みじかい小説 / 036 / フルマラソン
恋人のヒナに誘われて、今日、僕は人生ではじめてジムにやってきた。
どのマシンをどのタイミングで使ったらいいのかもわからなかったので、恥をしのんでヒナに教わる。
「デスクワークばかりじゃあすぐにメタボになっちゃうよ。健太には健康的でいてほしいの」とヒナは言う。
惚れた弱みもあるが、今回ばかりはヒナが正しい、僕はおとなしく言うことをきく。
本格的にジムに通うとなると、専用のスポーツウェアが欲しい。
まずは形を整えたいのだ。
というわけでヒナと一緒にスポーツ店へと向かった。
店内を見渡して驚いたのだが、今は本当におしゃれなウェアがたくさんある。
僕が学生だった頃は学校のジャージみたいなのしかなかったのに。
ウェアは適当に見繕って、シューズは気合を入れてマラソン用のものを購入した。
帰宅して早速パソコンで筋トレについて調べだす。
そうして好奇心のままにサイトをいくつかはしごしていると、長距離走について書かれたサイトに行き着いた。
「初心者からフルマラソンをめざそう」という文字がおどっている。
どうせ達成できないのだからと、勉強でも仕事でも、昔から最初にたてる目標はとても高いものが多かった僕である。
ソファでスマホをいじっているヒナに「フルマラソンて大変?」とアホな質問をしてみる。
するとヒナは「やったことないけど、いいじゃん、今から二人で完走めざしてみようよ」とすぐに乗り気になってくれた。
早速サイトを見ながら二人でウォーキングとランニングのスケジュールを決める。
まずは30分、ウォーキングとランニングを交互に行い無理のない範囲でスタートする。
ヒナは元々陸上部だったので大丈夫だが、問題は僕だ。
「一緒に頑張ろうね」
とヒナが言う。
僕は単純なので、このフルマラソンへの挑戦がすでに達成できた気になる。
その日の夕方、さっそくヒナと二人、走りに出たが、僕は30分という時間が果てしなく長いことを知るのだった。
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