4/6
4,揺らぎと沈黙
ある土曜日、莉子は久々に何も投稿せず、一日を終えた。
朝ごはんに焼いたトーストも、昼の散歩中に見た初夏の紫陽花も、夕飯の冷しゃぶも、カメラを向けることはなかった。スマホを手に取ることすら、なぜか億劫だった。
「別に、今日みたいな日は投稿しなくても……」
そうつぶやいて、ベッドに寝転がった。
けれど、心の奥に空洞のような違和感が残った。何かを忘れたような、誰かを置き去りにしたような。
翌日、手帳を開いても、言葉が浮かんでこなかった。心の声が掴めない感覚。
「……私、どこにいるんだろう?」
不意にそう思ってしまった。
記録しない日がある。それは自由であると同時に、自分がどこかへ流されていくような恐れも孕んでいた。
その夜、莉子は何も書かれていない手帳のページを見つめながら、ぽつりとペンを走らせた。
《今日はなにも記録できなかった。でも、たぶん、そんな日も大事なんだと思う。》
沈黙の一日を、自分の人生の一部として受け入れる。それもまた、「記録」だった。
少し泣いた。
でも、少し肩の力も抜けた。