『飴と鞭』
いつも読んでいただき、ありがとうございます。
本日も更新しました。
第十四章:黄金の環太平洋
GDDO艦隊の壊滅から一ヶ月。
世界経済の地図は、塗り替えられるのではなく、「別物」に置き換わった。
東京、『PPTO(環太平洋条約機構)』本部ビル。
アジア、オセアニア、南米の一部の首脳たちが、円卓を囲んでいた。彼らの表情は、かつての怯えではなく、紅潮した興奮に包まれている。
湊は、ホログラムで浮かび上がる巨大なリング状の経済圏を指し示した。
「諸君。今日をもって、ドルとユーロの支配は終わる。我々の経済圏には、紙切れの信用など必要ない」
1. 共通デジタル通貨『J-クレジット』の発行
湊が提示したのは、日本が管理するブロックチェーン通貨『J-クレジット』だった。
この通貨の革命的な点は、金本位制ならぬ、「エネルギー本位制」であることだ。
「この通貨は、我が国の『黒点エネルギー』の供給量と直結している。1クレジットは、1キロワットの電力と等価交換される」
世界中がエネルギー不足にあえぐ中、無限のエネルギーを担保にした通貨ほど強いものはない。
為替変動リスクなど存在しない。持っているだけで電力が(=生産力が)保証される絶対通貨だ。
「参加国には、この『J-クレジット』を公式通貨として導入してもらう。その代わり……」
湊は、参加国の首脳たちを見渡した。
「我が国から、無限の電力を無償で供給しよう。君たちの国の工場を、家庭を、全て日本のエネルギーで満たしてやる」
どよめきが起きる。それは、国家予算の半分以上を占めるエネルギーコストが「ゼロ」になることを意味していた。貧しい国にとっては、一夜にして先進国への切符を手にするに等しい。
2. 物理的結合 —— 『太平洋大動脈構想』
さらに、湊の《影》たちが地図上に新たなラインを引いた。
「金だけではない。物理的にも世界を縮める」
『環太平洋リニア・チューブ網』。
日本の《影》の土木技術を総動員し、海底と海上を利用して、日本・台湾・ASEAN・オーストラリアを時速1000km超の真空チューブ列車で結ぶ巨大インフラ計画だ。
「東京で採れた技術が、数時間後にはジャカルタの工場で製品になり、シドニーの食卓に並ぶ。物流のロスを極限までゼロにする」
人も、物も、金も、血液のように日本を中心として循環する。
国境という概念は事実上消滅し、巨大な一つの「生命体」としての経済圏が誕生する。
3. 「繁栄」という名の支配
「これは植民地支配ではない」
湊は強調した。
「役割分担(最適化)だ。資源を持つ国は資源を、労働力を持つ国は労働力を、観光資源を持つ国は癒やしを提供せよ。そして日本は、それら全てを制御する『頭脳』と『心臓』になる」
参加国の首脳たちは、喜んで契約書にサインをした。
彼らは主権の一部(通貨発行権や軍事指揮権)を日本に譲り渡したが、その対価として、かつてないほどの「爆発的な好景気」を手に入れたからだ。
街は潤い、失業率は消え、国民は豊かな暮らしを謳歌する。
「日本に従えば、腹一杯食える。夢が見られる」
その事実は、どんなプロパガンダよりも強力に、各国の国民を親日家へと変えていった。
(一方、その頃 —— 旧西側諸国)
「なぜだ……なぜ、円が手に入らない……!」
ニューヨークのウォール街は、廃墟のように静まり返っていた。
PPTO諸国が『J-クレジット』経済圏に移行し、ドル決済を拒否したため、アメリカ経済は完全に孤立していた。
エネルギー価格は高騰し、スーパーの棚は空っぽ。
かつて日本に制裁を加えようとした国々は、今やハイパーインフレと物資不足の地獄に落ちていた。
テレビには、煌びやかに発展する東京やシンガポールの映像が流れている。
それを見る欧米の市民たちの目にあるのは、敵意ではない。
「羨望」と「絶望」だった。
「日本に入れてくれ……頼む、我々も仲間に入れてくれ……」
国境には、かつての先進国からPPTO経済圏への難民が押し寄せていた。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
もし「面白い」「続きが読みたい」と思っていただけましたら、
下にある【☆☆☆☆☆】マークから、評価ポイントを入れていただけると執筆の励みになります。
ブックマークもぜひよろしくお願いします!
次回は明日20:10に更新予定です。
次の話:『隷属』




