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夏の天使が勝手に舞い降りたので、私のメイドにしたった

作者: 石畑サン輔
掲載日:2026/01/21


 某住宅街。

 その一軒家にて。

 真夏の日中に、突如として極光が発生した。


「どうも、舞い降りました。天使です」


 目の前に突然、人が現れた。

 実に美しい変人だった。

 それも、背中に二つの翼が生えた一級品の変人だ。


 セミロングの青髪。

 ノースリーブローブの服装。

 彼女の頭の上には、光輪が浮いている――

 

「え、誰……?」


 私は花美。

 さっきまでソファーでくつろぎながら、スイカをむしゃむしゃと食していた高校一年生。


 両親は私を置いて、1週間の海外旅行へ。

 昼間のど真ん中に、一人でボケーっとしていた時だった。


 どこからともなく現れた変人に、挨拶をかまされた。

 スイカを食べていた手をつい止めてしまう。

 かわりに、かつてない混乱を味わっている。


「ちょうど両親が海外旅行へ出かけ、たまたま空きができた少女の家を見つけました。

 なので、こうして舞い降りた次第です」


「はぁ、そうですか。おかえり願いますわ」


 とりあえず、自分のお家に帰ってもらうとしよう。

 こっちの事情を把握してるのすごく怖いよ。

 

 それに、私の今の格好は薄着だ。

 ダラダラしてるところを、まじまじと見ないでほしい。

 すごく恥ずかしいんですけど。

 

「おいしそうですね、ワタシの分はありますか? 小腹が空いたのでいただきたいのですが」


「いやあげないよ? 早く帰ってもらえる?」


 初対面なのに厚かましいな。

 自称天使は、人様の家をキョロキョロと見渡す。


 と、彼女の目にスイカが留まった。

 ……もしかして食べたいとか?


「スイカには、夏の天使と呼ばれるものがあるらしいですね。ワタシにぴったりです」


「知らんがな、はよ帰れ」


 やかましいことを言ってくる天使だな。

 

 天使とかいう割には、机とかカーテンに翼が引っかかって詰まってるし。

 繊細さが皆無なんですけど。

 

「一般的な住宅ですね。平凡は素晴らしいものです、これからも努力を惜しまないように」


「わたしの声聞こえてないの……? あと何その評価」


「ワタシの寝る部屋は、あとで決めさせてもらいましょう」


 さっきから私、無視されてる?

 一方的に話を進めて……なんなのコイツは。


「さて。ワタシはそうですね、サマエルと呼んでください。

 わかりますか? サマーの天使ですよ」


「へ〜……それ本名?」


「なわけないでしょう、ユーモアって知ってます?」


「聞こえてんじゃんっ、なんで無視すんの!?

 そっちこそ不法侵入って言葉知らんのか!」


 仮称サマエル、絶対私のこと舐めてる。

 

 サマエルはピンッと人差し指を立てた。


「いいですか、ハナミさん。ワタシたち天使の仕事は、か弱き人間を守護すること。

 アナタは今、ワタシというちょ〜強固なセキュリティを手に入れたのです」


「えっと、間に合ってるよ? うちのセキュリティ会社は十分仕事してるから。

 ……待って、私まだ名乗ってないんだけど?」


「天使ですので、聞かずともわかります」


「こわ……」


 だいたい、何で私の家なの。

 せっかく高校生になって、初めての夏休みを満喫していたのに。


 邪魔されたくない。

 面倒なのは嫌なので、はやく帰ってもらおう。


「はーしょうがないですね、そんなにいうなら豪華な特典もつけますよ」


「特典?」


 サマエルはまた人差し指をひょいと立て、続けて中指と薬指もあげた。


「アナタの好きな願いを一つ。

 ……まあお詫びとして、おまけで三つまでなら叶えて差し上げます」


「ふ、ふーん? じゃあ、話だけは聞いてあげようかな」


 そういうことは先に言ってもらわなきゃ。

 七つの玉とか、魔人のランプは集めなくてもいい?


「スーパーエンジェルパワーで、なんでもは無理ですが、可能な限りの願いを聞きましょう。

 そしたらワタシを1週間ここに泊めてください」


 破格の交換条件だ。

 私はソファーから立って、真面目に彼女と向き合う。


「サマエルは何で泊めてほしいの? 家は?」


「それが追い出されてしまいましてね。仕事をちょこっとサボったらこのザマですよ」


 ……なんとなく、追い出した側が正解だと思った。


「大天使様が課したおしおき期間は1週間。

 都合の良い宿泊施設を探していたら、ここにたどり着いたのです」


「勝手に人ん家をホテルにしないでくれる?」


 サマエルの性格は多分、適当なんだ。

 だからこっちの都合は無視する。

 そのスーパーエンジェルパワーとやらを、軽く振りかざすんだ。


 ……まあ、1週間ならいいか。


「よしわかった、泊めてあげる。そのかわり、願い叶えてくれるんだよね?」


「ええ。実現可能な範囲に限りますが」


「じゃあ、100万円ちょうだい。所持金少なくて困ってたんだ」


 一つ目の願いはシンプルな大金にした。

 三つもあるのだから、手始めにこれを叶えてもらおう。


「わかりました、ではこちらを」


 サマエルが手を私に差し出した。

 

 すると、彼女の手から光が集まる。

 光の中から、薄茶色の1万円札の束が現れた。


「え、すごい! それどこから出したの!?」


 私は嬉々として、その札束を受け取った。

 プリントされた偉人とこの光沢。

 間違いなく本物だ!


「近くにあった銀行から頂戴してきました」


「へー! 天使って万能なんだねぇ……。

 ん? ちょっと待って、今なんて言ったの??」


 頂戴してきた?


 ニコリと笑ったサマエル。

 私は手に持っていた札束を落としそうになった。


「大丈夫です、バレないよう細工もしてあります。

 銀行の金庫から、100万円がいきなり行方をくらませただけ……」


「こ、これ盗んだお金?」


 犯罪臭がごまかせていない大金でした。

 それで納得する銀行なんてないでしょ。


「無からは何も生み出せませんからね。必要なものはどこかから持ってこなければなりません。

 さ、一つ目の願いは叶えましたよ」


「いやダメダメ、返してきて! 罪悪感すごくて使えないから!」


 これを受け取ってしまったらまずい。

 人として、何か大切な物を失いそう。

 

 私は押しつけるように、100万円をサマエルへ返した。


「それが二つ目の願いですか?」


 こ、コイツ!

 顔がニマニマしてる!

 一つ目の願い、わかっていて止めなかったんだ!

 

 説明足らずなのも、もしかしてわざと!?

 ザ定番みたいなセリフ使って――


「……返してきて。この願いでいいから」


「実に善良で小市民ですね。はい、元ある場所に戻しましたよ」


 札束はまた光に包まれて、姿を消した。

 

 人間の善性に上手く付け込まれた気がする。

 あっという間に、願いを二つ叶えたということになってしまった。


「残り願いは一つですよ、よく考えてくださいね。

 ああ、口が渇いたので飲み物をいただきます」


 私はサマエルを目で追う。

 水道で水を飲むのかと、黙って様子を見ていたのだけど――


「えぇ……」


 サマエルは冷蔵庫に歩いていった。

 そして平気で、中身を漁る。

 持ち出したのは――コーラだった。

 

 彼女は私の座っていたソファーに腰を下ろす。

 コーラをグビグビとラッパ飲みし始めた。


「はーっ! これおいしいですね!」


「……あんた、ホントに天使なんだよね?」


 甚だ疑問だ。

 私の天使像を土足で踏み荒らす彼女。

 それを果たして天使と認めてよいものか。


「失礼な、見てくださいこの立派な羽と輪っかを!

 それに容姿! どう見ても麗しい、正真正銘の天使でしょう?」


 容姿は確かに。

 私が聞いているのは、その図々しいさとだらしなさなんだけど……。


「ねえ、願い事ってどこまで融通きくの?」


「スーパーのおつかいから世界征服まで、幅広く注文受け付けておりますよ〜。

 時間干渉系はNG、残虐非道なお願いもできればご遠慮しますね」


「世界征服はいいんだ……」


 サマエルの言う通り、願いを叶えられる範囲は広い。

 残り一つとなると、悩むなぁ。


「うーん、一生困らないくらいの食べ放題とか?

 いやそれとも、みんなを想って世界平和……?」


 持続性があるような効果がいいかな?

 100万円みたいな物ではなくて、私自身にほどほどなメリットがあるようなものを。


「パッと思いついたものでいいのですよ。あむっ」


 サマエルは飲んだコーラのボトルを置いて言った。

 今度は机に置いてあった、私のスイカを一口かじる。


「想像力を働かせずとも、ふと頭によぎったものが自分のほしいもの。

 遠慮なんてせず、もぐもぐ……」


 自分がほしいもの、か。


 パッと出たのは、生活が楽になる願いがいい。

 あと、私を舐めてるこの駄天使に一泡吹かせてやりたい。

 私がダラダラしていられて、サマエルに好き放題させない。

 

 それが両立する願いは――


 

「そうだ。私、メイドほしい」


 

 直感的に思いついた願いを言った。

 

「メイド? あぁ、お手伝いのことですね?

 わかりました、今連れてきて――」


 サマエルの体が光に包まれ出した。


 言葉が足りなかったね。

 私はどこかに行こうとするサマエルを引き留めた。


「ちがうちがう、あんたがやるの。メイド」


「はい?」


 勝手に連れてくる必要がなくて、無償で身の回りの世話をしてくれる誰か。

 人ではないけど、適任はちょうど目の前にいる。


「私は、天使のメイドがほしいって言ったの」


「……ま、まさか、ワタシをご指名?」


 私はニマニマと笑いかけて、深く頷いた。



続きもありますが、好評でしたらあげたいと思います

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