『撃沈』
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第十章:静かなる処刑と埋伏の毒
『世界民主主義防衛機構(GDDO)』の連合艦隊が、日本の排他的経済水域(EEZ)目前に迫っていた。
旗艦のブリッジでは、司令官が勝利を確信していた。「数」は圧倒的だ。日本ごときが抵抗できるはずがない。
しかし、その時だった。
帝都・皇帝指令室で、湊が静かに告げた。
「現代の戦争に、火薬は必要ない。彼らの『ライフライン』を断て」
フェーズ1:国家機能の麻痺
その瞬間、攻撃を開始したのは軍隊ではなく、湊が放った《影のウイルス》だった。
アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ……GDDO加盟国の主要都市で、同時に異変が起きた。
* 金融崩壊: ニューヨーク、ロンドンの証券取引所のサーバーが溶解。すべての銀行口座の残高が「0」と表示され、クレジットカードがただのプラスチック板と化した。
* インフラ停止: 信号機が全て赤になり、空港の管制システムがダウン。発電所が緊急停止し、先進国の首都がブラックアウトした。
「な、何が起きている!? 本国との通信が繋がりません!」
艦隊のブリッジはパニックに陥る。
家族の安否も、給料が払われる保証もない。兵士たちの戦意は、戦う前から消し飛んだ。
フェーズ2:埋伏の毒(裏切り)
さらに、湊が仕込んでいた「毒」が回る。
混乱する連合艦隊の通信回線に、ある国の首相の映像が割り込んだ。それは、GDDOの副議長を務める大国のリーダーだった。
『我が国は、これよりGDDOを離脱し、日本帝国との単独講和条約を締結する』
「なっ……馬鹿な! 裏切るのか!?」
司令官が叫ぶが、連鎖は止まらない。
次々と、他の加盟国の艦船が回頭を始める。
「実は、我が国も日本から技術供与の約束を取り付けている」
「これ以上、勝ち目のない戦いに付き合えない」
湊は、以前から彼らの弱みを握り、あるいは圧倒的な技術供与を餌に、同盟の内部に「親日派」を育成していたのだ。
強固に見えた包囲網は、内部からの裏切りによって、あっけなく瓦解した。
「ば、馬鹿な……。撃つ前から、負けているというのか……」
残されたのは、プライドだけで撤退できないアメリカを中心とした強硬派の艦隊のみ。その数は、当初の十分の一以下にまで激減していた。
第十一章:神の鉄槌
逃げ帰った国々を尻目に、残った強硬派の艦隊は、最後の悪あがきとして日本本土へミサイル発射の構えを見せた。
「日本よ、道連れだ! 貴様らの独裁を許しはしない!」
モニター越しにその様子を見ていた湊は、退屈そうに欠伸を噛み殺した。
「まだ理解していないのか。私が手を出さなかったのは、慈悲ではない。『力の差』を測らせるための猶予だったということを」
湊がゆっくりと右手を上げる。
それに呼応するように、太平洋の海面が不気味に隆起した。
「見せてやれ。国力という名の絶望を」
海が割れた。
海底から浮上したのは、潜水艦ではない。
海水そのものが黒く染まり、凝縮され、天を突くほどの巨大な《影の巨人》が姿を現したのだ。
その大きさは、敵の原子力空母すらも玩具に見えるほどだった。
「な……なんだ、あれは……!」
巨人が腕を振るう。
それだけで発生した衝撃波と津波が、艦隊を木の葉のように吹き飛ばした。
ミサイルが発射されるが、巨人の体に触れた瞬間、爆発することなく「影」の中に吸収され、消滅していく。
「物理攻撃など無意味だ。私の影は、次元そのものを喰らう」
湊が拳を握り込むと、巨人は海面を叩き割った。
巨大な渦潮が発生し、残存艦隊は悲鳴をあげる間もなく、深海へと引きずり込まれていった。
圧倒的、かつ一方的な蹂躙。
それは戦争ではなく、ただの「害虫駆除」だった。
世界中の指導者たちが、その光景をモニターで見ていた。
恐怖が、骨の髄まで染み渡る。
「日本には、勝てない」
その日、世界から日本への敵対行動は消滅した。
表向きには。
エピローグ:潜伏する意志
数ヶ月後。
世界は表面的には平穏を取り戻していた。日本を中心とした新たな秩序の下で。
だが、光が強ければ強いほど、影もまた濃くなる。
帝都の地下、廃止された旧地下鉄のさらに奥深く。
監視カメラも、《影》の目も届かないエリアに、数人の男女が集まっていた。
彼らの目は死んでいない。
「神楽坂湊は神ではない。必ず、綻びがある」
「我々は諦めない。自由を取り戻すその日まで」
レジスタンス『自由の灯』。
彼らは知っていた。絶対的な支配システムにも、バグが存在することを。
そして、そのバグとなりうる存在が、湊の最も近くにいるかもしれないことを……。
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次回は明日20:10に更新予定です。
次の話:『審理』




