夏の天使が勝手に舞い降りたので、私のメイドにしたった
某住宅街。
その一軒家にて。
真夏の日中に、突如として極光が発生した。
「どうも、舞い降りました。天使です」
目の前に突然、人が現れた。
実に美しい変人だった。
それも、背中に二つの翼が生えた一級品の変人だ。
セミロングの青髪。
ノースリーブローブの服装。
彼女の頭の上には、光輪が浮いている――
「え、誰……?」
私は花美。
さっきまでソファーでくつろぎながら、スイカをむしゃむしゃと食していた高校一年生。
両親は私を置いて、1週間の海外旅行へ。
昼間のど真ん中に、一人でボケーっとしていた時だった。
どこからともなく現れた変人に、挨拶をかまされた。
スイカを食べていた手をつい止めてしまう。
かわりに、かつてない混乱を味わっている。
「ちょうど両親が海外旅行へ出かけ、たまたま空きができた少女の家を見つけました。
なので、こうして舞い降りた次第です」
「はぁ、そうですか。おかえり願いますわ」
とりあえず、自分のお家に帰ってもらうとしよう。
こっちの事情を把握してるのすごく怖いよ。
それに、私の今の格好は薄着だ。
ダラダラしてるところを、まじまじと見ないでほしい。
すごく恥ずかしいんですけど。
「おいしそうですね、ワタシの分はありますか? 小腹が空いたのでいただきたいのですが」
「いやあげないよ? 早く帰ってもらえる?」
初対面なのに厚かましいな。
自称天使は、人様の家をキョロキョロと見渡す。
と、彼女の目にスイカが留まった。
……もしかして食べたいとか?
「スイカには、夏の天使と呼ばれるものがあるらしいですね。ワタシにぴったりです」
「知らんがな、はよ帰れ」
やかましいことを言ってくる天使だな。
天使とかいう割には、机とかカーテンに翼が引っかかって詰まってるし。
繊細さが皆無なんですけど。
「一般的な住宅ですね。平凡は素晴らしいものです、これからも努力を惜しまないように」
「わたしの声聞こえてないの……? あと何その評価」
「ワタシの寝る部屋は、あとで決めさせてもらいましょう」
さっきから私、無視されてる?
一方的に話を進めて……なんなのコイツは。
「さて。ワタシはそうですね、サマエルと呼んでください。
わかりますか? サマーの天使ですよ」
「へ〜……それ本名?」
「なわけないでしょう、ユーモアって知ってます?」
「聞こえてんじゃんっ、なんで無視すんの!?
そっちこそ不法侵入って言葉知らんのか!」
仮称サマエル、絶対私のこと舐めてる。
サマエルはピンッと人差し指を立てた。
「いいですか、ハナミさん。ワタシたち天使の仕事は、か弱き人間を守護すること。
アナタは今、ワタシというちょ〜強固なセキュリティを手に入れたのです」
「えっと、間に合ってるよ? うちのセキュリティ会社は十分仕事してるから。
……待って、私まだ名乗ってないんだけど?」
「天使ですので、聞かずともわかります」
「こわ……」
だいたい、何で私の家なの。
せっかく高校生になって、初めての夏休みを満喫していたのに。
邪魔されたくない。
面倒なのは嫌なので、はやく帰ってもらおう。
「はーしょうがないですね、そんなにいうなら豪華な特典もつけますよ」
「特典?」
サマエルはまた人差し指をひょいと立て、続けて中指と薬指もあげた。
「アナタの好きな願いを一つ。
……まあお詫びとして、おまけで三つまでなら叶えて差し上げます」
「ふ、ふーん? じゃあ、話だけは聞いてあげようかな」
そういうことは先に言ってもらわなきゃ。
七つの玉とか、魔人のランプは集めなくてもいい?
「スーパーエンジェルパワーで、なんでもは無理ですが、可能な限りの願いを聞きましょう。
そしたらワタシを1週間ここに泊めてください」
破格の交換条件だ。
私はソファーから立って、真面目に彼女と向き合う。
「サマエルは何で泊めてほしいの? 家は?」
「それが追い出されてしまいましてね。仕事をちょこっとサボったらこのザマですよ」
……なんとなく、追い出した側が正解だと思った。
「大天使様が課したおしおき期間は1週間。
都合の良い宿泊施設を探していたら、ここにたどり着いたのです」
「勝手に人ん家をホテルにしないでくれる?」
サマエルの性格は多分、適当なんだ。
だからこっちの都合は無視する。
そのスーパーエンジェルパワーとやらを、軽く振りかざすんだ。
……まあ、1週間ならいいか。
「よしわかった、泊めてあげる。そのかわり、願い叶えてくれるんだよね?」
「ええ。実現可能な範囲に限りますが」
「じゃあ、100万円ちょうだい。所持金少なくて困ってたんだ」
一つ目の願いはシンプルな大金にした。
三つもあるのだから、手始めにこれを叶えてもらおう。
「わかりました、ではこちらを」
サマエルが手を私に差し出した。
すると、彼女の手から光が集まる。
光の中から、薄茶色の1万円札の束が現れた。
「え、すごい! それどこから出したの!?」
私は嬉々として、その札束を受け取った。
プリントされた偉人とこの光沢。
間違いなく本物だ!
「近くにあった銀行から頂戴してきました」
「へー! 天使って万能なんだねぇ……。
ん? ちょっと待って、今なんて言ったの??」
頂戴してきた?
ニコリと笑ったサマエル。
私は手に持っていた札束を落としそうになった。
「大丈夫です、バレないよう細工もしてあります。
銀行の金庫から、100万円がいきなり行方をくらませただけ……」
「こ、これ盗んだお金?」
犯罪臭がごまかせていない大金でした。
それで納得する銀行なんてないでしょ。
「無からは何も生み出せませんからね。必要なものはどこかから持ってこなければなりません。
さ、一つ目の願いは叶えましたよ」
「いやダメダメ、返してきて! 罪悪感すごくて使えないから!」
これを受け取ってしまったらまずい。
人として、何か大切な物を失いそう。
私は押しつけるように、100万円をサマエルへ返した。
「それが二つ目の願いですか?」
こ、コイツ!
顔がニマニマしてる!
一つ目の願い、わかっていて止めなかったんだ!
説明足らずなのも、もしかしてわざと!?
ザ定番みたいなセリフ使って――
「……返してきて。この願いでいいから」
「実に善良で小市民ですね。はい、元ある場所に戻しましたよ」
札束はまた光に包まれて、姿を消した。
人間の善性に上手く付け込まれた気がする。
あっという間に、願いを二つ叶えたということになってしまった。
「残り願いは一つですよ、よく考えてくださいね。
ああ、口が渇いたので飲み物をいただきます」
私はサマエルを目で追う。
水道で水を飲むのかと、黙って様子を見ていたのだけど――
「えぇ……」
サマエルは冷蔵庫に歩いていった。
そして平気で、中身を漁る。
持ち出したのは――コーラだった。
彼女は私の座っていたソファーに腰を下ろす。
コーラをグビグビとラッパ飲みし始めた。
「はーっ! これおいしいですね!」
「……あんた、ホントに天使なんだよね?」
甚だ疑問だ。
私の天使像を土足で踏み荒らす彼女。
それを果たして天使と認めてよいものか。
「失礼な、見てくださいこの立派な羽と輪っかを!
それに容姿! どう見ても麗しい、正真正銘の天使でしょう?」
容姿は確かに。
私が聞いているのは、その図々しいさとだらしなさなんだけど……。
「ねえ、願い事ってどこまで融通きくの?」
「スーパーのおつかいから世界征服まで、幅広く注文受け付けておりますよ〜。
時間干渉系はNG、残虐非道なお願いもできればご遠慮しますね」
「世界征服はいいんだ……」
サマエルの言う通り、願いを叶えられる範囲は広い。
残り一つとなると、悩むなぁ。
「うーん、一生困らないくらいの食べ放題とか?
いやそれとも、みんなを想って世界平和……?」
持続性があるような効果がいいかな?
100万円みたいな物ではなくて、私自身にほどほどなメリットがあるようなものを。
「パッと思いついたものでいいのですよ。あむっ」
サマエルは飲んだコーラのボトルを置いて言った。
今度は机に置いてあった、私のスイカを一口かじる。
「想像力を働かせずとも、ふと頭によぎったものが自分のほしいもの。
遠慮なんてせず、もぐもぐ……」
自分がほしいもの、か。
パッと出たのは、生活が楽になる願いがいい。
あと、私を舐めてるこの駄天使に一泡吹かせてやりたい。
私がダラダラしていられて、サマエルに好き放題させない。
それが両立する願いは――
「そうだ。私、メイドほしい」
直感的に思いついた願いを言った。
「メイド? あぁ、お手伝いのことですね?
わかりました、今連れてきて――」
サマエルの体が光に包まれ出した。
言葉が足りなかったね。
私はどこかに行こうとするサマエルを引き留めた。
「ちがうちがう、あんたがやるの。メイド」
「はい?」
勝手に連れてくる必要がなくて、無償で身の回りの世話をしてくれる誰か。
人ではないけど、適任はちょうど目の前にいる。
「私は、天使のメイドがほしいって言ったの」
「……ま、まさか、ワタシをご指名?」
私はニマニマと笑いかけて、深く頷いた。
続きもありますが、好評でしたらあげたいと思います




