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志賀早月〈14〉―目覚め:Tag―

 少女は目を覚まし、ぼんやりとした頭のまま辺りを見回す。

 それは見覚えのない部屋だった。

(ここ、どこ? 私一体……?)

 部屋の戸が開く。

 その音に少女は飛び起き、構える。

『だれっ!?』

「? 何を言ってるのかはわからないけど、ケガ、もういいの?」

 そこにいたのは驚いた表情の早月だった。






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆






「えっと、その……ありがとうございます」

 少女は申し訳なさそうに、日本語で頭を下げる。

 やけに流暢な日本語だった。

 そのことに感心しながら、早月は椅子に腰掛ける。

「さすがに家の前で倒れられたらね。それで、本当に体は大丈夫?」

「はい、それはもう」

 早月はそれはよかった、と頷きながら、昨日の少女について思いをはせる。

 昨日、この少女は早月にしか見えていなかった。

 そして、少女が何かを呟いたことで早月以外にも見えるようになった。

 それだけではなく、先ほど少女が身構えた時に少女から昨日フィーネや自分に見えた『何か』を見た。その雰囲気は早月を襲った二人や沙七衣が魔法を使った時によく似ていた。

「それにしても、僕以外に姿が見えなかったり、ケガが治るのが早かったり、まるで魔法みたいだよね」

「……そうですね、自分でも驚きです」

 少女は何かを誤魔化すように答えた。

 早月は、それに対して何か言おうとしてやめた。

(らしくないな……)

 早月は何かを振り払うように首を振り、少女に尋ねる。

「そういえば、君の名前を聞いてなかったね」

 少女はしばらく考え、答える。

「ヘカテー。ヘカテー・ペルセイス」






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆






「ほんっとにもう、何なんですのっ!?」

「あんたさ、本当にあたしより年上?」

 深夜。この時期、北和町の郊外にある香鷺山(こうろさん)は霧が立ち込め、日中だとしても薄暗いことが多い。そのため、北和町の住人は『オバケ山』などと呼んでいた。

 そんな中、二人は逃げ出したニンフを追っていた。

 一時は確保寸前までいったのだがそこで捕り逃した挙げ句に、ニンフはフィーネをからかうのをいたく気に入ったのか、おちょくるように香鷺山まで逃げてきたのだった。

『アハハハ』

 人を小馬鹿にしたような笑い声。

 木のうろから浮かび上がったのは緑色の淡い光を放っている十一、二歳ほどの年齢の無地の白いワンピースを着た少女。

「いい加減大人しく捕まりなさいっ!!」

 時間は深夜である。しかも、山道から外れた場所。

 当然、明かりなど一つとしてなく、ましてや霧のせいで月や星の明かりも届かない。

 しかし、それでもフィーネはまるで見えているかのように素早くニンフに近寄る。

「捕まえ――」

 フィーネの腕は空を切る。

 ニンフは霧の中へと消えて再びフィーネの背後へ。そして、

『アッハハハハハ!』

 爆笑。

 ニンフの少女はフィーネを指差し、目に涙を浮かべながら爆笑しだした。

「いやあ、馬鹿にされてるねー」

 ライラはフィーネに対してしみじみと言った。

 まるで他人事のようなライラの発言にフィーネのの唇の端がピクリと引きつる。

「ライラ……。あなたね、何もしてないじゃないのっ! あなたがすぐにでもニンフを拘束してくれたらもっと早く、帰れますのにっ!」

「そうは言ってもさ、私の『【Bind】』は人外でもあのニンフみたいに肉体を持たない相手にはあんまり効かないのよ。知らなかった?」

「知りませんっ! 大体、ニンフを拘束できない封魔士なんて聞いたことありませんわっ!」

 ライラは呆れたようにため息を吐いた。

「そんな封魔士はね、とっくの昔にいなくなってるよ。情報収集くらい、しときなさいよ」

「うぐっ。そ、そんなのっ、あなた方封魔士の怠慢じゃないのっ!」

「時代は常に移ろい行くものなのよ。大体、何のために深夜帯の依頼をあんたがやってるのか思い出してみなさいよ」

「…………………そうです、そうですわ。うっかり忘れていました」

 フィーネは口角を思いっきり吊り上げた。

「くっ、ふふふふふ。私としたことが、いけませんわね」

 ライラは、あれ? と思う。どうにも雲行きが怪しい。

(何か、まずいことは……言ってない、わよね)

「ニンフ程度、などと高をくくっていたのが間違いでしたわ……」

 そう言いながら二本のナイフを取り出し、自分の背中を、腕を、腹を、掻き切った。

 その行為にライラは顔をひきつらせる。

「ちょっ、フィーネ、あたしはそんな意味で言ったわけでは……!」

『!?』

 ニンフはと言うとフィーネの突然の自傷行為に目をむく。

 一陣の風が吹き、霧が掻き消える。

 赤い月がフィーネを照らす。

「私をおちょくったこと、後悔させてあげますわ。

【My blood is creation invader.I am Imperishable Queen.I am King of Night!】」

 それは、呪文ではなく宣言。

 溢れ出ている血は勢い良く噴き出し、フィーネを紅く染める。

 次第に、フィーネに変化が現れる。

 髪が、耳が、目が、歯が。

 ニンフは理解する。

 自分が何をからかっていたのか。

 それは圧倒的な存在。

 恐怖に駆られ、一目散にその場から逃げ出す。

 ごめんなさい。

 ひたすらにそれだけを叫びながら。

 目には涙を浮かべて。



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