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012 手帳強奪(拝借)作戦

 楽しかった?休日を終えていよいよ出発の日を迎えた。作戦指示班と定時連絡をする。通常時は朝晩二回だ。そして、予想外の指示が飛んできた。


「静止衛星から送られてきた画像よりヴァルター村付近に大型兵器を確認した。対空砲と推測される。君たちの着陸予定地点も射程圏内に入っている可能性がある。よって、作戦内容を一部変更し、村には歩きで侵入してくれ」


「対空砲?ヴァルター村ってただの村ですよね?ずっと昔にドイツ軍撤収してますよね?侵入って、入ると法に触れるんですか?」


「我々にもわからない。今も管理されてるんだろ。ただ、どうやら別勢力が存在するらしい。最悪武力行使をすることになるだろう。頑張ってくれ」


「投げやりですね」


 一方的に通信を切られた。ゲスいな。ってか、静止衛星なんか持ってたんだこの組織。


 「と、いう事だそうだ」


 一部始終を全員(ヨハンを除く)に伝えた。みんなそれぞれ違った反応を見せた。ナミンは「あっそ」と呟き、手榴弾をポケットに突っ込んだ。戦闘前提の装備だ。もっと驚いたり、ヒステリックに叫ぶと思ったが、案外冷静だった。一番目に見える形で驚いたのはニッキ―だった。「マジかよ、クソ!ナイフしか持ってねぇよ!どうすんだよ畜生!」備えあれば憂いなし、確か中国の古文にそんなのがあったはずだ。フランクは予想通りだった。「了解しました」と言うと、少し微笑んだ。何か黒いものを感じる笑みだった。ヨハンは経歴に信頼がおけないので、科学者内での打ち合わせってことで外してもらった。何故かナミンが反対したが。


「ヨハンも仲間なんだから、一緒に話し合いましょうよ!アイツだけ知らないことやあって、それで死んだらどうするのよ!?」


「元はフリーフォールだったけど、徒歩で村に行くことになりました、って言うのか?おかしいだろぉ。一般人(若干強めに発音した)に伝えるのには内容が不向きだろ。リンも何か言ってやれよ」


「ニッキーの言う通りだ。そういうことで、このままヨハンには何も伝えるな。彼に伝えるべき情報は、事前に班長の俺か、補佐のナミンに相談して共有しておくこと。いいな?」


「了解です」


「オッケー」


「・・・・・・わかったわ」


 ナミンは若干不服そうだったが、一応は了承してくれた。ヨハンとは昨日だけで随分仲良くなったようだ。いいことだが。しかし、何故組織はヨハンを雇ったのだろうか。明らかに不要人材だ。通訳無しでも多少はコミュニケーションがとれる。ドイツ語もほんっっっとに少しなら話せる。多少単語も知っているからな。


 仮に彼がスパイだとして、組織はそれを知っててヨハンを選んだのか?何のために?ドイツ軍は何を狙っているのか?対空砲を設置したのは本当にドイツ軍なのか?情報が少なすぎる。現時点で判断するのは早計だろう。


 地図を探して帰るだけ、って考え方は改める必要がありそうだ。しかし、武力行使か・・・・・・嫌だなあ。多分人を殺さなきゃいけないのだろう。対空砲を持ってくるくらいだ。向こうから接触してくる可能性も高い。襲撃を受けたら、行動不能にするのはキツい。殺さなきゃならんのだろう。嫌だなあ。嫌だなあ。


 ってか、武器足りないや。拳銃一丁でなんとかなるとは思えない。ナイフだけで遠距離攻撃を防ぐというのは創作物の中の人かそれ専門の人か神にしか出来ない芸当だ。追加物資を貰った方がいいな。受け渡しはどこが良いかな・・・・・・


「リン、武器が足りねぇ」


「お前ナイフ一本で来たんだったな」


 ニッキーは俺以上にこの任務を甘く見ていた。ナイフと充電器と服、それだけで来た。明らかにナメている。それでも通用する力があるのかもしれないが。


「どっかの支部から支給してもらおう。ドイツだとどこの規模が大きいかな?」


「やっぱミュンヘンじゃないか?あそこは少し前に武器庫が増設されたはずだ。今なら選べる種類も多いと思うぜ」


「そうだな。でも、若干村から距離があるなぁ。まあ、指示班に提案してみるよ」

「頼んだぜ」


「ああ」


計画は無くなったも同然だ。多分指示班は組織トップクラスの実力者が揃っているはずだ。それなのに早くも出鼻を挫かれた。敵は組織的かつ大規模だと考えていいだろう。諜報活動でもしないとただでさえ世界情勢に若干の関与はせども基本的に裏で動く我々の動きなんて分からないはずだし。



「――ということなんですが」


「・・・・・・やむを得まい。民間機を使う。チケットは手配しておくから、先に空港へ向かえ。ミュンヘンに到着したら連絡してくれ。受け渡し場所を指示する。ああ、恐らく試作品を渡されるだろうから、必ず安全に試射してから使うこと」


「え、ぁ、了解です」


 あっさりと提案が通り、ミュンヘンへ向かうこととなった。受け渡しとか、なんかヤバイものを運んでる気分だ。まあ、危険物やばいものではあるが。試作品ってなんだろな。でっかい陽子砲かな?


「通ったぞ。試作品もくれるらしい」


「周囲の発電所から吸いとった電力を充填して発射したりするのか?」


「そんな大規模じゃないはずさ」


「楽しみですね」


「危ないモン嫌だから。あんたらで使って」


「もう入ってもいいかい?」


「お前だけ特別扱いは出来ない」


「誤爆で死にたくないのよ」


「それはみんな一緒だ」


「そんなの受け取るだけ受け取って使わなければいいじゃない」


「新兵器と言う言葉に俺の少年な部分が疼くのさ」


「平常運転じゃない。アンタは今も子供程度の思考回路しか持ってないでしょ」


「俺は常に冷静で、クールなのさ」


「もういいのかい?」


「・・・・・・ふふふ」


「何がおかしい?」


「そりゃぁアンタの――」


「はいそこまでー。仲良くしましょう、ね?」


 フランクに止められた。情けない。


「入ってもいいのか?」


「大丈夫だ。問題ない」


 ヨハンを随分待たせてしまった。悪いことをしたな。扉を開けて入ってくるヨハンを見て、ナミンが少し焦ったような顔をした。そうだよな。知り合ったばっかの奴らの前で口喧嘩はみっともないもんな。


「ヨハン、こちらの都合で一度ミュンヘンに寄る。費用はもちろんこっちで持つから安心してくれ」


「了解。だが、通訳としての契約期間中に終わるのか?」


「延長すればいいさ」


「いや、この契約期間の後別の仕事がある」


「へー、誰の通訳だい?」


「それは言えないな。個人情報ってやつさ」


「なるほど、そうだよな。ところで、今度手帳を買おうと思うんだが、ヨハンはどんなのを使ってるんだ?」


「見せてあげるよ。イタリア製なんだ」


「へぇ、良いね」


 さてと、一仕事増えたな。



 結局飛行機の関係で出発は明日になった。計画なんて無かった。俺たちが泊まっている建物は組織が所有しているから手続きとかは無い。いいねぇ。ヨハンも今夜はこっちに泊まってくらしい。チャンスなり。

 というわけで、昼間見たヨハンの手帳を拝借する。大丈夫。借りるだけだ。大丈夫。

 手帳はヨハンの鞄の中だ。今、我々は簡易ベッドで雑魚寝している。ナミンだけは衝立の向こうだ。俺、衝立、ナミンの順に並んでいるところから考えると、それなりに信用されているのかもしれない。俺とヨハンの間には、フランクがいる。気付かれても説明が面倒だし、完璧なステルスで行かねばならぬ。


 フランクも眠る丑三つ時、静かにベッドから出る。若かりし頃、月に何回か親に見つからないようにティッシュとワイセツ物を隠し場所に取りに行っていた。その時培った技術が今役に立つのだ。無音で床に降りる。突然衝立の向こうから声が聞こえてきた。マジで心臓が止まった。


「んん、ねぇアンタもっと食べなさいよ・・・・・・んむぅ」


 幸せそうな夢である。食べれない夢なら本でたまに見かけるが、食べさせる夢を見るとはな。性格をよく反映している。相手は俺かな?

 ・・・・・・馬鹿馬鹿しい。

 ナミンを無視して慎重に一歩一歩確実に踏み出す。足の指先の感覚で軋む所を判別し、避ける。この辺は長年の技術がものを言う。


 フランクのベッドに到達した。彼は何を仕掛けてくるかわからない。突然起き出して首筋にナイフを添えてくるかもしれん。ここは匍匐前進で行こう。奴の視界に入らなければいいのだ。

 腰を屈めるために脚の位置をずらす。その時、ふと視線を感じた。静かに視線の源を探す。フランクか?いや、違う。彼はまだ寝息をたてている。幸せな奴だ。

 更に首を曲げる。遂に目があった。

 ニッキーが俺をじっと見つめていた。猫の如く爛々と輝く目は、暗闇で見ると恐怖でしかなかった。

 しかし、俺もプロだ。そんなことで声をあげるほど未熟ではない。しかし、どうしたものか。

 対応に困っていると、向こうから動いてきた。ニッキーは笑うように目を細めると、再び横になった。

 心の友よ!


 最後の関門を突破した。そしてそこからはすんなりといった。手帳を拝借する。慎重にページをめくり、目的のページを見つける。最後に、夕方買ったドイツ語辞典を片手に、文章をルウイヤ語に訳して写す。月明かりを頼りに作業を進める。幻想的だ。

 

 任務を終えて寝た。




 翌朝、ニッキーとフランクに意味ありげな視線を送られた。フランク怖い。

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