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「白井」


楽しみを奪われた鬱憤をすべて込めて、愛すべき抹殺対象白井の名前を口にする。

声音が変わったからか、少したじろぐ様に白井が俺を見た。


「深山さんの手を煩わせるなと、そう言ったな」

「……言った」

そこでちゃんと答える所は、やはり若さだな。

俺なら、何も言わない。

「ならば、お前が一番煩わせることになるだろう。深山さんのいない所で、ギャラリー従えて彼女の事を好きだと宣言する奴がどこにいる。あぁ、ここにいたか」

「なっ……」

そこで初めて気が付いたのか周囲に視線を巡らせて、それから口を噤んだ。


そう。

ここは、特別教室棟に向かう渡り廊下。

白井達の教室のある渡り廊下は食堂に続いているから結構人通りがあるが、こっちはそんなにいない。

けれど、全くいないわけではない。

ちょうど特別教室に移動する途中だった、うちのクラスと隣のクラスの人間が数人立ち止まってこちらを見ている。

そんな所で告白宣言している男がいたら、面白おかしく噂にするのは決定的だろう。


そこまで告げてから、小さく溜息をつく。

「深山さんにこの情報が届くのは、そんなに時間はかからないと思うけど。彼女はそれに対処せねばならないな? 人聞きの又聞きの告白について」

真っ赤になっていた顔に、青みが差してくる。

やっと状況を把握したか。


「また、俺が深山さんに面倒を見て貰っていると言っていたが、なるほど、それについては否定しない。確かに面倒を見て貰っている」

自分の言った事を肯定されたからか、顔色を悪くした白井が少し持ち直す。

が、それも一瞬。


「しかし、俺も彼女の面倒を見ているから、相殺だ。それに、不満があるなら深山さん本人から俺に言えばいい。無関係なお前が俺に言う事じゃない」

白井の表情がこわばる。

何か言おうとして失敗したのか、掠れた音が白井の喉から漏れた。



「結論から言うと……」


いい加減決着をつけて、ここを立ち去りたい。

携帯を取り出している奴がいないから、まだここにいる人間だけしかこの事は知られていない。

メールで流されて噂になる前に、終わりにしなければ。


「お前がしたことは、彼女の事を思っての行動ではなく、お前自身の感情からその対象を俺に定めてただ牽制しに来ただけ。しかも的外れな物言いで、彼女自身にも影響が出る行動を起こした。それについて、お前はどう対処する?」


突如問いかけられて、鯉のように口をぱくぱくと動かしているがまったく可愛くない。

むしろ鯉に失礼だ、今すぐその口を閉じろ。

俺は一つ溜息をついて、周囲に視線を巡らせた。


「おい、ここにいて話を聞いていた人間。この事に関しては、他言無用」


意図的に口端を上げて、目を細める。


「……全員の顔、覚えたから」



それだけ言うと、白井を見る事もなく歩き出した。

「おい、草間?」

石井が、ゆっくりとそれについてくる。

「どっかから噂流れたら、どーすんだよ草間ってば」

ガラス戸をくぐりながら、そうだな、とそれに答える。

「とりあえず、証拠を残すような間抜けな事はしないよ」


思わず上がってしまった口端に、石井が苦笑していたのは俺の表情でか。

後ろで固まっている、同級生にか。はたまたくそ迷惑な後輩にか。




とりあえず、深山さんが傷つかなければいいけど。


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