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かなしいめ

 ミランが帰ったあと、僕はトランクをクローゼットの中にしまうことにした。贈り主がわからないだけに、気味が悪かったのだ。

 取っ手を両手で持ち、力を込めた。

 重い。重すぎる。ミランはよくもこんなに重いものを二階まで運んだものだ。僕の力じゃ到底クローゼットまで運べない。たとえ引きずったとしても、床を傷つけるわけにはいかないし、第一、音を聞いた伯母が何事かと血相を変えて駆けつけるだろう。

 こんなに重いと、ただのトランクのはずはない。中にきっと何か入っている。

 僕がトランクの前で座り込んで思案していると、微かな音が聞こえてきた。


 カタカタカタ。


 何だろう。

 ネズミかもしれないと思い、僕は天井を見上げた。


 ガタガタッ。


 さっきよりも大きな音に僕は身をすくめた。(つば)をこくりと呑み込む。

 間違いない。音はこのトランクから聞こえた。

 僕はノックするように、トランクのふたを(こぶし)で軽く叩いてみた。すると、トランクから激しい音がしてガタガタと揺れた。

 何だ?何がこの中にいる?

 僕は勇気を出してトランクを開けることにした。手が震える。トランクはますます轟音をともなって暴れている。

「ちょっと待って、今すぐ開けてあげるから」

 僕がなだめるようにトランクに向かって話しかけると、さっきまでの振動が急に止んだ。中にいるのはやはり生き物だろうか。僕の中で、恐怖心と好奇心が入り混じっているのがわかる。


 かちり。


 鍵が開いた。僕はそうっとトランクを開ける。

 闇の中で二つの光が煌いた。目だ。やはりこのまま閉めてしまおうか。一瞬そんな考えが胸をよぎったが、僕は振り切って一気にふたを開けた。


「わぁっ!」


 僕は驚いてトランクから飛びのいた。中にいたのは犬でも猫でも、ましてや宇宙人でもない。人間だった。僕と同い年くらいの。

 男か女かはわからない。綺麗な髪をしている。世間はこれを銀髪と云うのだろうか。少し長めで、光に当たるとキラキラと輝いた。

「おい、おまえ誰?」

 いきなり話しかけられて、僕は身をすくめた。僕の方を睨みつけるその目は、透きとおる銀灰色をしている。

「ねぇ、聞いてる?」

 少年が、語気を強めて僕の頬を両手ではさんだ。そう、この子は男だ。綺麗な顔をしているが、声やら体格でわかる。僕は心の片隅で密かに落胆していたのかもしれない。返答が少し遅れた。

「はひ、きいてまふ」

「で、おまえ誰?」

 僕は答えようとしたが、彼の手がまだ僕の頬をはさんだままだったので話せそうもなかった。僕が身振りで訴えると、彼はすぐにパッと離した。

「僕はアルエット。君は?」

「俺は……、暗殺者だ。云うとおりにしないとおまえも殺す」

 急に凄みを利かせて、少年は僕に近付いた。

 暗殺者?僕とそう年端の変わらないこの少年が?僕は思わず笑い出していた。冗談だと思った。だけど、実際は笑えない冗談だった。


 ガタン、と音がしたかと思うと、僕は床に叩きつけられていた。ぶつけた頭が痺れ、抑えつけられた肩がきりきりと痛む。

「どうすれば信じてもらえる?おまえを傷つければ少しは信じるか?」

 喉元にヒヤリと冷感が走った。ナイフの金属質が僕の体温を奪ってゆく。喉が渇いて声が出せない。少年は唇を歪めて、固まる僕を(わら)っている。

「俺たちをこんなにしたのはみんなおまえたちの所為だからな」

 少年がナイフを振り下ろす。僕は目をつぶることしかできなかった。


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