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011 ロンドンの休日

 いろいろあったが、決めるべきことは決まったので、作戦指示班に連絡した。彼らいわく、


「時間に余裕があるので今日は自由にしてよい」


ということらしい。補佐役については、


「すまんな、シカゴとコバレッタの間で連絡ミスがあったようだ」

という答えが返ってきた。終わった事だから気にしないが、怪しい。

しかし、折角ロンドンをぶらぶらできるのだ。この際仕事の事は忘れて、ピカデリー・サーカスに出会いを求めよう!

そう思った矢先、


「ちょっと街案内してよ。暇でしょ?」


悪夢のデートが始まった。というのは最悪のルートだ。回避しなければならない。回避するには、早く出発するしかない。


「今日は自由行動だから、各々観光でもしてくれ」


「わかりました」


「オーケー」


今気づいた。一人足りない。


「あれ、ナミンは?」

「さっき、どうせ今日は自由行動でしょ、とか言って出てったぜ」

「よっしゃー!」


「どうされました?」

「いや、何でもない。んじゃ、行ってくるわ」


「いってら」


こうして自由を得た。もちろん、美女探しなんぞしない。あの博物館とか、あの塔とか、あの広場とかに行こうと思う。一人でさ!寂しくないさ!別に友達がいない訳じゃないのさ!

 ・・・・・・自分でやってて悲しくなってきた。



~ヨハン・リヒトシュタイナー視点~


ロンドンについた。合同調査チームとは明日パディントン駅で合流することになっている。今日は自由だ。


僕は十七歳までロンドンに住んでいた。なので昨日ははその時の友人を訪ねた。彼はそこでポーカーを一晩中やった。そして朝方に帰路に着こうとして友人の家の門をくぐった時美しい女性に声をかけられた。


「すみません、道を教えてほしいのですが」


「どこですか?」


「オックスフォード・サーカスです」


 偶然にも、僕の宿もそこにあった。


「僕も今からそこに向かうところです。一緒に行きましょう」


「はい、ありがとうございます」


この人、人を疑った方がいいと思う。まあ、僕には探られて痛い腹はないが。


「私はリサ・シューメイカー。リサでいいわ」


「シューメイカー?変わった苗字だね。僕はヨハン・リヒトシュタイナー。どう読んでくれても構わないよ」


「ヨハン・リヒトシュタイナーか・・・・・・判ったわ」


 急にリサの雰囲気が変わった。突然僕の目の前で地図を広げると、高慢な口調で話し始めた。


「ヨハン、早く行きましょう。私は時間が惜しいの」


「えぇ?あ、うん。行こうか」


「それで?どの地下鉄に乗ればいいの?このノーザンラインってやつ?」


「全然違うよ。このセントラルラインに乗るんだ。今僕たちはここ、見て、リサ。クイーンズ・ウェイ駅の近くにいる。オックスフォード・サーカスはここ。近くだ。そこから地下鉄に乗っていこう」


「分かったわ。それじゃ、切符を買ってくるわね」


 そう言ってリサは券売機の前に立った。そして動かなくなった。どうしたんだろう?


「リサ、どうかしたかい?」


「べ、別に、どうもしてないわ!大丈夫よ!」


「切符が買えないんだね?」


「ええ、ロンドンは初めてなの。代わりに買ってもらえるかしら?」


「もちろん」


 悪い人ではないんだな、と思った。


 リサに切符の買い方を教え、地下鉄に乗り、オックスフォード・サーカスに到着した。ここはロンドンの中でも有名な地区だ。数々の店が面白いものをこれでもか、というほど並べ、我々観光客を誘ってくる。原油枯渇後はとてつもなく大きなシャッター通りとなったが、電気供給が安定してから、再び蘇った。商魂である。


「ここは服屋ね!入るわよ!」


「え?ここまで案内するだけのつもりだったんだけど・・・・・・」


「いいじゃない。早く来なさいよ」


「うん・・・・・・」


 知らない女性とデートすることになった。これも旅の醍醐味なんだろうか・・・・・・まあいい。この人、美人だし、悪人では無さそうだ。美人だし。美人だし。美人だし。めっちゃタイプだし。でも、いわゆる「S」って感じだな。


 こうして、地獄は幕を開けた。


~リン・オデムウィンギ視点~


 あの後、俺は珍しく自分で建てた計画を最後まで実行できた。女探しのことではない。観光だ。某有名な博物館、めっちゃ昔からある塔、歴代の王様が住んでいる宮殿を見てきた。しかし時間が足りなかったな。一日でじっくり見ることは不可能だろう。任務が終わったらまた来よう。


 俺が自分でもわかるくらいに充実感を漂わせながら拠点に向かって歩いていると、二つの人影が見えた。どうせバカップルだろう。コバレッタにもいるんだよな。どうせ、この後猿になるんだろう。まったくもって羨まし……いや、けしからん。


 バカップルは何故か拠点前にいた。そしてなかなか離れていかない。迷惑である。昔日本にカップルの爆発を願う文化があったらしい。同感である。あ、今グレネードランチャー(ドイツ製、単発式)の射程圏内に入った。持ってないけど。

 しかし、邪魔だな、こいつら。どうしようか……


 近づいていくと、何言ってるかわかるようになった。どうやら言い争いをしているらしい。そして二人の内女の方の顔が見えた。男は俺と同じ方向を向いているからわからない。まあ、野郎の顔なんざ見たくないけどな。そしてそこにいたのは予想だにしない奴だった。


「ナミン?」


「え?あ、ちょっとリン、コイツ何とかしてよ。さっきからウザいのよ」


 なんか、フランクの言葉を思い出した。


(確か、ニッキーの「あんた」と俺の「アンタ」だと何かが違うんだよな。今の「コイツ」も違和感を感じる……?)


「コイツって誰だよ」


 男が振り向いた。誰これ。ドイツ系?ってことは……


「お名前を伺っても?」


「え?ああ、リン・オデムウィンギといいます。よろしく、ヨハン・リヒトシュタイナーさん」


 リヒトシュタイナー氏は目に見えて狼狽した。


「え、何故分かったんですか?」


「何となくです」


「そうですか」


 すぐに落ち着きを取り戻した。こいつ、使えるかもしれないな。あれ?俺達ってどういう設定なんだっけ?


「じゃあ、とりあえず中へどうぞ」


「わかりました」


「私を置いてかないでよ。てか、アンタ達来たら部屋狭くなるわね」


「いや、僕は宿とってるから」


 

 部屋はやはり狭かった。ただでさえ狭いのだ。でかい男が加わったらなおさらだ。

 そして自己紹介の流れになった。ナミンは今日街で会ったときにしたらしいから、フランク、ニッキーと俺だけだ。みんなそれぞれ自分の偽りの仕事を説明していく。我々は米仏ルの合同歴史研究チームで、ヴァルター村の旧ドイツ陸軍施設の調査をする。という設定だ。さっきナミンに教えてもらった。俺は最後だ。


「さっき名前だけ紹介したが、俺はリン・オデムウィンギだ。一応リーダーとなっている。よろしくな。俺は主に旧ドイツ陸軍のある計画について研究している。悪いが、計画については話せない。事情があるんだ」


 こんな感じでよかったと思う。


「なるほど。気になりますね。では、僕はヨハン・リヒトシュタイナー。ヨハンでいいです――――」


「敬語は要らないぜ」


「そうか。じゃあそうさせてもらう。通訳だ。んで、ドイツ海軍にいたことがある。だからって訳じゃないけど、今回の仕事は楽しみにしている。よろしくな」


 適応早いな。しかし、元海軍か。この時点で軽く警戒してしまう。ニッキーが口を開いた。


「へぇ、従軍したことがあるのか。階級はどんくらいだったんだ?」


「伍長だよ」


 恐らくニッキーは会話のネタとして話を振ったのだろう。しかし、全員が余計に警戒を深めることになってしまった。

 組織の人選能力を数値化してみてみたいと思った。


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