運命の掲示板! 謎の美少女が俺の名前を知ってる!?
「高校の恋は必ず失敗」なんてフラグを立てるのはまだ早すぎる。ひょっとしたら、俺みたいなタイプが好きな女の子が、高校には本当にいるかもしれない!
うん、そうに違いない!
見てろよ、俺、北沢琉悠は、捲土重来を果たしてみせる!
そんな(根拠ゼロの)意気込みを胸に、俺は足を速めた。華恋の「負け犬」発言がまだ耳に残っているが、今日の俺は、伝説の下北沢国立高校の正門に、一分早く到着したのだ!
そう、一分の差だ!
腕時計に表示された時刻を見て、言いようのない達成感が込み上げてきた。普段は時間ギリギリか、遅刻常習犯の俺にとって、人生でも稀なハイライトシーンだ!校門のそばに立つ、樹齢百年近いと噂の桜の木さえも、俺の時間厳守にうなずいているように感じられた。
「ふん、華恋のあのガキがこれを見たら、顎が外れるだろうな」俺は得意げに制服の襟を直し、空気さえも新鮮に感じられた。「入学初日から遅刻」という呪いを破り、捲土重来への道はまずまずのスタートを切れたのか?
そんな小さな勝利感を抱きしめながら、俺は掲示板へ向かう人混みに紛れた。一年生のクラス分けの名簿はびっしりと並び、「北沢琉悠」の四文字を探す。B組のエリアを目で追い…あった。
B組だ。予想通り、特に驚きもない。
ちょうどこの混雑した場所から離れようとした時、ひとつの影が軽やかに近づいてきて、俺の隣に立った。同じくB組の名簿の前で足を止めたのだ。ほのかな、どこか花の香りと清潔な石鹸の香りを混ぜたような匂いが漂ってくる。
思わず、そちらをチラリと見た。
――その瞬間、心臓を無形の手でぎゅっと掴まれたような衝撃が走った。
そこには…美少女がいた。
艶やかな黒髪が滝のように流れ、先端はほのかな天然パーマ。肌は透き通るほど白く、朝日に照らされて光さえも放っているように見えた。最も印象的だったのはその瞳。珍しい、澄み切った琥珀色で、今は掲示板を真剣に見つめ、長いまつ毛が蝶の羽のようにかすかに震えている。横顔のラインは優美で繊細、鼻筋は通っていて、淡いピンク色の唇をわずかに結んでいた。体にフィットした女子制服が細いウエストを強調し、スカートの裾からは均整の取れた、黒の膝上ソックスに包まれた脚が伸びている。
道行く俺のような陰キャオタクですら、思わず二度見してしまい、すぐに目をそらして自らの醜さに打ちのめされるタイプだ。正真正銘の美少女、しかもハイスペック級!
彼女も自分の名前を見つけたようで、小さな顎を軽くうなずかせた。そして、予告もなく、彼女の視線が俺に向けられた。
琥珀色の瞳がまっすぐに俺を捉えた。
俺は一瞬で石化した!やばい!盗み見がバレた!
気持ち悪い痴漢だと思われるんじゃないか?
嫌悪の表情を浮かべるんじゃないか?すぐに謝るべきか?
それとも知らんぷりするべきか?
頭の中は真っ白で、体は錆びついたロボットのように動かない。
しかし、予想していた冷たい視線は訪れなかった。それどころか、彼女の口元がわずかに上向き、極めて優しい弧を描き、その美しい瞳には柔らかな笑みが浮かんでいた。
「北沢さん?」彼女の声は透き通っていて、山間の小川のように心地よく、自然な親しみを帯びていた。
……え?
こ、この人…俺の名前を知ってる!?
瞳孔地震が起こり、脳内CPUが完全にオーバーヒートした。名前?
どうして名前がわかるんだ!?
華恋が大切にしている限定版フィギュアを賭けてもいい、俺たちは絶対に、絶対に会ったことなんてない!
俺みたいな存在感ゼロの人間が、こんなレベルの美少女に名前を覚えられるわけがない!
華恋が突然俺を一番尊敬する兄だと認めるよりもありえないことだ!
「は、はい?」声は渇ききったようにガラガラで、明らかな震えと信じられないという気持ちがにじみ出ていた。顔の筋肉も完全に硬直して、きっとバカみたいな表情をしているに違いない。
「こんにちは、私は星く づるです」 彼女は相変わらず微笑みながら、優雅に軽く会釈した。「同じクラスですね、B組です」
「あ…ええ、は、はい!よろしくお願いします!」
俺はほぼ反射的に九十度の最敬礼をし、声の大きさに自分でもびっくりした。終わった終わった、この反応、明らかにやりすぎだ!
世間知らずのバカみたいだ! きっと心の中で笑ってるに決まってる! 北沢琉悠、お前はやっぱり救いようのない負け犬だ!
しかし、星くづるさん(心の中ではすでに敬称をつけていた)は、何も不快そうな様子は見せず、むしろ俺の反応が面白かったらしく、そっと口元を手で押さえ、笑みを一層深くした。
「北沢さん、時間に正確ですね」 彼女は優しい口調で言い、俺の腕時計に視線を走らせた。「初日から早く登校できるなんて、すごいですよ」
彼女…気づいてたのか? それに…褒めてくれた?
奇妙な温かい感情と、さらに深まる困惑が心の奥底から込み上げてきた。これはおかしい! 優しすぎる!
まったく理屈に合わない!
彼女のような美少女が、初めて会った、しかも陰キャ丸出しの俺に対して、なぜこんなに親切なんだ?
まさか…まさか新型のいじめの手口か? まずは友好的に近づいて、後で大勢の前で徹底的に辱めるつもり?
それとも…隠しカメラのドッキリ番組か!?
俺の妄想レーダーが一気にフル稼働した。周囲を警戒しながら見回し、隠されたカメラや、こっそり笑っている共犯者を探そうとした。しかし、周りにはクラスを探す他の新入生たちだけ、何も異常はない。
「あの…星、星くづるさん…俺たち…前に会ったことありますか?」 俺は生まれて初めての勇気を振り絞り、慎重に探りを入れた。声はまだ震えていた。
星くづるは、その美しい琥珀色の瞳をぱちぱちとさせ、俺の質問に少し驚いたようだったが、すぐにまたあの穏やかな笑顔に戻った。「いいえ、今日が初めてですよ。でも、これからは同級生ですね」
初めて…初めて会うのに、こんなに自然に話しかけてくる?
それに名前も知ってる?
これが現実的にありえるのか!? 俺の頭はまだ狂ったように理由を探し続けていた(例えば彼女が幼なじみで俺が記憶喪失になったとか)、そんな時、星くづるは自然に歩き出した。
「では、北沢さん」彼女は軽く体をひねり、スカートの裾が優雅な弧を描き、相変わらず信じられないほど優しい口調で言った。「そろそろ時間ですから、一緒に教室に行きませんか?」
「い、一緒に!?」俺は完全に呆然とした。
「ええ」彼女はうなずき、笑顔は純粋そのものだった。「ちょうど同じ方向ですし、それに…一人で新しい教室に行くのは、ちょっと…緊張しますから」
彼女はうつむき加減になり、長いまつ毛が目の下に小さな陰を作った。その様子は、絶妙な加減の、守ってあげたくなるような恥じらいを帯びていた。
……緊張?
彼女が!?
冗談じゃない!
こっちより一万倍落ち着いて見えるじゃないか!
絶対に口実だ!
罠に決まってる!
俺の理性は必死に警報を鳴らしていた:断れ!
早く断れ!
普通じゃないことが起きたら、必ず裏がある!
こんな美少女と一緒に歩いたら、絶対に標的にされる、他の男子の嫉妬の視線で蜂の巣になるぞ!
それに意図が全く読めない、危険すぎる!
しかし、俺の口は脳に完全に反逆した。
「……は、はい」声はかすかで蚊の鳴くようなものだった。
終わった!
体が独断で動いてしまった!
女性(特に美少女)に対する、深く根付いた、断れないという悪い癖が発動した!こんな自分が嫌いだ!
「よかった」星くづるの笑顔が一瞬で輝きを増し、まるで何か大切な約束を得たかのようだった。「それでは、行きましょう、北沢さん」
彼女は軽やかにくるりと向きを変え、校舎の方へ歩き出した。黒髪が朝の光の中でつややかな光沢を放ち、後ろ姿は細くて美しかった。
俺は、金縛りに遭って突然解かれた操り人形のように、硬直し、同手同脚で彼女の後を追い、約一メートルの「安全距離」を保った。心臓は胸の中で太鼓のようにドクンドクンと狂ったように打ち、興奮ではなく、巨大な、理解不能な困惑と消えない警戒心のせいだった。
なぜ俺なんだ?
彼女は一体何がしたいんだ?
この優しさは、本物なのか? それとも飴で包まれた…硫酸なのか?
無数の疑問符が混乱した脳裏に渦巻いていた。捲土重来の意気込みはまだ響いているようだったが、入学初日、教室に向かうこの短い道のりだけで、予想の一万倍も険しく不気味に感じられた。そばを歩く星くづるという名の美少女は、俺の淀んだ生活に投げ込まれた、輝くけれども吉と出るか凶と出るかわからない隕石のようだった。
B組教室への道が、これほどまでに長く、未知の…危機感に満ちていると感じたことは、かつてなかった。