試行錯誤、長い旅路
「渚ちゃんお疲れ様!ウァサゴ、もう少し手加減しなよ。」
「だいぶ手加減したぞ」
「嬢ちゃんもウァサゴ相手によく粘った!最後の閃光、俺だったら食らってたぞ!」
「…お前だったら目つぶしされても関係ないだろ」
「まあな!」
………いい手だと思ったんだがな。
夜も更けてきた。考え事をするにはちょうどいい。
…敗因は、経験不足、手数不足…か?多分だがウァサゴは相当戦闘経験がある。対して私は…今の私は経験がない。が、手数に関しては…どうにかできるかもしれない。なら、どうにもならない事より、どうにかできる事をやろう。
馬車を抜け出す。ここら一帯は草原が広がっているだけで、特に障害物はない…だだっ広い平野だ。
今日は…半月か。少し暗いな。
「【灯光】」
掌に少しだけ光を灯す。…これ、私の周りで浮かせられるのか?……うん、できるな。
…手数。高速で避けられるなら、避けられないような飽和攻撃で叩く…とかか?だが、私の魔術や第六感じゃそこまでの攻撃………
…できるか?
「【構築光】」
光る粘土ができた。つつくと、粘土の様な手触りだ。これの強度を上げてみる。
…干からびた粘土のような手触りだ。ちょっと違うな。
少し調整して……岩のような手触りだ。いいぞ。次は形状を…
「【構築光】」
光る石ころができた。つつくと、岩のような手触りだ。よしよし。次はもう少し武器っぽく…
光る細長い岩ができた。振ってみると…折れた……岩から離れるか。鉄っぽく…
光る棒ができた。振ってみると…悪くない。もう一つ作って、ぶつけてみる……悪くないな。形状を整えて…
「【構築光】」
光る刀ができた。ぶつけてみると…よし、どちらも折れてない。さて、切れ味は…
…相手にすらならなかった、まったく切れ味が無い。…まさか草刈りすらできないとは……
もう少し、もう少しせめて殺傷力を…
…気づけば、東の空が明るくなりだした。一晩かけた結論として、【構築光】で作った武器に鋭さは無い、という事が分かった。だが、鞘から抜刀する必要が無いのはかなり大きい…と、思う。強度自体は中々悪くないし、使い捨てができるのはかなりいい。
「さて、問題の【セトラ】だ。」
朝餉の時間になり、私の【セトラ】についての話になった。
「多分、過去に例のない奴よね?」
「そもそも【セトラ】で過去に例のある奴なんかほぼ無いぞ」
「うーん……渚ちゃん、事典に効果とか書いてなかった?」
「それが…」
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【名も無き彗星】
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「何も書かれてないんだ」
「あらま…どうしようか。」
「ブエルなら何とかできないか?」
「その事典は人によって見え方が違う。お前以外の奴がその事典を見てもお前の【セトラ】は読めん。」
「うーん……悩んでてもしょうがない!ぶっつけ本番で行くよ!」
「…まあ、結局そうなるよな。」
「了解」
「【結界光】!」
私を覆うように結界が広がっていく。そして結界の中に居るのは私だけ。
「渚ちゃん!事故ったら多分死ぬから!がんばって!」
「まずそうなら止めるが、まず間に合わん。頑張れよ」
「がんばれよー嬢ちゃん」
他人事だからってそこまで気軽に……まあ、いいか。
「じゃ、始めるぞ。」
…事前に聞いた通りなら、発動方法は魔術と同じらしいし、事故が起こることもそうそう無い…らしい。
文字化けしてる事例はブエルでも聞いたことがないそうだ。……本当に大丈夫なんだろうな?
…腹、括るか。
「………【名も無き彗星】!」
……………?
「何も…起きてない?」
「嬢ちゃん!何か変化は?」
「…特に無い、と思う。」
「訳が分からん。」
その後、二三度試したが、結果は変わらなかった。
…魔術を使うために捻出した魔力が、一切消耗されずに手元に残った。つまり、そもそも魔術が発動していない…のか?
「なーんで不発なのよ」
「さあな。」
「まあ…使えないなら、それはそれで構わないさ。」
「さて、先を急ぐぞ。明日にはファディカまで行きたい。」
「りょーかい。ちょっと加速させとく。」
―――次の日
あの辺り…焦点が合わない?というか、興味を削がれるような感覚が…
「あの辺り、何かあるのか?」
「うん。認識阻害結界ってのが張られてるの。ま、実際は【結界光】と【闇夜の導き】を合わせただけだけどね。」
私の知らない魔術だ。認識阻害の効果はここから来ているのだろうか。
「結界が張られているのに入れるのか?」
「ここからじゃちと見えづらいが、少し行くと関所があってな。そこを通る。」
なるほど?
「そこに天使が来たりはしないのか?」
「関所から都市に入る為の通路はかなり狭いからな。天使が大量に来てもそこなら捌ける。」
「ま、都市に入られてもアウトサイダーの中隊長大隊長いるし、都市が陥落する事は早々ないかな。」
少し進んだところにかなり広い窪地があった。ブエル曰く、これが関所らしい。
「結界は…張られてねえな。よし、進んでくれ。」
馬車が窪地に入る……
「…なんか徐々に沈んでないか?」
「あー言うの忘れてた。ここ、昇降機になっててね。この地面見せかけだけなの。」
「で、今下の昇降機が下がってるから俺達も下がってるって訳だ。」
鋼鉄の壁と共に、点滅する赤い光が上へ昇っていく。魔術的な力というより、機械の力か。
「ブエル、馬車仕舞えるか?」
「りょーかい。皆おりてー」
馬車から降りたら、ブエルが収納に馬車を入れた。こんな大きい物も仕舞えるのか。
「…なあブエル、【星座に手を伸ばす】の仕舞える大きさの限界はどの程度だ?」
「うーん…その時使った魔力によるかな。沢山魔力使えばその分大きな物しまえるし。あ、生命体は無理だよ。」
「天使はしまえるのか?」
「……確か…無理だったかな?」
あれも生命体判定なのか
昇降機が止まった。地下だからか少し暗い。
換気扇が効いているのか、それとも地下だからなのか、少し肌寒い。
「クレインの皆様ですね」
急に目の前に男が出てきた。
「ああ、ちょっと亮に用があってな。」
「バルバトス様に、ウァサゴ様、ブエル様に…其方の方は?」
「少し前に拾った新入りだ。」
「成程、お名前は?」
「渚だ。よろしく」
「此方こそ。では渚様、此方を。」
手帳?のような物を渡された。
「渚様のパスポートです。これを持っていれば、殆どの都市に入る事ができます。バルバトス様、ひとまず所属はクレインにしておきましたが、問題ないでしょうか?」
「それでいい。ありがとな。」
「いえいえ。それでは皆様、良い旅を。」
彼に見送られて、暗い道を進む。
「もう少し明るくできないのかな?」
「別に躓く事も無いだろ」
「雰囲気よ雰囲気!てか、こっから坂道だし。下手すりゃ転ぶよ?」
「…もしかして、ファディカって地上にあるのか?」
「そうだ。農耕をするのに地下じゃちと都合が悪い。それに病人には太陽の光が無いとだ。」
「病院はここにしかないのか?」
「診療所程度ならどこの都市にでもあるが、ちゃんとした病院はここぐらいだな。」
「…途中途中止まっていたとはいえ、二日三日も病人を連れ歩くのは危険じゃないか?」
「馬鹿言え、地上じゃなきゃ鉄道が使える。それに万が一の時は魔術での移動だってある。…魔術のほうは当てにならんが」
「"今は"、ね。」
「なんの話だ?」
「あー気にしなくていいの。私達には関係ない事だから。」
…関係ないと言うには少し、顔が怖いぞ。
そうこうしているうちに、通路の出口が見えてきた。