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ちょっと今日は短いです。


「草間くん?」


二学期の初め、始業式と同時に行った席替え。

窓際から二列目、一番後ろの席に荷物を移動させた後。

後もう一つずれていたら窓際だったのに、と少し残念な気持ちになりながら頬杖をつく。

そのままぼうっと窓の方を向いて外を見ていた俺の視界に、入り込んできた姿。

「……深山、さん」

空いていた窓際の席に荷物を置いて俺を見下ろすその人は、深山さんだった。

深山さんは俺を見下ろすと、にっこり笑って椅子に腰を降ろす。


「やったー、隣が草間くんなら、二学期のテスト少しはよくなるかも」

見るからに浮かれている姿に、驚いていた意識を切り替えて頬杖をついたまま目を細める。

「……なんで俺が隣だと、テストがよくなるのかな」

「そんなの、分からないところは強制的に教えてもらうからに決まってるじゃない。ね? 学年一番の草間くん」

「……古文はダメだよ。俺、苦手なんだ」

「苦手って言う意味、国語辞書で引いてみれば。苦手な人が、学年十位に入るわけないじゃない」

例え、他が全て一位だとしても。

そう呟く深山さんの頬は、ふくっと膨らんでいて。

なんだか指で押したくなってくる。

……やったら、怪しい奴か。

衝動を抑えるように、頬杖を解いて椅子の背もたれに体重をかけた。


内心、この席になった事に感謝しながら。





深山 沙奈は、二年で初めて同じクラスになった同級生。

華奢な身体からは考えられないほど、勢いのある人だと思う。


隣の席になった俺は、理数系の授業が終わる度に教科書片手の深山さんに付き合わされることとなった。

根っからの文系らしく、理数系はダメらしい。

読解の仕方によって幾通りもの答えがある古文や現文より、理数系の方が分かりやすいと思うんだけど。

一度古文の話をしていたとき、源氏物語について脳内トリップを披露された。

一番好きな箇所について、それはもう昼飯時間に延々と。

いつの間にか一緒に昼飯を食っていたことに、周りに言われて気がついた。

深山さんは、恥ずかしそうに笑いながら謝っていたけれど。

俺は時間を把握して、これが石井の言っていた奴かと黙って耳を傾けていた。

だから、謝られるいわれはないわけで。

反対に、こんなに短く感じた昼休憩はなかったわけで。

少しずつ、この感情の名前に気がついてきた。



大体……

他人にあまり興味のない俺が、勉強を教えている事自体、自分でも驚くべき事だ。

今までも言われた事はあるけれど、了承したことはない。

けど――


眉を顰めて教科書と俺の説明に意識を向ける表情とか、考え込むように指先を軽く曲げて口元に当てる仕草とか……

俺の説明で問いを理解した時に見せる笑顔とか、目を離せない自分がいて。



やっぱり、そうなのかな? そんな事を思う今日この頃。


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