序:偶然
模擬戦ができる場所へやってきた。今回は障害物のない場所を選ぶ。
アウターVSアウターを想定して作られているらしく、かなりの広さかつ、かなりの強度があるらしい。
「嬢ちゃん、準備できたか?」
「もちろんだ。」
バルバトスが大剣を担いで言った。武器類を持っていない場合、ここで借りれるらしい。大きさは…180程度か?バルバトスとほぼ同じ大きさだ。横はバルバトスが勝っているが。
「刀は使わないのか?」
「今回は、使わないでいいのかの検証だ。」
…気づけば、詠唱をしなくても使えるようになった。魔力を込め、光る刀を生成する。
「なるほど、魔術で武器を…」
「これでどこまで戦えるか…の、検証だ。」
「ま、何かしら収穫があるようにしてやるか。」
「…来な。」
これまでの経験と、前の私の記憶を辿る。
「――【星海を越えて】!」
背後に飛ぶ。予想通り、バルバトスはこちらを向いた。
「ありきたりな―「【灯光】!」おっ!」
…外した。移動とほぼ同時に発動した筈なんだが、バルバトスはそれより先に顔を背けた。構えてた筈…なんだがな。横から来た大剣を蹴飛ばして二歩離れる。
「ちと遅いんじゃないか?」
「常時光ってろと?」
「それもいいんじゃないか?」
冗談言え
――再度近づく。互いの間合いに入り、上から振り落とされた大剣を刀で受け流し…うわ、削がれた…ゼロ距離、もはやただの棒を手放し
「【拡大】!」
胴体を殴る…鉄?
「まだまだ、力が足りないんじゃないか?」
…何か防具を着ているわけじゃない……純粋な筋肉かこれ?
横から大剣が迫る。【結界光】を展開…よし、一発防いだ。回避しきれない時の防御ならこの調整でよさそうだ…あ、割れた。
少し跳ね、側転するように大剣を躱す。着地、少し後退。もう一度攻撃を……正面から剣が迫る。突きか!避けて…拳?
「ふんっ!」
「ぐぅっ!?」
…痛い……すんでの所で防御…辛うじてか。直撃した左腕に力が入らない上、
感覚がない。折れたか?…右は大丈夫そうだ。問題ない。一度【星海を越えて】で離れる。
「…今の、何した?」
「投げた獲物に釣られてる間に殴った。」
投げた剣を拾いながら答えてくれた。…アウターじゃないんだから当たり前だが、素でこの威力か。――【構築光】を構える。…魔力が集まってるのを探知できる奴なら、素手に見えないんだろうな。
「まあ、安心しな。ここだったら死にかけになっても何とかなる。」
「…できれば、医者には掛かりたくないんだが。」
「病院は早いうちに慣れるのがいいと思うぞ。」
ごもっとも。
向こうから詰めてきた。…構えていた【構築光】を刀型に。
上段振り下ろし、【結界光】で受ける。剣が結界に引っかかっている内に間合いを詰め、剣を持っている右肘を狙って…振る。この刀じゃ切れないし、片手で力が入らない以上、部位破壊に徹するべきだろう。
当たる…と思ったら、結界を起点に私の頭上を越え、後ろに回られた。
跳ねたのか?
「お前、本当にインナーか?」
「鍛えてるからな!」
その一言で締めるな。
今度は剣を横に構えて…来ない。私が構えるのを待っているのか?…乗った。右手で刀を持ち腰に添え、居合の構えを取る。…恐らくかなり険しくなっているであろう私の表情とは違い、バルバトスの表情は、まだ全力では無いらしく、にやりと笑っている。
私には、余裕がない。実際左腕は使い物になっていな……あれ、動く。…好都合だ。左手も刀に添える。
「…【拡大】」
足りない筋力を【拡大】で補強…この刀での斬るイメージを捨て、叩く方向へ頭を切り替える。…バルバトスが突っ込んで来た……だが、私はあくまで迎撃に徹する。左腕は動くとはいえ、まだ感覚が麻痺している。
…右下から大剣が迫る…切っ先が私に当たる前に、刀を抜き、バルバトスの右手首を叩く。…この程度で剣は離さないか。だが、剣の速度は僅かに落ちた。刀を手放し、再度前へ。
「獲物も無しにどうするつもりだい?」
「…これもかなり試した」
【星座に手を伸ばす】…出せる物の大きさを絞りつつ、大量の魔力を使う事で、一秒以内での刀の出し入れが可能になった。再度居合、左腰から右肩へ袈裟斬りに…やっと傷が付いたか。
「やるな嬢ちゃん。だが…」
バルバトスが剣を手放しt…
「俺の間合いだ。」
まずい、鯖折り………骨が折れっ………
「――【星海を越えて】!!」
僅かに…ほんの僅かに動かせた右手で、発動できて、よかった。受け身が取れず、地面に頭を擦る。…完全に、折られる前に、抜け出せた。危うく死ぬかと……
「…まだ、やるかい?」
「……降参だ。もう動けない。」
多分、ぎりぎり骨は折られていないだろうが、すでに体力が限界だ。
…その後、また亮さんの所へ行った…が、回復したのはバルバトスだけだった。……どういう訳か、私の体には傷がほぼ無かったらしい。気づけば、左手の麻痺も回復していたし、模擬戦場を出るころには普通に歩けるようにもなっていた。…どういう事だ?
「まあ、俺も回復は早いほうだ。そんなに気にする事でも無いだろ?」
「…そうだな。」
治るならそれに越した事は無い。おそらく、バルバトスがかなり手加減してくれていたのだろう。
…そうこうしている内に宿についた。…まだ昼だし、もう少し魔術の練習でもしようか。
今回の反省点は…やはり、経験不足が全てか?相手の膂力が強いのにゼロ距離で戦ったんだ。その結果が鯖折り…怪我こそ無かったが、かなり痛かった…押しつぶされるかと……接近戦もいいが、ああいう相手には、遠距離攻撃ができると有利に戦えそうなんだな……何とかできないだろうか?
――【構築光】とかで、遠距離武器とか作れないだろうか?弓とか銃とか……
銃は無理だろうな、パーツが細かすぎる。なら弓…だとすると、問題は、あそこまでしなやかなものが作れるかどうかだな。
試しに………おお、弓らしきものはできた。弦を引いて……千切れた。この感じ、粘土みたいだ。
もう一度、しなやかさを………
夕暮れまで試した結果、【構築光】にしなやかさを求めるのは間違っている事が分かった。無理だ、どう足掻いてもしなやかに出来なかった。
「渚ちゃー…うわ、どしたの?こんなに散らかして……」
気づけば、部屋が光る物体で埋め尽くされていた。
「どうやって片付けようか…」
「とりあえず、【星座に手を伸ばす】に仕舞っといたら?」
「…なら、そうするよ……」
【星座に手を伸ばす】を展開…なんだか疲れて、仕舞う気力も無い……勝手に入ってくれないかな……
……そんな事を思っていたら………作り出した物が、勝手に【星座に手を伸ばす】へと入っていった……え?
「…わお、初めて見た。」
「……こんな事できたのか。」
…また、検証したい事が増えた。