街歩き
暗い道を抜けた。――強い光に目が眩む。…徐々に光に目が慣れてきたのか、風景が見えてくる。
…石畳の道を、人々が行き交っている。少し先には、病院?のような建物があり、人が出たり入ったり、忙しないような、でも、どこか落ち着いた空気だ。…暖かいからかな
「…いい雰囲気だな。」
「……嬢ちゃん、少しこの街、見て回るか?」
「いいのか?」
「ああ、当分俺はやる事があるからな。ちと時間でも潰しといてくれ。」
「ブエルとウァサゴも来るか?」
「俺はいい。別で用事がある。」
「私も、ちょっと用事が。」
「わかった。」
「それじゃ、また昼頃にここで集合!」
さて…まずはこの街の端に行ってみるか。
【星海を越えて】で行ってもいいが…行きぐらい、風景を楽しもうか。
石畳からあぜ道に変わり、徐々に建物が少なくなってきた。周囲にはビニールハウスや、畑が広がっている。農家の人達が楽し気に談笑する声が聞こえる。…意外と平和なんだな。
畑が少なくなってきた。代わりに木が増え、道の横では川が流れ…なんだか……落ち着く。
……とても、長閑だ。外には天使が居るというのに、一つ間違えば死ぬかもしれないというのに……他の人達もこうなのだろうか。
「ねえねえ!」
急に、川の方から声がした。
「何か用か?」
「今時間ある?」
「…まあ、あるが…」
「だったら、ちょっと手伝ってくれない?」
…まあいいか。靴を脱いで、川に足をつける。…つめたい
「で?何を手伝えばいいんだ?」
「そこの岩陰、たぶんザリガニがいるの。」
確かに、川の真ん中辺りに大きな岩があるな。……ザリガニ?
「私が向こうから回り込むから、あなたはこっち抑えて。」
「…そんなに手の込んだ事をする必要があるのか?」
「うん!いいから手伝って!」
…お互い、配置についた。
「3!2!1!行くよ!」
彼女が岩に突撃する。……すると、勢いよくザリガニが……すごく大きなザリガニが、飛び出してきた。
岩より一回り小さいぐらい…うわこっち来た!
「けん制してけん制!逃げられると面倒だから!」
「――了解!【結界光】!!」
結界を張って道を塞ぐ。ちょっと調整して展開速度を上げてみたが……悪くないな。テストできてよかった。……と思っていたら割られた。どうやらかなり強度が下がっているらしい。ザリガニ程度に割られるか…
「ナイス時間稼ぎ!」
その隙に彼女が後ろから捕まえて……うわ、バックドロップ……ザリガニが泡吹いてる…
「ふぃー…お手伝いありがとね!ところで君、魔術師だったんだ」
「ああ。あまり多くは使えないが」
「あーそういえば、名前言ってなかったね。私は愛宕 唯って言うの!あなたの名前は?」
「…渚だ」
「渚ちゃん!協力ありがとね!それじゃ私はこの辺で!またねー!」
そう言って彼女…唯さんは、巨大ザリガニを担いでどこかへ行ってしまった。…外には生き物がいなかったが、案外いるんだな。あそこまで大きいとは思わなかったが。
しかし、何故あそこまで大きくなったんだ?魔力が絡んでいたりするんだろうか。
…色々あったが、ついに結界の端まで来た。結界の向こうまで風景は続いているが、手を伸ばしても結界に阻まれるばかり。…結界の根元に何かある……なんだこの機械?…これが結界を発生させている…のだろうか?少し沿って歩いてみるか。
「―――?――!―――!?」
「――!!―――!――――?」
……誰かと誰かが話す声がする。内容までは聞き取れないが…言い争っているのか?もう少し近づけば……
「―――!!!―――!」
気づかれたか?…走り去っていった……何だったんだ?…一応、話し声のした方に行ってみるか。
話し声のした所に来てみたが…誰かが居た痕跡しか無いな。何をしようとしていたのかもよく分からん。
…結界の根本にあった機械が、破損している?何かに叩かれたような跡だな…魔術的な物ではない…おそらく金槌やノミの様な工具…徐々に修復されているから一先ず問題はなさそうだが……大事なのは、誰かが壊そうとした…?何が目的だ?
気づけば集合の時間になっていた。戻るか。
「【星海を越えて】」
少しだけ……煌めく星々が陰っていたような…気がした。
「戻った。」
「お、嬢ちゃんが一番乗りか。」
「ブエルとウァサゴは?」
「二人なら…お、来たか。」
上から二人が下りてきた。なんで上から?
「ブエル、お前もう少し体力つけろ。」
「う…うるさ…い…」
ウァサゴは別れた時と特に変わっていないが…ブエルは、息も絶え絶えというか、疲れ果てているのか?
「二人とも、競争でもしてきたのか?」
「まあな。こいつの体力でも試してやろうと思って、軽く走ってきた。だが、ここまで貧弱だとはおもわなんだ」
…悪い笑みだ。
「走る゛…っだって……屋根の上は…ないって…手加…減も無…しに……」
「大丈夫か、ブエル?」
「ま、まあ…だいじょぶ…ちょっ…とだけ……まって……」
「ぜ、【回復の祈祷】……ふぅ…」
…目に見えて体力が回復した。
「回復系の魔術か?」
「そ。まあ、私はそこまで得意じゃないけど。」
得意じゃないのにそこまで回復するのか。
「亮に話はつけたぞ。今なら空いてるそうだ。」
「おっけー。じゃあ、行きましょ。」
「どこにだ?」
「病院。前にも話したけど、渚ちゃんの体、たぶんかなり妙な事になってるの。」
「少なくとも碌に飲まず食わずなのはちと異常だろ?てなわけで検査だ。」
「…なんか、変なことされないだろうな。」
「大丈夫!そこの人、私の知り合いだから。信頼もしてるし。」
「…具体的にどういう事をされるのかとか…」
「探知系魔術で渚ちゃんの身体見るだけよ。レントゲンとかMRIみたいな?」
なるほど?…だったらレントゲンとかMRIでいいんじゃ?
「そうもいかん。魔力はレントゲンじゃ探知できないからな。どう考えてもお前には魔力が介入してるだろ?」
「思考を読むな。…まあ、わかった。…行こう。」
…胡散臭かったら逃げるか。






