『富国強兵』
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第五章:欲望の循環と人材の採掘
帝都の風景は一変した。
かつて非効率の象徴だった役所や雑居ビルは、《影》によって解体され、機能美を極めた黒と銀の摩天楼へと姿を変えつつある。
湊は、国内のルールを根底から書き換えた。
1. 「帝国貢献ランク制度」の導入 —— 金こそが力
経済界の重鎮たちが集められた大広間。
湊は、彼らの目の前に新しい法律「帝国貢献税制」を提示した。
「諸君、金を持っているだけの豚になるな。金を使い、国を回せ」
システムは単純明快だ。
国に納めた納税額(貢献額)に応じて、『帝国市民ランク』が付与される。
* ランクS: 法の適用一部免除、専用レーンの使用、皇帝への謁見権。
* ランクA〜C: 公共サービスやビジネスにおける優遇措置。
「高い税を払った者が、より良いサービスを受ける。当然のことだ。特権が欲しければ稼げ。稼いで国に納めろ。その金が国を強くし、巡り巡って貴様らのビジネスチャンスになる」
企業の内部留保は吐き出され、富裕層はこぞって納税を競い始めた。
「金持ちいじめ」ではなく、「金持ちへの特権販売」に切り替えたことで、経済は爆発的な速度で循環し始めたのだ。
【贈収賄の黙認】
さらに湊は、衝撃的な布告を出す。
「私腹を肥やすための取引(贈収賄)は、国益を損なわない限り処罰しない」
例えば、道路工事の受注裏工作。
工事が遅れず、品質が高く、かつ適正価格であれば、裏で誰が誰に金を渡そうが、湊は関知しない。
「結果を出せば、過程の汚れには目を瞑る。だが……」
湊の目が鋭く光る。
「手抜き工事や、外国への技術流出など、国益を害する裏切り行為があれば、その時は金を受け取った手ごと切り落とす」
恐怖と欲望のバランスが、ビジネスマンたちを死に物狂いで働かせた。
2. メディアの「選別」と「矜恃」
テレビ局、新聞社には、《影》の監査官が送り込まれた。
ただし、検閲のためではない。「質の低い報道」を間引きするためだ。
ワイドショーのスタジオで、ゴシップや芸能人の不倫を嬉々として報じていたキャスターが、生放送中に《影》によってスタジオからつまみ出された。
「他人のプライバシーを覗き見るだけの低俗な番組は、資源の無駄だ」
湊は、残った報道陣に告げる。
「本来のマスメディアとしての仕事をしろ。真実を暴き、権力を監視し(ただし私への反逆を除く)、国民の知性を高める記事を書け」
徹底的な取材に基づいたドキュメンタリーや、高度な経済分析を行ったメディアには、国から莫大な報奨金と、独占取材権が与えられた。
三流ゴシップ誌は廃刊に追い込まれ、メディアは「真実への探求」というかつての矜恃を取り戻し、帝国の威光を高めるための高度な情報機関へと変貌した。
3. 「人材採掘所」—— 貧困層への劇薬
そして、最も過激な改革が行われた。スラム街やネットカフェ難民の強制収容である。
人々はトラックに乗せられ、郊外に建設された巨大施設「人材採掘所」へと送り込まれた。
「人権侵害だ!」と叫ぶ活動家はいなくなった。彼らもそこに放り込まれたからだ。
だが、そこは単なる強制収容所ではなかった。
施設内では、徹底的な適性検査と、極限のスパルタ教育が行われる。
衣食住は保証されるが、娯楽はない。あるのは「学ぶこと」と「己の才能を示すこと」のみ。
数週間後。
皇帝の執務室に、一人の少年が連れてこられた。
昨日まではその日暮らしのホームレスだった、痩せこけた17歳の少年だ。しかし、その目は死んでいない。
「聞いたぞ。採掘所のサイバーセキュリティ試験で、歴代記録を塗り替えたそうだな」
湊が声をかけると、少年は震えながら頷いた。
湊は、少年の首にかかっていた「貧困層タグ」を引きちぎり、代わりに『帝国技術局・局長代理』のバッジを投げ渡した。
「過去は問わない。家柄も学歴も関係ない。お前のその『脳』だけが欲しい。今日からお前が、国のサイバー防衛のトップだ」
少年の目に涙が溢れる。社会の底辺で誰にも見向きされなかった才能が、皇帝の一存で国家の頂点へと引き上げられたのだ。
このニュースは施設内に瞬く間に広まった。
「ここから出たければ、成り上がりたければ、能力を示せ!」
絶望していた貧困層の目に、狂気じみた「夢」が宿る。
彼らはもはや、ただの弱者ではない。ハングリー精神の塊となった、帝国の予備戦力となったのだ。
こうして、日本は「強者が特権を謳歌し、弱者が強者を目指して牙を研ぐ」、極めてシンプルで強力な独裁国家へと変貌しました。
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