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007 思い

あれ?現地行動班に女の子1人しかいないじゃん・・・・・・

~ナミン・サンベルト視点~

 次の任務は「再興計画」に関するものらしい。計画のことはよく分からないが、今までに2回参加したことがあるから大丈夫だろう。リンが班長なのには少し驚いたが、理由は何となく想像できる。彼はいつも相手に嫌われないように動く。そのくせ仲良くなろうともしない。常に中立でいようとするのだ。現地行動班は初対面のメンバーが多いから、リンのそういうところが買われたのかもしれない。あの人、私以外に知り合いいるんだろうか。


 私も自分なりにメンバーを調べた。不思議なことに、私とリン以外の人たちもお互いに関わりがない。ただ、それぞれ完璧超人のようだ。ルウイヤ人が2人なのは、私が班長補佐、っていう立ち位置だかららしい。まぁ、団長の言うことだから怪しいが。


 そう。私は団長のことがどうしても信頼できない。彼の任務内容の説明には、よく虚偽の情報が含まれている。現地でもその嘘が原因で混乱が生じたことも多い。

 だが、任務は必ず成功するのだ。メンバーの能力が高いということもあるだろうが、普通嘘の情報を教えられたら成功しない。団長はかなり重要なこと、例えば偽の狙撃ポイントの位置を教えたり、建物の見取り図に手を加える、なんてこともあった。


 初めの方はみんな団長を疑っていたが、何故か成功するので、その内彼を信用していった。最近は私たちも慣れてきて、団長の嘘があっても問題なく任務を遂行できるようになってきた。


 だが、問題なければいい、ということではないと思う。上司が嘘をついているのが不自然なのだ。私たちは仕事が仕事なので命の危険も多い。任務中は特にだ。

 ただでさえ危険なのに任務内容には嘘が混じっている。私にはそれが怖くて仕方がなかった。


 今回も恐らくどこかに嘘があるだろう。絶対に油断してはならない。


 そう心に誓って私はベットに潜り込んだ。



~ニクソン・サクラメント視点~

 シカゴ支部から連絡があった時、俺はお楽しみの真っ最中だった。しかたなく下半身にまとわりついた女をどかし、電話を取った。「再興計画」の現地行動班に選ばれた、と聞いた時、思わず大声で叫んでしまった。もちろん、嬉しかったからだ。相当に酔っぱらっていたっつうのもあるか。しかも、今回の作戦指示班にはあのバルタザール・アロンソがいるらしい。彼は言わずと知れた組織の頭脳だ。みんな知ってるだろ?再興計画の提唱者だよ。あの人がいるんなら今回はもう成功したも同然だよ。


 まぁ、そんなわけでめっちゃ嬉しかったわけで、俺の戦友にも連絡をした。シカゴじゃ任務を遂行する奴ら、つまり現地行動班はグループ化されている。いつも一緒だ。だから当然俺のダチも選ばれてるって思ったわけだ。でも、俺以外選ばれてなかったんだよ。俺は班長のリン・オデムウィンギって奴の補佐役らしい。そいつのことは知らない。ってかメンバー全員知らねぇ。ヨハン・リヒトシュタイナーとかいうのは、通訳を務めるんだろう。名前がドイツ系だし。そん位しか判らん。


 ま、地図探して帰るだけだ。大して面白くないだろう。


~フランク・デカルト視点~

 「ふぅっ」


 疲れた。僕はフランス、パリ支部の発言権第3位。すなわちエリートだ。だが、うちの支部はそんなの関係ない。団長も普通に任務に駆り出される。自分に割り当てられた仕事を完了できなければ、「発言権」の位が下がる。ポイント制だ。めったに上位の変動はないが、たまにすごい人が出てきて、どんどん成り上がる時もある。団長や僕がその例だ。2位の人は違う。彼女はこの道30年のおばさんだ。でもまだ現役というすごい人。ただ、最近は失敗続きで、もうすぐ僕に追い抜かれるだろう。年齢には抗えないのだ。


 そんなことはどうでもいい。今は支部に戻らなくては。歩き出したとき、あることに気づいた。


「これダメじゃん」


 今僕がいるのはビルの3階だ。ここから1階まですべてのフロアに死体が散乱している。普段はイタリアのマフィアを処分しているので、死体を放置してもあまり騒がれない。

 だが、今回は国会議員だ。見つかったら確実に騒がれる。どうしようか・・・・・・


 いい案を思いついた。燃やしてしまえばいいのだ。僕はいつも相手の首の大動脈を切断して殺している。なので焼死体の骨を調べられても傷痕なんて残らないって訳だ。正直、建物ごと燃やすのは気が引ける。でも、このあと仕事がある。ここでどじを踏むわけにはいかない。


 正直、「再興計画」とやらはどうでもいい。わざわざドイツまでいかなくてはいけないので面倒くさい。初めは断っていたのだが、3回目のオファーがあったので仕方なく受けた。名前からして面倒くさそうだったので、今までは発言権のポイントを減らしてでも断った。これ以上頼まれると面倒くさいから今回だけって条件で引き受けたが、やっぱりやりたくない。このままドタキャンしようかな。


 この日、パリのエトワール凱旋門に程近い八区のビルが炎上した。延焼は無かった。これが意図的に仕組まれたものだと知っている人はいない。


~ヨハン・リヒトシュタイナー視点~

 先日、ヨーロッパ各国の学者から成るヴァルター村の合同調査チームの通訳を任された。ヴァルター村は閉鎖されていて、しかも軍が管理しているから普通は入れない。少し楽しみだ。

 

 あの村には色々な噂がある。「夜に村に続く道を通ると、黒い服を着た人が歩いている」とか、「ヴァルター村は第3次世界大戦時にドイツ軍の研究施設があり、今も陸軍が人体実験を行っている」とか沢山だ。


 少し怖い気もするが、有意義な時間を過ごせるだろう。


 と、思いたかった。しかし、そうもいかないらしい。

 2日前、ゾンネベルクの役場にある僕のオフィスにファックスが届いた。「合同研究チームを信用するな 彼らは君に災厄を招くだろう ブルグント」という内容だ。ちなみに、差出人のブルグントというのは、『ニーベルンゲンの歌』という英雄叙事詩に出てくる王の事だ。もはや国民の半分も彼のことを知らないだろう。時代の流れと言う奴だ。


 さらに、こんなこともあった。

 昨日、僕の携帯に、「ブルグントを信用してはならない 彼らの話に耳を貸してはいけない ヴィーダーアオフバオ」なんてメールが非通知で届いたのだ。そのメールを閉じたらメールが勝手に消去された。ウイルスなどは無かった。これにはさすがに恐ろしくなって、警察に連絡しようとした。しかし、一切証拠がない。ヴィーダーアオフバオは「再興」という意味だ。


 まあ、今さら引き受けた仕事を拒否することは僕のプライドが許さない。それに、こういう奇怪な事は大好きだ。


 ま、楽しませてもらおう。そう楽観的に考えていた時期が、僕にもあった。


~リン・オデムウィンギ視点~

 今回は単なる探し物だ。そう考えていた時期が俺にもあった。


 一昨日から昨日にかけて、現地通訳にどこかからメッセージが届いたと諜報部から連絡が入った。すかさず団長が他の作戦指示班の面々に連絡を取り、リヒトシュタイナー氏に怪文書を送りつけた。ブルグントってなんだろ。


 もう明日が出発の日だ。どうやらルウイヤから空路を使うのは俺とナミンだけのようだ。我々だけに専用機を使ってもいいのかねぇ。なんて思ったが、「組織」としての最後の仕事になるかもしれないのだ。最後くらい、って思いもあるのだろう。

 ・・・・・・さすがにないか。


 俺の仕事は決まっている。

 まず、自分の感情を削ってでもチームに争いを生まないようにする。班長の基本だと俺は思っている。

 次に、「自分」を作らないこと。俺のことをメンバーに「班長」としか認識させない。余計な感情は作戦の妨げとなる。

 最後に、メンバーのプライベートにできうる限り関わらないこと。これは俺の信念でもある。ナミンはもはや関わりすぎて例外だが、俺が関わることで嫌な思いをする人が出てくるはずだ。それは避けたい。


 これだけを忘れずに頑張れば、探し物位はなんとかなるはずだ。


 もう一度書こう。


 この任務をナメていた時期が、俺にもあった。



 

 

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