『審理』
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第十二章:最適化された幸福論
帝都の朝は、かつてない活力に満ちていた。
以前の日本に蔓延していた「閉塞感」や「将来への不安」は、そこには微塵もない。
ケース1:ある会社員の「転職」
「おめでとう。君の適性は、ここではない」
都内のオフィス。営業成績が伸びずに悩み、鬱々としていた男性社員・田中(35歳)のもとに、《影》のエージェントが現れた。
田中は「粛清されるのか」と身構えたが、差し出されたのは『辞令』だった。
「君の深層心理データと、趣味の木工細工のスキルを分析した。君が本当に輝けるのは、営業のデスクではない。——国立伝統工芸局へ行きなさい」
強制的な配置転換。しかし、それは田中が心の奥底でずっと夢見ていた仕事だった。
数ヶ月後、田中は生き生きとした表情で、海外富裕層向けの家具を作っていた。収入は前職の倍になり、何より「自分は必要とされている」という強烈な充足感があった。
湊の独裁は、国民から「選択の自由(迷い)」を奪った代わりに、「最適な人生」を与えたのだ。
「自分は何に向いているのか?」「このままでいいのか?」という現代病のような悩みは、国家が完璧な答えを出すことで解消された。
ケース2:貧困層からの「発掘」
かつてスラムだった場所は、今や巨大な『才能発掘アカデミー』となっていた。
強制収容所のような暗さはなく、そこは熱気に満ちている。
「俺は、足が速いことしか取り柄がない……」と嘆いていた少年は、国家専属のメッセンジャー兼アスリートとしてスカウトされた。
「勉強はできないが、人の嘘を見抜くのが得意」な少女は、若くして裁判所の心理分析官に抜擢された。
湊のシステムは、どんな人間も切り捨てない。
「ゴミなどいない。場所が間違っているだけだ」
その信念のもと、国民全員がパズルのピースのように、カチリとハマるべき場所に収まっていく。
それは、ある種の「究極の福祉国家」の姿だった。
第十三章:必要悪としてのレジスタンス
皇居・地下指令室。
湊は、巨大なモニターに映る「ある集団」のデータを眺めながら、満足げにワインを揺らせていた。
「陛下。地下組織『自由の灯』の構成員が、また増えました。鎮圧しますか?」
側近の言葉に、湊は首を横に振る。
「放置しろ。いや、むしろ泳がせろ。……彼らもまた、この国に必要な『免疫細胞』だ」
湊の考えは、常人の遥か先を行っていた。
完璧なシステムは、やがて停滞を生む。誰もが幸福で、誰もが満足した社会は、進化を止めてしまうからだ。
だからこそ、彼は意図的に「反逆分子」が発生する余地を残した。
* システムのエラーチェック
* レジスタンスが攻撃してくる場所=警備の穴や、政策の歪みがある場所。彼らが動くことで、湊は帝国の弱点を知り、即座に修正できる。
* 異端の才能の確保
* 湊の作った「正解のルート」に馴染めない、規格外の荒くれ者や、狂気的な天才たち。彼らをレジスタンスという「受け皿」に集めることで、いざという時にその牙を外敵(外国の残党など)に向けることができる。
「彼らは、私が『独裁者』という悪役を演じているからこそ輝く。
彼らに『打倒・神楽坂湊』という熱狂を与えろ。その熱量すらも、我が国のエネルギーに変えてやる」
モニターの中では、レジスタンスの若者たちが、帝国の監視網をかいくぐろうと必死に作戦を練っていた。
その若者たちの目は、死んでいない。むしろ、かつての無気力な若者よりも遥かにギラギラと輝いている。
「見ろ、いい目をしている。
従順な羊も必要だが、飼い慣らせない狼もまた、国の宝だ」
湊は、自分を殺そうとする者たちすら愛おしそうに見つめていた。
全ては、彼の手のひらの上。
レジスタンスとの戦いさえも、国民に活力を与え、国を強くするための「壮大なエンターテインメント(聖戦)」として演出されようとしていた。
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次回は明日20:10に更新予定です。
次の話:『飴と鞭』




