美少女同行は危機! 我が聖域の隣が彼女の指定席!?
B組教室への道は、サハラ砂漠を横断するよりも長く感じられた。
星くづるさん——この何とも言えない光を放つ美少女——が、俺の斜め前方約一メートルのところを歩いている。彼女の歩き方は軽やかで、ストレートの黒髪の先端が足取りに合わせて微かに揺れ、無言のリズムのようだった。周囲から時折注がれる視線——彼女に感嘆するものも、俺たちという奇妙な組み合わせに困惑するものも——が、細い針のように背中に刺さる。俺は空気の中に縮こまろうと必死で、床が突然割れて自分を飲み込んでくれないかと祈っていた。
「やっと着いた……」
一年B組のプレートを見た時、俺は嬉し泣きしそうになった——やっとこの息苦しい同行から解放される!
教室にはもうちらほらと人が座っていた。見知らぬ顔、少し緊張したり興奮したりした会話の声。よし、普通だ、これこそ俺みたいな凡人にふさわしい場所だ……待てよ、星くづるさんはどうする?
彼女が入ったら絶対に大騒ぎになるだろう?
まず彼女に入ってもらって、その後に影のようにこっそり入るべきか?この完璧な「透明人間潜入作戦」を実行する間もなく、星くづるは教室の入り口で足を止め、くるりと体を向け直した。澄んだ琥珀色の瞳が再び俺を捉え、優しい問いかけを帯びていた:
「北沢さん、どこに座りたいですか?」
「えっ?!」 またか?!
なんでまたこんなストレートな質問を俺にぶつけてくるんだ?
脳みそが一瞬でオーバーヒートした。座る場所?
そんなこと考える必要あるか?
存在感ゼロで世界との安全な距離を保ちたい俺のような人間にとって、答えは一つしかないだろう?
「最、最後列!窓際の席です!」 俺はほとんど反射的に叫び、声は緊張で一オクターブ上がり、教室の数人の生徒がこちらを見た。あああ! 超恥ずかしい!
でもあそこが俺の聖域なんだ!
人を観察しても過度に気づかれず、いつでも窓の外に目をやり、すべての社交的嵐から逃げ込める完璧な避難所なんだ!
「ああ、いい席ですね」星くづるはうなずき、相変わらず捉えどころのない優しい笑みを浮かべた。そして、彼女は俺をその場で石化させ、血液を逆流させるような行動に出た。
彼女は俺が指し示したあの——窓際の、最後列の席へと真っ直ぐ歩いていった。そして、俺が恐怖の目で見つめる中、ごく自然に……その席の隣の席に腰を下ろしたのだ!
前でも後ろでもない!真!横!だ!
俺の聖域!俺の避難所の隣に、超美少女が座ってる?!
震え上がっているハムスターをスポットライトの下に置くのと何が違うんだ?!
夢見ていた平穏(かつ安全)な高校生活が、入学初日、最初の一瞬で「ドカン」という音と共に、「星くづる」という名の隕石に粉々に打ち砕かれる光景が脳裏に浮かんだ!
「ドッ――」
頭の中が真っ白になり、全身の血液が一気に頭頂部に昇った気がした。頬は目玉焼きが焼けるほど熱い。俺は金縛りに遭った操り人形のように、硬直したままその窓際の席に、同手同脚で移動し、座った。お尻が椅子に触れた瞬間、自分を点にまで縮こまらせてしまいたい衝動に駆られた。できれば窓ガラスの反射の中に消えてしまいたい。終わった終わった、このスタート…中学の時よりも地獄だ!
隣のこの美少女、いったい何を考えてるんだ? 周りの好奇の目、探るような視線、それに…妬みすら含んだ目を、本当に気づいてないのか?
気まずい空気が凝縮して実体となり、俺を押し潰さんばかりだった。俺は必死に机の新しい木目を見つめ、そこに花でも咲かせようとするかのように、時間が早く過ぎるか世界が今すぐ滅びてくれないかと祈った。
その時、教室の前ドアからまた一人が入ってきた。
茶色のサイドポニーテールの女の子で、前髪は少しぼさぼさだったが、何だか自由奔放な活気を感じさせた。リュックサックを背負い、そこには…ん?
そのアニメキャラクターのストラップ、確か有名なBL作品のキャラだろ?
彼女はキョロキョロと教室を見渡し、ついに…俺の前の空席に目を留めた?
いや、待て!
こっちに来る!
俺の目の前の椅子をさっさと引っ張り、ドサッと座った!
今日は何だ、「北沢琉悠包囲網デー」か?!
前に未知の腐女子(ストラップから推測)、隣には謎の美少女、挟み撃ちじゃないか!
前の席の女の子が振り向いた。とても明るい顔つきで、キラキラした目をして、一切の警戒心のない笑顔を見せている。彼女は俺を一瞥し、隣の星くづるを見て、それからごく自然にポケットから包装の凝ったチョコレートを二つ取り出した。
「ほら、どうぞ!」
彼女はチョコレートを俺と星くづるにそれぞれ差し出し、笑顔を輝かせた。「初めまして!私は散世ちなつ(ちるせ ちなつ)!ちなつのチョコを受け取ったら、ちなつと友達になってね!」この自称の仕方…さすが個性的だ。
星くづるはこの直球的な交友方法を良しとするようで、微笑みながらごく自然にチョコレートを受け取った。「ありがとうございます、散世さん。私は星くづるです。よろしくお願いします」彼女の対応は相変わらず完璧無欠だった。
チョコレートが俺の目の前に差し出された。包装紙の可愛い模様が、俺の狼狽ぶりを嘲笑っているように見えた。友達?
受け取ったら友達になる?
そんな単純明快なのか?
それに…なぜ俺なんだ?
騙されやすそうに見えるからか? それとも隣に星くづるさんが座っているから、ついでに「放射能」を浴びたってことか?
俺の視線が散世ちなつの熱意に満ちた顔を掠め、横で静かに待つ星くづるの姿を一瞥した。言いようのない苛立ちと強烈な自己嫌悪が込み上げてきた。中学のあの冷たい「知り合いでしたっけ?」という声が、脳裏で鋭く響き始めた。
ダメだ!
このままだと、またあの受け身で全てを受け入れ、簡単に捨てられる「負け犬」北沢琉悠に戻ってしまう!
イヤだ!
捲土重来はどうした? その第一歩は、このわけのわからない「友情チョコ」を拒絶することから始めるんだ!
心臓が肋骨を突き破らんばかりに胸の中で暴れ狂っていた。俺は深く息を吸い込み、十六年の人生で培った全ての勇気を振り絞り、猛然と顔を上げ、期待に満ちた散世ちなつの瞳をまっすぐ見据えた。声は緊張で震えていたが、異常に鮮明だった:
「そ…その!申し訳ありません! 散世さん!こ…このチョコレートは、受け取れません!」
空気が凍りついた。
散世ちなつの笑顔が一瞬で固まり、目を大きく見開き、信じられないという感情が満ちていた。
隣から星くづるが投げかける、少し驚いたような視線を感じ取れた。
俺の頬は燃えるように熱く、手のひらは汗でびっしょりだった。
断った…本当に断ったんだ!
心臓がストライキでも起こしそうなほど狂ったように鼓動し、耳鳴りがブンブンと響いていたが、脊椎に奇妙な、かすかな電流が走った。
この感覚…悪くないかも?
少なくとも、完全に受け身で運命を受け入れるだけじゃなくなった。
捲土重来への道…勝率は0%から…1%くらいには上がったかな?