『脅威』
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第八章:旧世界のあがき
スイス、ジュネーブ。
国連欧州本部の地下深くにある、地図に載らない特別会議室。
そこに集まっていたのは、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツをはじめとする欧米主要国の首脳たちだった。
重苦しい沈黙を破ったのは、アメリカ大統領だった。
「単刀直入に言おう。日本は、癌になった」
巨大なホログラムモニターに、日本の経済成長率と、軍事拡張のデータが映し出される。そのグラフは、常識的な経済学ではあり得ない垂直上昇を描いていた。
「『黒点エネルギー』による完全なエネルギー自給。レアメタルの独自生成技術。そして、あの不気味な治安の良さ……。彼らは我々の金融システムから離脱し、独自の経済圏(PPTO)で完結しようとしている」
フランス大統領が焦燥しきった顔でワイングラスを爪弾く。
「制裁は無意味だ。彼らはもう、我々の資源も通貨も必要としていない。これ以上放置すれば、世界の覇権は完全に極東の独裁者に奪われる」
「民主主義を守るためだ」
ドイツ首相が重々しく頷く。
「人権と自由を蹂躙する独裁国家を、国際社会は容認できない。……というのは建前で、本音は?」
アメリカ大統領がテーブルを拳で叩いた。
「我々のルールで管理できない国は、潰すしかないということだ」
その日、歴史的な合意が結ばれた。
国連とは異なる、対日本包囲網を目的とした軍事・経済の巨大同盟。
『世界民主主義防衛機構(GDDO)』
表向きは「日本の独裁体制からの民衆解放」を掲げているが、その実態は、既得権益を守ろうとする旧大国による、なりふり構わぬ連合軍だった。
「大西洋艦隊と、欧州連合軍をインド洋へ集結させる。数は力だ。いかにあの小僧が天才でも、世界の半分を相手には勝てまい」
第九章:宣戦布告なき開戦
帝都東京、皇帝指令室。
世界中の情報を監視する《影》のネットワークが、ジュネーブでの密談をリアルタイムで傍受していた。
「……だ、そうです。陛下」
財務長官の九条玲奈が、呆れたようにタブレットを置いた。
「『世界民主主義防衛機構』……ずいぶんと立派な名前をつけたものですね。要するに、自分たちの庭を荒らされたくない老人たちの寄り合いでしょう?」
「放置すれば、彼らは経済封鎖と同時に、インド洋ルートから武力による威圧をかけてくるだろう」
湊は、玉座から動こうともしなかった。その表情には焦りどころか、獲物がかかったことを喜ぶような嗜虐的な色が浮かんでいた。
「面白い。一国ずつ潰す手間が省けた」
湊が空中に指を走らせると、モニターに日本近海と太平洋全域の防衛ラインが表示される。
「彼らは『数は力』と信じている。古い戦争の常識だ。だが、我々には質がある」
湊の影から、ひときわ濃い闇が立ち上り、人の形を成した。それは他の《影》とは違う、将軍のような威容を誇る《影の騎士》だった。
「総員に通達せよ。
来る者は拒まない。だが、帰れると思うな」
湊は、ジュネーブの会議室の映像を指差して命令を下した。
「GDDOの艦隊が領海・領空に近づいた瞬間、我々の新兵器の実験台とする。
『数』が『個』に敗北する瞬間を、世界に見せつけてやれ」
太平洋の波が高くなる。
旧世界のプライドをかけた連合軍と、新世界の理を掲げる独裁帝国。
人類史上最大の衝突が、秒読み段階に入った。
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次回は明日20:10に更新予定です。
次の話:『撃沈』




