが瞬時に認識できた。
私はさっきと同じように、足に力を込め一気に槍を突き出し突進し、より近くにした恵那と対峙していた敵を肉塊に変えた。胸から頭部にかけてすっぽりと無くしてやった。
乃陰が対峙していた方は、その様子を見るまでもなく戦線を離脱しようとしていた。木々をうまく使い、安易に突進攻撃をさせないようにジグザクに逃げていた。
私は槍を構えから投擲の構えをとり、刃の形状もドリル型から細い剣のような尖った形状にし、狙いを定めた。
頭部の目に当たる部分の形状が変化し、鋭い針がいくつか重なったような形状になっていた。
視界がかわり、敵の行動の予測が表示され、投擲する際の弾道なども線が見えていた。私はそれを読み取り、思いっきり投擲した。
投擲された槍は木々を縫い、逃げていた敵の背中に刺さると、刃の形状が細い剣から瞬時に球体の形に変化し、他の敵と同様バラバラな状態になった。
投げられた槍は、敵への攻撃が終わると手元に瞬時に帰ってきたのでそれを受け止めた。
恵那と乃陰は、驚愕していた。敵がいなくなり、冷静になった自分はTPS視点から、さっきまでの格好を全く違う事と今やったことでドン引きされたなと感じたが別にどうでもよかった。
私は振り向き、恵那と乃陰の方を向いた時、2人はビクリと身体が動いていた。
そりゃあ、そうだよね…
私は彼らを背にし、町へ疾走した、後ろで二人が何かを叫んでいたが自分が招いた事だ、自分でかたをつけなきゃいけない。
胸が痛かった…拒絶された気がした。自分が何者かわからない、さっきまでの自分が何者なのかさえよくわからない。
でも
後悔はもうしたくない、自分がどういう状態なのか第三者視点と主観の両方で確認し、奴らを殺せると確信していた。
視界は真っ赤に染まり、黒い根は見えなくなっており、私は落ち着いていた。
最初、盗賊を成り行きで撃退した事で、町が狙われることになった。あの時は恐怖が私を支配していた。今は違う。
恵那と乃陰が盗賊の根城にしてる場所を報告、その後は盗賊を撃退する部隊の仕事、到着するまでの間に町が襲われたのも、私がもっとうまく動けていたら、記憶喪失じゃなかったら…もっとこの武具をうまく使いこなせていたら、変わっていたのに!
心が揺らぎ、激情していったのが感じた。
町が見えてきた、マップも更新される。生命反応が多数存在し、住民だと思われる生体反応が広場に集められているのがわかった。
頭部の耳に意識を集中し、文字情報化されたものが画面に表示される。
私が身構え、周囲に敵がいるのかと思ったらそうではなかった。画面には、偵察型にしますか?と表示されていたので偵察型にした。同意と意識するだけで偵察型に変化した。
目の部分が、アンテナ状に変容しヘルメットの上部が開き、アンテナ状となったのが上へ向き、中身が露出される。中身は黒いインナーが装甲に変容しており、継ぎ目部分から淡い赤い光が漏れていた。主観視点だと普通に何もつけてない状態と変わらない風に見えるため、第三者視点で見ると異様だなと感じた。
アンテナがくるくるとゆっくりと回ると、偵察が終了し、マップはより繊細に再表示され、どこにどんな人がいるのか、また識別もされた。リングターゲット表示も追加され、リングターゲットに意識を集中するとターゲットされた敵の主武装なども表示された。数は14人、広場に6人、巡回してるのが8人…
そして、町がどんな状態なのかを…知ることになった。




