志賀早月〈3〉―魔法:Apology―
フィーネの口調が本当に安定しない。誰だっ、フィーネにお嬢様っぽい言葉を使わせた奴はっ!
伊野魅咲は目の前の光景に驚愕し、手に持った鞄を取り落とした。
「な……ななっ!?」
そこには見知らぬ、しかし綺麗な顔の男子生徒と楽しげに会話するフィーネがいた。
(あ、ありえんっす! フィーネさんが先輩達以外の男と喋ってるなんて!)
しばらく観察した後、魅咲は携帯電話でどこかと連絡を取り始めた。
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フィーネの説明に早月は顔をひきつらせた。
「……つまり、昨日は本当に、俺は死ぬ寸前だったと?」
「ごめんなさい、私が油断したばっかりに……」
申し訳なさそうなフィーネ。その顔に早月はなんともばつが悪くなる。ついで、ゾクリと背筋に悪寒が走る。
周りに視線を向けると、主に北和高校の男子生徒の視線が早月に突き刺さっていた。
(美人ってのはそれだけで罪というかなんというか……)
嘆息しながらもフィーネに告げる。
「謝らなくていいよ。もう終わったことだし。それより、魔法って、何?」
死ぬ寸前だったことは驚きではあったがそれよりもむしろ、魔法の存在の方が衝撃的だった。
幽霊や妖怪の類のものは早月にとって日常と言って良かった。そのため、マンティコアのような怪物の存在をすんなりと受け入れることが出来た。しかし、魔法はどうにも受け入れ難く、あまりに非現実的なものとしか思えなかった。
とはいえ、これは世間一般からしてみれば幽霊や妖怪の類も非現実的なのだが。
フィーネは早月の質問に質問で返す。
「早月さんは『魔法』ってなんだと思います?」
早月は自分の知識から魔法に関する情報を絞り出す。
「あー……基本は普通の人の力では出来ない不思議なことを起こすこと、かな。漫画やアニメ、ゲームなんかだと、魔力や気を消費して特定の現象を起こすとかね。現実的なところは薬草による治療なんかを魔法――この場合は呪術かな――として見てたよね。あとは、魔法は手間や金がかかるとかね。
まぁ、どれも半端な情報だけどね」
「そんなこと、ありません。意外と当たらずも遠からずですわ」
早月はフィーネの言葉を反芻する。
当たらずも遠からずと言うことは魔法は魔力か何かさえあれば簡単に誰でも出来てしまうものだろうか?
「じゃあ、魔力さえあれば誰でも?」
その質問はすぐさま否定される。
「誰でもってわけでは無いですわね。魔力があっても才能が無ければ使えないですから。
魔法の基本は二つ。『変換』と『支配』。
『変換』は魔力を特定の事象に変えることで、『支配』は魔力で対象を従わせることですの」
「……ってことは、自分の持つ『力』を直接現象に変えるのが『変換』で、現象を『力』で以て操るのが『支配』か」
フィーネは満足そうに頷き、続ける。
「あくまでもその二つは基本であって、例外はかなり多いのですけれどね。私なんかは『支配』系統に片寄ってるんですけれど」
(ってことは昨日のあれは鉄を魔力で『支配』して操ったってことか? じゃあ、あの血はなんだ?)
まだよく分からないことだらけだった。




