013 いざ出陣
今度こそ出発だ。あ、ちなみに、手帳の件はもう大丈夫だ。後は組織に任せておけばいい。これでヨハンの契約は延長できる。これから起きるであろう事を考えるといささか胸が痛むが、必要な負担だろう。
狐に摘ままれたような顔でヨハンが近づいてきた。右手に携帯(長い歴史を経てガラパゴスな携帯が蘇生した)を持っている。
「お早うさんヨハン」
「ああ、お早う。なぁリン、聞いてくれ」
「なんだい?」
「昨日言ってた契約なんだけど、キャンセルはいった」
「おおお、仕事早いな」
「え?」
「いや、こっちの話だ。大丈夫だ、問題ない」
「そうか、ならいい」
「ってことは、契約延長できるんだよな?」
「金さえくれれば」
「ここでまさかの守銭奴である。まあ、頼むよ」
「ああ、任された」
ヨハンは俺の良心を爆撃するレベルにキラッキラした笑顔で応じてくれた。心が痛い。
ヨハンを継続して雇うことには若干の議論があったが、「いざとなったら解雇すればいいよね」からの「いざとなったらポイすればいいでしょう」からの「ポイって?」からの「朝起きたら通訳氏が消えていたり」そして「止めよ?」エレクトロン「ま、そのとき考えればいいでしょう」
こうして正式にヨハンを地獄に引きずり込む事が決定した。罪悪感はある。
ちなみに、現在時刻は午前四時。これから空港に向かい、民間機でミュンヘンに行く。支部で武器の補充を行い、さらに民間機でヴァルター村付近まで接近。できれば偵察したいが、多分近くの索敵位しかできないだろう。本格的な行動は明日からになる。
「よし、行くぞ」
かくして地獄の釜の蓋は開いた。
道中特に面白いことはなかったので割愛する。ミュンヘンで手にいれた武器は、
・試作型広範囲散弾式手榴弾 爆発自体には威力が少ないが、広範囲に尖った金属片と小さい爆弾を撒き散らす手榴弾。物陰から敵の真ん中に投げるらしい。なんかフレンドリーキルが起こりそうで怖い。一人四つ
・試作型雷撃式地雷 踏んだ奴に死なない程度の高電圧を流し、気絶させる武器。通電させるために地表に針を出さなくてはいけないため、見つかりやすい。人質を得るために使う。これ守備側が使うべきなんじゃないだろうか。みんな合わせて十個。再充電可能。
・対空ホーミングランチャー 空中の熱を発する物質を自動追尾する。んで爆発する。 一人一つ。各自の判断でおいていってもいい。
・ナイフ ナイフ。錆びないナイフ。 一人一本
・組立式アサルトライフル~ミュンヘン支部仕様~ ミュンヘン支部がカスタムしたアサルトライフル。銃身が少し短くなっている。消音器つき。他にも反動を減らしたり、装填可能弾数が増えていたり、いろいろ改造されている。
・CDと再生用装置~ミュンヘン支部仕様~ 再生用装置はいい。小さいのに最大音量がとてつもない装置だ。問題はCDにある。これは子供に聞かせるには刺激が強すぎる内容だ。女性の荒い息づかい、媚びるような声エトセトラエトセトラ。囮用だな。ただ、これを渡してきたミュンヘン支部の男は、「これはめっちゃいいぜ。映像がなくても全然大丈夫さ」と言っていたが、無視で行こう。内容は仲間には伝えていない。賢明な判断だと思う。・・・・・・後で使ってみよ(ry みんなで一つ。
・拳銃~ミュンヘン支部仕様~ 反動が少なく、消音器がついている拳銃。それだけ。一人二丁。
・試作型グレネードランチャー~コバレッタ支部重火器研究室カスタム~ 単発式のグレネードランチャーに無理矢理フックショット機能を追加したもの。機能を変えるときには組み直す必要があるが、フックショットは使わないからいいだろう。これを手に入れることによって俺は任意にバカップルを爆撃できるようになった。黒い笑みが収まらない。一人一丁。
・防弾チョッキ 市販の防弾チョッキ。一人一着。
・お弁当~ミュンヘン支部仕様~ 今日の昼食。肉が多いのかな?
これをもらって、ヴァルター村の一キロ手前に来ている。これ以上の接近は敵に警戒される恐れがある。ここで宿をとることにする。ここでヨハンへの言い訳があった。
「今日はここで宿をとろう」
「わかりました」
「何で?ヴァルター村に行けば良いじゃん。あそこは管理されてるんだから研究チームが泊まるとこ位用意してもらえるでしょ?」
「あそこにそんなとこはないよ」
「でもドイツ軍が駐留してるんだろ?」
「事前に連絡してないから」
「・・・・・・そう、ですか」
「んだ」
こうして宿をとった。ヨハンの疑問が膨らんでいる。どこで正体をバラすべきだろうか?
深夜、ミュンヘン支部仕様のCDの動作確認をした。いやぁ、素晴らしい。
そして、朝が来た。
装備の確認は済んだ。後はどう侵入するかが問題だ。朝からまた話し合いだ。ヨハンは外している。研究者という設定、スパイの疑いがある。一緒に行動するわけにはいかない。
ちなみに、我々は村の北にいる。村の北には平原があり、南には森がある。東には大きな川があり、西には丘がある。
「北から行くのは無いだろう」
「そうね、確実に見つかるわね」
「森から入るってのはどうだ、班長?こっちなら敵に視認される可能性は低いぜ」
「こういう所は監視カメラとかで警戒されてるんじゃないか?」
「確かに」
「いっそのこと正面から敵に突っ込むのはどうでしょう。丘から侵入すれば上から狙えます」
「丘だとカバーができないから難しいだろう」
「ですよねー」
「東も難しいわね。多分橋は無いわ」
「そうだな」
なんか見つからずに入るのは難しそうだ。どうしようか・・・・・・森から行くしかないのかな・・・・・・
「森から行こう。監視カメラは視認からの回避で」
「了解。それで、地図に検討をつけた方がいいと思うぜ」
「言えてますね。何か手がかりは無いのですか?」
「無い。なーんにもない」
手がかりが無いから検討のつけようがない。紙なのかそれとも何かを地図に例えているのか。そもそも復興計画って何なんだろう。もうなんもわかんない。
とりあえず、森から侵入する方針に決まった。民間人は誰も住んでいない村に果たして地図はあるのだろうか。
「んじゃ、行くか」
「ヨハンへの言い訳はどうするの?」
「補佐役、君に一任する。頑張りたまえ」
「恐縮であります、ゴミ班長殿」
そして不可侵の村へ向かった。
「なによ、何もなかったじゃないの」
ナミンがそう言う気持ちもわかる。俺たちは小一時間かけて森を抜けた。木の影に隠れ、監視カメラを探し、前進を繰り返した。それなのにカメラなんて一つもなかった。運良くそういうルートを通ったのか、それとも裏に何かあるのか。とにかくまだ気を抜けない。こっちに野宿とかもあり得る。
ヴァルター村は特に変わったものが無い、普通の村のようだった。道もアスファルトで舗装されているし、建物もコンクリートでできている。っていうか、普通に道を通ればよかったんじゃないだろうか。ちなみに、ヨハンには、「これが正規ルート」と言ってあるが恐らく疑われているだろう。嘘も限界が近い。
木の影から辺りを見ると、二十メートル程先にアサルトライフルを持った兵装の男が二人、こちらに背を向けて立っている。奴らの一人を捕虜にして、情報を聞き出す予定だ。
「フランク、奴らの一人を捕らえれるか?」
「もちろんです」
そう言うとフランクはすぐにそれを実行した。後ろから二人に近づくと、一人の首に何かを突き立て、もう一人にスタンガンとおぼしき何かを当てて気絶させると、軽々と持ち上げて帰ってきた。
「今からもう一人を処理してきます」
「あいつ、どうなったんだ?」
「もう死んでるはずです」
自分の表情が凍りつくのがわかる。俺はなんて指示をした?殺せとは言ってないはずだ。だが、生かせとも言っていない。俺のせいであの男は死んだのか?フランクのせいか?その死は必要だったのか?そんな問いが頭を巡る。そして結論をフランクに通達した。
「フランク、これからは指示が無い限り自由にしてくれ。今は隠密行動。殺傷は無しだ」
「了解です」
もう自分も同罪だ。殺すのを嫌うだなんて偉そうなことは言えない。
こうしてヴァルター村攻略戦は俺にとって最悪な形で幕を開けた。