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010 譲れないモノ

 「私が補佐よ!指令書にしっかり明記されてるわ!字が読めないの?」


「ああ、読めないぜ。何故ならばそんなものは書いてないからだ。お前こそ、自分の能力を買い被ってるんだ。どうせ、大したことないんだろ?戦闘力も、知能レベルも」


「あんただって、そんな手入れされてないナイフだけで現地に来たの?なめてんじゃないわよ」


「これをバカにしたな?殺りあってみるか?」


「望むところよ!あんたなんか素手で潰してやるわ!」


 もう知らない。頭を抱えたくなる。

 フランクとチャイティーを飲みながら喧嘩を眺めていたら、急に火の粉が降りかかってきた。


「アンタ!審判やりなさい!」


「やだよ、めんどくさい」


「アンタの唯一の知り合いが戦うのよ?それくらいしなさい!」


「理由がおかしいだろ!」


「俺は構わないぜ。リン、やってくれよ」


「はいはい。やりゃあいいんだろ。ただし、俺がルールを決める。俺に従え」


「それでいいわ」


「オーケー」


 逆らわないほうが賢明だ。

 諦めてフランクの方を見た。何かぶつぶつと呟いていた。


「ナミンが使う呼称は主に[あんた]だ。実際、ニッキーにもリン使っている。しかし、どうもリンの場合イントネーションが若干違う。英語でも少し違いがわかる。彼女らの母国語はルウイヤ語だ。ルウイヤ語なら違いは顕著に現れるだろう。何故イントネーションが違う?親しさの違いか?その可能性は高いな。しかし、親しさにも種類がある。家族のような感覚か?友人?それとも恋・・・・・・」


 静かに、視線を戻した。




 部屋に闘技場が整えられた。といっても、元々テーブルと椅子しかないので、なんのことはない。

 対峙する二人は、お互いの目を見据え、身動き一つしなかった。

 審判が口を開いた。


「寸止めにしてくれ。それで勝った方が補佐役だ。俺のジャッジには絶対に従え。後で文句を言うのは許さない。それと、任務に支障を来すと判断した場合、すぐに止めさせる。絶対に従え。いいな?」


 二人とも小さく頷く。


「んじゃ、始めっ!」


 ――ナミンが流水のように滑らかに動き出す。それに対してニクソンは野獣のような唸り声をあげ、力強く前に踏み出した。


「止め!」


 勝負は一瞬であった。


「引き分けとする」


「はぁ?どういうことだ?」


「意味わかんないわ!説明しなさいよ!」


 どちらも何もしない内に、戦いは終わっていた。時間にして一秒にも満たない。お互いに間合いを少し詰めたのみであった。




「これ以上は任務の妨げとなる、そう判断した」


「ちょっとアンタ調子のって――」


「俺のジャッジには絶対に従え。そう言ったはずだ」


「くっ!じゃあ、どっちが補佐になるのよ?」


「ナミン、あんたでいいぜ」


 突然、ニッキーが折れた。


「今の勝負、あのまま続いていれば間違いなくお前が勝ったはずだ。俺は確実に間合いを縮められていた」


 そして、


「生意気なこと言って、すまなかった。許してくれ」


 ニッキーは頭を下げた。

 これにナミンはかなり動揺した。


「うぇ?あ、うん。その、えーと・・・・・・あ、わ、わかればいいのよ!」


 こうして補佐役はナミンに決定した。


 一連の流れに一区切りついたとき、ニッキーが近寄ってきて囁いた。


「譲ってやったぜ。これでいいだろ?」


「強がるな」


「強がってなんかないさ」


「目に生気がないぞ」


「ははっ」


 そう言ってニッキーは部屋を出ていった。そして夜まで帰ってこなかった。



「このチームのモットーはどんなのがいいかな?」


「そうですねえ、リンは何か考えがあるんですか?」


「そうだな、余計な戦闘は避けたいと思う」


 ここでフランクの表情が曇った。


「そう、ですか。なるほど。確かにそうですね」


 明らかに何か感情を隠している。聞いてみよう。


「どうした?」


「いえ、別に」


「言ってみなよ」


「はぁ」


 フランクは少し迷った後、意を決したようにキリッっと顔を引き締め、こう言った。


「敵対勢力は発見次第、殲滅を図った方が良いと思います」


 絶句した。どちらかと言えば優男風味な中肉中背のイケメンからそんな言葉が飛び出してくるとは思っていたが若干ビビった。しかし、ここは譲れない。とりあえず話し合おう。


「どうしてそう思うんだ?」


「例えば、敵勢力を放置して前進して、そこで別の敵と戦闘になったとします」


「挟み撃ちか」


「可能性は高いです」


 それに、とフランクは続けた。


「殺しておいた方が楽です」


「え?」


「後に上層部に報告されません」


「おう、そうか。そうだよな」


「どう思いますか?」


「峰打ちとかはできないかな?」


「そんなに高度な技術を戦闘中に使うのは厳しいでしょうね。まあ、現地で練習すれば可能かもしれません。練習台で何人か死ぬでしょうけど」


「そうか、やってみるか」


「わかりました。他のメンバーにも通達しておきましょう」


「頼んだ」


 今のやり取りでフランクが怖くなった。彼は敵を人間だと思っていない。邪魔だから消す、それだけだと思っている。殺される側にもそれぞれ人生がある。それを考えていない。怖い。

 俺はルウイヤでも不殺(殺さず)でやって来た。それにもちゃんと理由がある。絶対にこの事は譲れない。嫌われたっていい。それでも殲滅をモットーにはしない。改めて心に誓った。


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